【プロフィール】
2007年、東京大学卒業。東京大学医学部附属病院、慶應義塾大学大学院、国立がん研究センター東病院で血液腫瘍の臨床と研究に従事。その後、プライマリ・ケア医として内科全般に携わり、2014年よりナビタスクリニック川崎で診療。北里大学東洋医学総合研究所漢方研修プログラム修了。3児の母で育児にも奮闘中。 総合内科専門医、漢方専門医、漢方家庭医、医学博士。
漢方は、病気だけでなく人を診る——プロによる「自分に合った処方」が肝心」
漢方との出会いは、プライマリ・ケア医として内科全般に携わるようになってからでした。本格的に学ぶため、あらためて北里大学東洋医学総合研究所(現:北里研究所病院 漢方鍼灸治療センター)で漢方外来の研修を受けました。
漢方薬は、さまざまな効能をもつ生薬(しょうやく:植物の葉、茎、根などや鉱物、動物のなかで薬効があるとされる一部分を加工したもの)を組み合わせた薬です。
漢方治療では、症状や病気ごとに薬を決めるのでなく、患者さん本人の体質や状態も考慮して処方が行われます。ですから、たとえすぐには西洋医学的診断がつかない患者さんでも、目の前の患者さんと向き合うことで、一人ひとりに合わせた治療ができるメリットがあります。
現在、健康保険で使える医療用の漢方薬は148種類ありますが、いかにその人に合った漢方薬を選べるかが肝心です。それには漢方専門医に相談するのが一番です。ドラッグストアや薬局で手に入る一般用の漢方薬もありますが、一般的に安全なイメージのある漢方薬にも副作用はあり、安全性を考慮して、有効成分が医療用漢方薬の3分の2程度に減量されているものもあります。
診療では西洋医学的な診断と最新治療を基本としつつ、西洋医学で診断名がつかなかったり、対処が難しい病状に対して漢方薬を併用することで、患者さんにとって真に最適な治療を心がけています。
漢方の強みを活かしながら、西洋医療もバランスよくとり入れます
例えば、風邪でも、西洋薬で対症療法を行うだけでなく、体を温めるべきか冷やすべきか、目の前の患者さんの体質と状態をふまえて判断し、漢方も処方します。最近では、新型コロナウイルス感染症の後遺症(Long COVID)改善にも漢方薬が用いられます。
また冷え症は、西洋医学では対応が難しい症状の一つです。それが漢方では、四肢末端型、全身型、寒熱錯雑(かんねつさくざつ)といったタイプに分類した上で、熱の産生を促す附子(ぶし)や乾姜(かんきょう)などの生薬を含む、多数の漢方薬が準備されています。
このところ季節の変わり目でご相談が増えている「気象病」(気圧や湿度の変化で頭痛や関節痛など体の不調が発生するもの)や、二日酔いなども、漢方は相性がよいようです。多くは血行や体内の水分の巡りをよくすることで、症状が軽快します。
一方で、漢方だけでなく、いわゆる新薬や補助器具を併用することで改善が望める症状もあります。
片頭痛の新しいタイプの注射薬(CGRP関連製剤)は、1ヶ月に1回の注射で、大きな副作用なく片頭痛の発生を抑えます。従来の予防薬の内服では効果が見られず、3ヶ月以上、月に4日以上頭痛が発生して日常生活に支障をきたしている18歳以上の方に処方することができます。
また、だるさを訴えて漢方を希望されて受診されていた患者様は、ノドの構造を診ることで、結果的に睡眠時無呼吸が判明したこともありました。かつては入院検査が必要でしたが、今は自宅でできる検査もあります。夜間の呼吸を補助するCPAP治療でだるさも大きく改善しました。
片頭痛 注射治療薬(外部サイト)
エムガルティ®
アジョビ®
アイモビーグ®
「女性診療プラクティショナー」として更年期など女性のお悩みに向き合う
さらに私自身も、年齢を重ねていく中で、女性特有の体の変化を意識するようになってきました。女性患者様でもご相談は少なくありません。よりよい医療を提供するために「女性診療プラクティショナー」の認定資格も取得しました。
更年期障害やPMS(月経前症候群)から、腹痛、頻尿、性感染症、HPVワクチンに至るまで、必要十分なテーマについて、一定の知識を得た医師であることを示す資格です。女性医療の向上を目的として設立された「女性医療ネットワーク」の提供する所定の講義を受講し、認定を受けます。
更年期障害でも、「ホルモン療法はちょっとハードルが高い」という方には、漢方薬をよくお出ししています。また、例えば、PMSによるイライラや情緒不安定など精神症状に対しては、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を服用する方法に効果が認められています。
西洋医学と東洋医学のバランスをとりながら、患者様それぞれの生活や社会的背景にも配慮して診療を行っています。心身の気がかりについて、小さなことでもぜひお気軽にお聞かせください。