「風疹」の患者が急増しています。妊婦さんがかかると、赤ちゃんに難聴や心臓疾患などの障害の可能性も! なぜ大人が要注意なのでしょう?
(写真は、昨日放送のNHKニュース7。ナビタスクリニック・久住医師が取材を受けました。放送内容はこちら)
【まとめ】
☆首都圏で風疹患者が急増中。既に去年の合計の2倍の患者数。特に30~50代男性が多いワケは?
☆妊娠初期の女性がかかると、胎児が「先天性風疹症候群」に。難聴、心臓疾患、白内障のリスクが・・・。
☆予防にはMRワクチンを。30~50代男性と妊娠希望女性、さらに妊婦さんの周囲の人たちも予防接種を受けましょう。
首都圏で5年ぶりに患者増加の兆し? 特に妊婦さんは注意して。
東京と千葉を中心とする首都圏で、この7~8月にかけて、風疹患者が急増しています。国立感染症研究所は、今月に入って2回、「首都圏における風疹急増に関する緊急情報」を発表しました。
それによると、今年1月から8月19日までの患者数は全国で184人。昨年1年間の患者数93人と比べても、既にほぼ2倍に達しています。地域別には千葉県(62人)と東京都(47人)で患者が多く、埼玉県11人、神奈川県9人。4都県で、患者全体の70%を占めています。
風疹の患者数はここ数年、減少傾向でした。厚労省も、2014年には「早期に先天性風疹症候群の発生をなくすとともに、平成 32 年度までに風疹の排除を達成すること」という指針を示していました。
それなのに、ここにきて急増中!
実は、風疹は2013年に大流行しています。その時は、1年間で 14,344 人の患者が報告され、この流行に関連した先天性風疹症候群が 45 人確認されました。それ以来、5年ぶりの流行の兆し、というわけです。
ところで、「先天性風疹症候群」って何? と思われたでしょうか。
風疹は風疹ウイルスによる、発疹や発熱を伴う感染症。そして先天性風疹症候群とは、胎児のうちに風疹ウイルスに感染した結果、耳や心臓、目などの障害(難聴や心臓疾患、白内障など)や、精神・身体の発達の遅れなどの症状を持って生まれてくるものです。風疹に対する免疫の不十分な妊婦さんが、主に妊娠20週頃までに風疹ウイルスに感染することで起こる可能性があります。
2013年で言えば、45人の赤ちゃんが、お母さんの風疹感染によってそうした障害を持って生まれてきたことになります。
ただし、これらのすべての症状を持つとは限らず、気づくまでに時間がかかることがあります。また、妊娠後期にかかっても、胎児への影響は少ないことが知られています。
特に40代前後の成人男性がハイリスク! 免疫がない可能性・・・なぜ?
国立感染症研究所によれば、これまでに確認された患者の93%が成人で、男性が女性の約 3.5 倍。男性では特に30~50代の男性が79%(30代後半~40代で64%)を占め、女性は20代に多く(47%)なっています。予防接種歴は「無し」(17%)と「不明」(69%)で大半を占めています。
かつて風疹と言えば、子供の頃に自然にかかって免疫を獲得する病気の代表例でした。実際、現在の高齢者の方々は、多くが幼少期に風疹にかかり、強固な免疫を獲得しています。
ところが皮肉なことに、予防ワクチンの登場と、長らく続いた不充分な予防接種政策のために、免疫の獲得が十分でなかった世代があるのです。それが40代前後の、とくに男性です。
実際、感染症流行予測事業の 2017 年度の結果でも、成人男性の抗体(免疫)保有率は、30 代後半で84%、40代で77~82%、50代は76~88%。本来、流行を防ぐには、全体で83~85%以上を維持していなければなりません。。やはり40代男性は、風疹が流行してもおかしくない低い数字で、今回の患者の傾向にも一致しています。
なぜ同世代の女性はあまり問題にならないかと言うと、日本では風疹ワクチンは、1977年8月~1995年3月は中学生の女子のみ定期接種の対象となっていたためです。つまりこの世代は、幼少期に風疹にかかったか、かかっていなくても女子は1回接種、一方、かかっていない男子はワクチン接種もなく、まったく免疫獲得の機会がなかった、というわけです。(なお、男性でもこの間、乳幼児の定期接種で麻疹ワクチンの代わりに麻疹おたふくかぜ風疹混合(MMR)ワクチンが選択できた期間もあります)。
また、1995年度からは風疹ワクチン(1回)が、2006年度からは麻疹風疹混合(MR)ワクチン(2回)が乳幼児男女の定期接種として導入されました。その際、1回接種だった人たちへの経過措置として中学生男女にも接種が実施されました。
ワクチンによる免疫は弱い? 妊娠希望の女性は事前に予防接種を!
この20年で風疹のワクチン政策が大きく改善された結果、近年では、乳幼児よりもむしろ大人の風疹感染が問題になっています。
実は40代前後の男性に加えて、妊娠を希望される方が多い20代の女性の患者が目立つのも気がかりです。この世代は、ちょうど乳幼児への定期接種が始まった当初の10年間に、予防接種を受けた世代。つまり1回接種で、中学生時期に追加接種の措置が取られた人たちです。ただ、この追加接種はなかなか徹底しきれなかった、という話もあります。
ワクチンによる免疫獲得は、実際に病気にかかるより弱いことが知られています。特に、1回接種は2回接種に比べて免疫の付き方が不充分で、さらにその後、巷で風疹が影を潜めたため、風疹ウイルスに接する機会がほとんどないまま来てしまっています。免疫が補強されることがなく、そのまま失われてしまった人も多いと考えられるのです。
唯一の予防策は、ワクチン接種です。
30~50 代の男性で風疹に罹ったことがなく、風疹含有ワクチンを接種していないか、あるいは接種歴が不明の場合は、早めにMRワクチン、MMRワクチンを受けておくようにしましょう。身近に予防接種を受ける前の乳幼児や妊婦さん、妊娠を望む女性がいる場合はなおさらです。
また、妊娠を考えている女性は、妊娠前に余裕を持って2回の風疹含有ワクチンの接種を受けておきましょう。

NHKニュース7(2018年8月28日放送)
なお、妊娠中はMRワクチンなど風疹を含むワクチンの接種は受けられません。風疹ワクチンは生ワクチン(弱毒化させたウイルスを含んでいる)なので、それ自体が先天性風疹症候群のリスクを伴うからです。ワクチン接種後も、2か月間は妊娠を避ける必要があります。また、旦那さんや親せきなど、妊婦さんの周囲の人にも、ワクチンを接種してもらえるよう、協力を仰げるといいですね。
ナビタスクリニック(立川駅、川崎駅、新宿駅)では、風疹ワクチンの成分を含むMRワクチン、MMRワクチンを、8400円+税で提供しています。事前に予約いただくとスムースです。
(参考サイト)