-熱中症「きほんのき」――熱中症って何? なぜ塩分も必要なの?-

2018.08.13

「熱中症対策に水分と塩分を」――毎日1回はどこかで見聞きしますよね。当たり前に言われ過ぎて、熱中症を分かっているつもりになっていませんか? 

 

【まとめ】

☆熱中症の本質は、体の状態を一定の範囲内に収めようとする恒常性維持機構(ホメオスタシス)の破綻です。

 

☆生物が海から陸に上がった太古の昔から今もずっと、体内の環境を当時の海と同じ状態に保つことで、生命活動が維持されてきました。

 

☆そのために塩分(ナトリウム)は必須の成分。でも、過剰も体にダメージを与えます。

 

 

熱中症の正体は、「ホメオスタシス」の破綻!

 

35℃超えが当たり前に感じられるようになった昨今、テレビでも病院でもお役所でも、どこへ行っても「熱中症に気を付けましょう」と、まるで合言葉のように繰り返されていますね。

 

でも、「熱中症」ってどういうことか、きちんと説明できるでしょうか? 単に体温が上がり過ぎてしまった状態、というだけではないのです。

 

そもそも、人間の体には、体内の環境を一定の範囲内に収める機能が備わっています。これを、恒常性維持機能、あるいは「ホメオスタシス」と言います。そうやって体内の状態を安定させることで、複雑な体のシステム一つ一つが正常に機能し、生命体として存続できるようになっているんですね。

 

さて、熱中症は、高温多湿な環境下で、このホメオスタシスが破綻し、水分や塩分などのバランスが崩れて発症する障害の総称です。

 

水分が足りない状態を、脱水と言い、その危険性は先日の記事「のどが渇いた? あなどれない脱水、命のキケンも。」でお伝えしました。ざっと言えば、汗を充分にかけずに体温が上がり、体内での栄養や老廃物の運搬が滞り、酷ければショック状態に陥ります。

 

また、大量に汗をかくと、水分とともに塩分(ナトリウム)も失われます。それなのに水だけを補給して血液の塩分濃度が低下すると、「熱けいれん」を引き起こします。足、腕、腹部の筋肉の痛みや引きつれ、震えの他、めまいや頭痛、吐き気、嘔吐、腹痛などの症状が出ます。

 

 

なぜ体液には塩分が含まれているの?

 

体を構成する60兆個とも言われる細胞。その周りを満たす体液(細胞外液)は、基本的に薄い塩水です。具体的には、0.9%の食塩水(水1リットルに 9 g の食塩を溶かしたもの)に相当します。細胞外液には、いわゆる塩分、つまりナトリウムの他に、カリウムやカルシウム、重炭酸なども含まれています。

 

この細胞外液の成分、実は、生命が誕生した頃の太古の海水の成分とほぼ同じと考えられています。陸に上がって何億年と経過した今も、体内はいわば当時の環境を保ち続けているんですね。

 

ただ、陸に上がったことで、生物の体には、海と同じような環境を体内に留めるための特別な仕組みも必要になりました。特に、生命活動を滞りなく維持し続けるには、体液の成分は海水と同じでなければなりません。

 

そのため、生物は様々に進化しました。ヒトも、体の外側を丈夫で柔軟性のある皮膚で覆い、水分が減ってくると「のどが渇いた」と水を飲みたくなるよう脳から指令が出され、また、塩分を「美味しい」と感じることで塩分を摂るようになっています。

 

その際、体内の水分バランスや細胞内外の浸透圧(膜の内外の圧力差)の調節に重要な役割を果たしているのが、ナトリウムです。

 

さらに、血圧の調節、体内の酸性・アルカリ性のバランス維持、筋肉の収縮、神経の情報伝達、栄養素の吸収・輸送などにも、ナトリウムが関与しています。消化液などの材料でもあります。

 

ちなみに、現在の海水は、太古の昔に比べて蒸発が進み、塩分濃度が高まったため、現在は約 3.5%の食塩水に相当します。実際、海水はしょっぱくて飲めないですよね。体内のナトリウム濃度が上がってしまうため、現在の海水は飲用には向かないのです。

 

 

塩分の摂り過ぎはやっぱりキケン!

 

体液のナトリウムバランスの調節で、特に大事な役割を担っているのが、腎臓です。水と塩の尿への排泄を別々に調節する機構で、体液の量と塩分濃度を一定の範囲内に保つことに成功したのです。

 

では、食塩(ナトリウム)を摂り過ぎると何が起きるでしょうか?

 

慢性的にやや摂り過ぎの状態が続いている場合、高血圧のリスクが高まります。本来なら過剰な食塩は、尿に多く含まれて排泄されるよう、腎臓が調節機能を発揮します。ところが、日本人の3~4割では、食塩の過剰摂取によってこの機能が低下してしまうらしいのです。

 

結果、ナトリウムが体内に過剰にあると、これを薄めようと水分が引き止められます。血液の量も増えます。血圧は、血管を内側から押す血液の圧力ですから、血液の量が増えれば血圧は上がるのです。

 

一方、急激に大量に摂取してしまった場合は、高ナトリウム血症をひき起こします。喉が渇き、水分を大量に欲し、さらには頭痛やけいれん、嘔吐、倦怠感を生じ、重度の場合は意識障害から死に至る場合もあります。

 

やはり、夏だから、汗をかくから、とは言っても、塩分を摂り過ぎてよいことはないのです。でも、巷にはここぞとばかりに「塩入り」を謳った飲み物や飴などが溢れていますよね。次回はそうした「塩入り」商品について取り上げます。

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