-【院長ブログ】おたふくかぜ、大人も予防接種がおすすめなこれだけの理由。-

2018.07.24

持っていたはずの抗体がいつの間にか消えているかも! 男性は精巣炎のキケンも。

 

【まとめ】
☆流行が減って、おたふくかぜへの免疫が失われる人が続出。

 

☆大人の方が子供より症状がキツく出ます。

 

☆精巣炎は、男性患者の3割。不妊の原因に。

 

 

子供の頃に予防接種を受けた25~30歳の人は、免疫がなくなっているかも?!

 

ナビタスクリニック立川院長の細田です。前回は、おたふくかぜワクチンについて、お子さんに接種をお勧めする理由を書きました。今回は、大人も要注意、という話です。

 

そう聞いてもピンと来ない方は多いかもしれません。おたふくかぜは、誰もが子供の頃に1度かかり、もう2度とかからない病気の一つ、という認識が普通だからです。あるいは、小さい頃に予防接種をしているはずなので、自分には無関係と思っているかもしれません。

 

しかし近年、成人のおたふくかぜ患者が増加傾向にあると言われています。要するに、一度は獲得したはずのおたふくかぜに対する免疫が、いつの間にか弱まったり、失われたりしている人たちがいるようなのです。

 

実は、ワクチンができる以前に子供時代を過ごした世代は、まずまず安心。普通におたふくかぜにかかっているはずですから、強い免疫を獲得したものと考えられます。もちろん老化と共に免疫力は低下しますが、それでも比較的、免疫がよく残っている可能性が高いのです。

 

問題は、子供の頃に予防接種を受けた25~30歳の人たちです。

 

 

なぜ、いったん獲得した免疫が消えてしまったのか?

 

ワクチンを接種したのに、免疫が消えてしまったなんて、どういうことでしょうか?

 

原因の一つは、意外なことに、ワクチンが普及したことにあると考えられています。

 

日本では、1981年からおたふくかぜワクチンの任意接種(=自費)が始まりました。1989-93年には定期接種(=一定年齢を対象に公費)となり、この間おたふくかぜの流行は見られなくなりました。その後はまた任意接種として今日まで続いています。

 

ただ、ワクチンで獲得される免疫は、実際にかかって獲得する免疫よりも弱いとされています。とはいえ、その場合でも、毎年のようにおたふくかぜのウイルスにさらされていれば、問題ありません。度ごとに敵の姿を思い出し、免疫が維持されていくためです。

 

しかし、ワクチンが普及したことで、おたふくかぜは誰もがかかる病気ではなくなりました。昔は夏に多いとされていましたが、今日では季節性も弱まっています。小さい子供がいない家庭ではなおさら、おたふくかぜのウイルスと接する機会はなかなか見つかりません。

 

おたふくかぜに対する免疫は、言ってみれば、特定の敵にしか使えない武器とその調達システムです。その敵が現れなければ、格納庫の奥に埋もれて錆びつき、製造ラインも撤廃されてしまうのです。

 

 

重症化しやすい大人。思春期以降男性の2~3割は精巣炎に。不妊の原因にも!

 

さて、免疫が失われていることに追い打ちをかけるのが、大人のおたふくかぜは重症化しやすい、という事実です。

 

年齢を問わず、合併症の中で最も多いのが「無菌性髄膜炎」というもの。多くは、耳の下の腫れから5日ほど経ってから、高熱、頭痛、嘔吐を繰りかえす、などの症状が現れます。受診して髄膜炎と診断されれば、入院が必要です。

ムンプスウイルス(おたふくかぜウイルス)による髄膜炎

 

おたふくかぜ患者の10人に1人が発症するとされていますが、子供では症状が目立たない人も少なくないので、実際には半数くらいがかかっているとも。一方、大人はその逆で、重い症状や合併症が現れやすいのです。

 

ただ、おたふくかぜが原因の髄膜炎は、後遺症などもなくすっきり治るので、実はそれほど怖くはありません。

 

もっとやっかいなのが、前回ご紹介した難聴と、さらに特に思春期以降の男性で問題になる「精巣炎」(睾丸炎)です。

 

精巣炎は、おたふくかぜにかかった思春期以降の男性のうち、20~30%に起こります。耳下腺(耳の下にあって唾液をつくる器官)が腫れて4-10日くらいたってから、精巣(睾丸)が激しく痛み、陰嚢が腫れて赤くなる他、発熱や頭痛、吐き気なども見られます。

腫れ、吐き気・嘔吐、痛み、発熱など

 

症状はほぼ1週間で収まりますが、その間は歩いたりすると睾丸の腫れが悪化するため、安静が必要です。人によっては1カ月くらい、押すと痛むことも。睾丸が小さく萎縮してしまう人もいて、その睾丸は精子をつくることができなくなってしまいます

 

精巣炎は片側だけのことが多いのですが、約3分の1は両側に起こるとしている資料もあります。片側だけ精巣炎を発症した男性の4分の1と、両側に発症した男性の3分の2で、妊娠させる能力が低下してしまいます。ひどい場合は、無精子症(男子不妊症)になってしまうこともあります。

 

ちなみに、思春期以降の女性も、7%が卵巣炎を起こすそうです。症状は下腹部痛が多く、影響を残すとしても片側の卵巣のみで、重大な不妊の原因となることは少ないとのことです。

 

精巣炎を始め、重症化し合併症を引き起こしやすい大人のおたふくかぜ。免疫が残っているかを調べる検査にも時間とお金がかかります。だったら予防接種をしてしまうのが手っ取り早いのです。免疫がある人がさらにワクチンを接種しても、問題はありません。

 

特に、結婚や妊娠を考えている人たちはぜひ、カップルや夫婦で、予防接種を検討してはいかがでしょうか。他院ではあまり扱っていないMMRワクチン(麻疹、風疹、おたふくかぜの3種混合)などぜひご相談ください。

 

ナビタスクリニック立川 院長 細田和孝

 

【参考サイト】

「流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)」国立感染症研究所

「おたふくかぜワクチンについて」国立感染症研究所

「<特集>流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)2016年 9月現在」国立感染症研究所

「精巣炎」MSDマニュアル プロフェッショナル版

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