特に危険な高齢者も、定期接種(公費)のワクチンだけでは十分に予防できない、ってご存知ですか?
【まとめ】
☆日本人の死亡原因第3位は肺炎! 肺炎死亡の97%が65歳以上、ただし1~4歳の死因第4位でもあります。
☆肺炎球菌ワクチンは、大きく2種類。打つ順番で効果に違いが出ます!(米国予防接種諮問委員会による推奨)
☆ワクチンでカバーしきれない“型”の肺炎球菌も。インフル後にかかるので、インフル予防接種は必須。
現代日本でも、肺炎が死因の第3位! 肺炎死亡の97%が65歳以上。
皆さんは、何の病気が怖いですか? 命を失う危険がある病気として思いつくのは、がん、心筋梗塞、脳卒中、といったところでしょうか。逆に、昔は死の病として恐れられていた結核などの感染症の多くは、20世紀に入って抗生物質の開発・普及と共に、「治る病気」との認識が一般的になってきました。
実際、厚生労働省の「人口動態調査」(2016年)の調査結果を見ても、やはり死因の圧倒的第1位は「悪性新生物」、がんです。
ところが、一時は減少傾向が続いていた「肺炎による死亡」も、日本が高齢化の進展と共に再び増加傾向にあり、現在、悪性新生物、心疾患に次ぐ第3位。特に高齢になるほど肺炎による死亡率が高くなり、肺炎で亡くなる人の97%以上を65歳以上の高齢者が占めています。ちなみに、実は1~4歳児でも、肺炎は死因の第4位に入っています。
感染症治療薬の発達したこの時代にあっても、侮れないのが肺炎なのです。
肺炎球菌ワクチン、実は2種類あります。
日本では、2013年11月から「プレベナー13」が、小児用肺炎球菌ワクチンとして定期接種化(公費負担。それ以前はプレベナー7でしたが、改良されました)。65歳以上の高齢者については、翌2014年に「ニューモバックス」が定期接種化され、「プレベナー13」は任意接種となりました。
そうなのです。実は、肺炎球菌ワクチンには大きく2種類あるのです。
(長野県立信州医療センター「肺炎球菌ワクチンを受けられる方へ」)
そもそも肺炎球菌には 90種類以上の血清型※があります。高齢者の定期接種で使用される「ニューモバックスNP」は、そのうちの23種類の血清型を予防の対象としたワクチン(23価肺炎球菌ワクチン)です。
これについて厚労省では、「この23種類の血清型は、平成25年には成人における侵襲性肺炎球菌感染症の原因の約6割を占めるという研究結果があります」としています。
堂々と書いていますが、「6割」。予防接種を受けても半数近くが、肺炎球菌にやられてしまう可能性がある、ということです。
しかも、ニューモバックスでは“侵襲性肺炎球菌感染”は防げても、実は“肺炎”は防げないことが、研究により分かっています。
一方、プレベナー13の利点は、肺炎球菌が常在している鼻やのどの粘膜の免疫を誘導し、活性化すること(ニューモバックスには粘膜の免疫を誘導する作用はありません)。また免疫が続く期間も、ニューモバックスが5年間なのに対し、プレベナーはある種のリンパ球に直接作用し、長期免疫の持続が期待されます。
※血清型とは:
細胞表面の抗原(免疫反応を起こさせる物質)の構造の違いに基づいた、微生物やウイルス、細胞等の分類。例えば、同じ細菌でも血清型が異なると、体の免疫細胞からは別な菌と認識される。
2種類のワクチンは打つ順序が大事。ただし、片方は任意接種(自費)・・・
では、どうしたら肺炎球菌ワクチン接種の効果を最も高めることができるでしょうか?
正解は、2種類のワクチンを適切な順序で、適切な間隔を空けて打つことです。
➀先にプレベナー、次にニューモバックスを打つ。(逆になると免疫が十分つかない)
➁65歳以上の場合、打つ間隔は1年以上あけること。(米国予防接種諮問員会による推奨)
米国疾病予防管理センター(CDC)も、上記のような接種方法を推奨しています。
というわけで、65歳以上の高齢者については、定期接種でニューモバックスを接種する1年以上前に、前もってプレベナーを接種しておくことが、肺炎予防の賢い方法です!
ただ、この方法、現時点では2つハードルがあります。
➀高齢者のプレベナー接種は自費になってしまうこと。
➁プレベナーの接種対象が、小児と65歳以上(特段の疾患を持たない場合)となっていること。
65歳になってさっそくニューモバックスの定期接種を受けるために、プレベナーの接種をその1年以上前に受けておこう、と考えても、国内では適応外となってしまうのです。すべてを1年後延ばしにするしかありません。
なお、米国や欧州ではプレベナーの適応は50歳以上となっています。
インフルエンザから肺炎にかかる人が続出!インフル予防接種も必須です。
ちらっと触れましたが、肺炎球菌は、人の気道に定着していることがよくあります。健康な大人でも鼻やのどから、5%-70%の確率で見つかります。肺炎球菌を鼻やのどの粘膜に持っている人などが咳をすれば、そのツバキを吸い込んだ人にうつしてしまうのです。
鼻やのどの粘膜に定着した肺炎球菌は、そのまま消滅してしまうことも多い一方、免疫力が低下していると、肺炎球菌感染症を発症する場合もあります。
例えば、がんの治療中の方。特に血液やリンパのがんの方、脾臓を摘出した方は免疫機能の低下により、リスクが高くなります。肺炎球菌への抵抗力を高めるために、がんの治療中の方は、がんではない方以上に肺炎球菌ワクチン接種が勧められます。
さらに一般的なのが、インフルエンザ感染後に肺炎を起こしてしまうケース。高齢者では、インフルエンザそのものより、その後の肺炎球菌性肺炎による死亡の方が多いのが現状です。インフルエンザで気管の粘膜が損傷を受けるなど、バリア機能が損傷を受けてしまためと考えられます。
肺炎球菌の予防接種を受けていても、インフル後の肺炎は防げない可能性があります。肺炎球菌ワクチンではカバーされない血清型の可能性があるからです。
実際、肺炎球菌ワクチンが定期接種となった後の侵襲性肺炎球菌感染症の患者さんについて、肺炎球菌の血清型を調べたところ、ワクチンではカバーされていない血清型が以前より増えていることが分かりました。
ですから、インフルエンザの予防接種も必須。それぞれの予防接種を、適切なタイミングでしっかり受けて行きましょう。備えあれば、憂いなし、ですね!