-世界で急拡大のオンライン診療が、医療の常識を変えていく!-

2020.09.18

新型コロナが大幅に早めた医療のデジタル化。米中の動きから日本は何が学べるでしょうか?

 

 

【まとめ】

 

☆新型コロナウイルス感染症の世界的流行で、各国で医療のデジタル化・オンライン化が拡大しています。

 

☆米国では最大2,500億ドルの医療費がオンライン診療に!? 中国最大のプロバイダーは新規ユーザーが10倍に。

 

☆オンライン診療のメリットと課題とは? 6割超の国民が歓迎の中、大きく出遅れた日本。「恒久化」までの経緯をざっくりと。

 

 

 

新型コロナウイルスの国内流行を受け、「時限措置」として厚労省が4月に“解禁”した初診からのオンライン診療。その「恒久化」が検討されていることが報じられました

 

 

オンライン診療は、スマートフォンやパソコンのビデオ通話機能を通じて医師が診察を行い、薬を処方するものです。新型コロナ感染を恐れての受診控えが相次ぐ中、必要な医療を安全に届け、同時に院内感染防止が期待できることから、世界中で一気に普及が進みました。

 

 

今回はオンライン診療の今とこれからについて、米国と中国からの報告を中心に確認していきます。

 

 

 

 

※ナビタスクリニックでのオンライン診療についてはこちら

⇒【立川院】【新宿院】【川崎院

 

 

米国で急拡大、最大2,500億ドルの医療費がオンライン診療に置き換わる!? 

 

 

米マッキンゼー社の調査によれば米国内では新型コロナウイルスの蔓延によってオンライン診療の利用が大幅に加速しました。同社が今年4月27日に実施した調査によれば、2019年に11%だった一般利用率は、今年46%にまで急拡大。オンライン診療サービスを提供するプロバイダーも、以前の50~175倍もの利用者数となりました。

 

 

新型コロナ以前は、米国のオンライン診療関連の年間総収益は推定30億ドルであり、最大のベンダーは「緊急医療」分野に注力していました。重視されるのは、必要時に直ちに医師の診察が受けられることで、通常はかかりつけ医等ではなく当直医が診察を行います。

 

 

(shutterstock/fizkes)

 

 

それが新型コロナ以降、オンライン診療の利用者と提供者の裾野が広がり、診療内容が拡張したことで、現在の米国医療費のうち最大2,500億ドルがオンラインに置き換わる可能性が出てきました。

 

 

救急の20%と外来診療の25%をオンラインに置き換えることで、最終的にオンライン医療は、外来、オフィス、在宅医療へのすべてのメディケア、メディケイド、および商業保険の支出の5分の1を占める可能性があります。

 

 

同社は「この変化は避けられない」としています。ワクチンが広く入手できるようになるまで、オンライン診療拡大の勢いは「少なくとも今後12〜18か月」は続くとの見方です。

 

 

 

 

実は米国でも、オンライン診療は制限されてきました。やはり医療は長らく「対面」が常識だったのです。Bloomberg」誌によれば、それは主として安全性や正確性、プライバシーへの懸念からでしたが、制度上、最も大きなボトルネックは、メディケアでした。

 

 

メディケアは高齢者の公的医療保険ですが、多くの業界標準の基準ともなっています。ところが、メディケアでカバーされるのは、地方農村部の患者が地元の医療施設に出向き、そこで遠隔地の専門家による診察をオンラインで受けた場合のみでした。

 

 

しかし、新型コロナの発生を機に、規制当局はオンライン診療への制限を大幅に緩和。厳格なプライバシー基準を定めた「医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律」を緩やかに適用することとしました。また、政府の保険プログラムであるメディケイドとメディケアは、対象となるサービスの種類を拡大し、オンライン診療への支払い率を高く改訂しました。

 

 

中国最大のオンライン医療サービスは、新規ユーザー数10倍、相談件数も9倍に。

 

 

昨年12月、世界で最初に新型コロナウイルスの流行(当初は原因不明の肺炎)が確認された中国も、ちょうど同年8月にオンライン診療の普及に向けて大きく舵を切ったところでした。

 

 

 

 

Dezan Shira & Associates社が発行している「China Briefing」(7月31日付)によれば、2019年時点でオンライン診療を利用したのは24%にとどまっていました(それでも既に日本とは圧倒的な差ですが・・・)。ただし、5年以内に利用を考えている人は60%を超えていました(Bain&Company調べ)。

 

 

この見通しは、新型コロナの発生により大きく早まると見られています。例えば、

 

 

中国最大の医療プラットフォームであるPing An Good Doctorでは、2019年12月から2020年1月までに、新規ユーザーが900%増加し、オンラインコンサルティングが800%増加しました。

 

 

とのこと。この動きを後押ししたのが、やはり中国の国家政策でした。(以下、「China Briefing」より一部要約)

 

 

 

 

昨年、中国国家医療保障局(NHSA)は、電子医療保険システムを立ち上げました。インターネットベースの医療サービスを国の医療保険制度でカバーできるように、価格と保険政策を統制しています。同年8月からは、WeChat(チャットアプリ)とアリペイ(決済アプリ)を使って診断・処方サービスにアクセスできるようになりました。

 

 

年末に新型コロナが発生すると、国家衛生健康委員会(NHC)は、人口移動を最小限に抑え、感染のリスクを減らすために、インターネットベースの医療サービスの利用を奨励。利用者は急増し、オンライン医療プラットフォームの拡張につながりました。

 

 

今年5月には、NHCは地方政府に対し、独自のオンライン規制医療プラットフォームを確立して、個々のオンライン医療プロバイダーを監督・規制しつつ、市場アクセスを促進するよう呼びかけました。これは、8月の通知によって裏付けられ、医療機関および医師や看護師に対する電子ライセンスと証明書が正式に導入されました。

 

 

 

 

新型コロナ発生前の見込みでは、中国のデジタルヘルスケア市場は2020年までに235億人民元(32億9,000万米ドル)に達するとされていました。しかし、新型コロナはオンライン医療サービスの利用を大幅に加速させ、医療機関、患者、保険会社が急速に導入することとなり、この見立てを上回ることは確実です。

 

 

今後、オンラインでの慢性疾患管理や、電子カルテ、オンデマンドサービス、そして健康・生命保険アプリなどの普及が期待されています。

 

 

院内感染防止や受診コスト節約だけじゃない、オンライン診療のメリット。課題は?

 

 

前出のマッキンゼー社では、オンライン診療の普及に伴う潜在的な影響として、

 

●医療ケアへのアクセスと利便性の改善

●患者の治療効果の改善

●ヘルスケアシステムの効率化

 

といったメリットを予測しています。

 

 

さらに「Bloomberg」も、オンライン診療導入で患者の得る医学的な恩恵として、2つの事例を紹介。

 

 

テキサス大学サウスウェスタン校の調査によると、2020年4月には前年同月に比べて専門治療を受ける患者が増加し、予約の見落としも減ったことが明らかになりました。

 

 

また、2018年に実施されたオーストラリアの農村部や遠隔地の調査では、地方の診療所と大都市の心臓病専門医をオンラインでつなぐ遠隔医療プログラムにより、心臓病検査が1年間で42%増加したことが分かりました。患者1人あたりの受診のための運転時間が300マイル(500 km)以上短縮され、検査の待ち時間を約2週間短縮、結果を受け取るまでの期間も1か月以上短縮されました。

 

 

(shutterstock/PopTika

 

 

ただし、マッキンゼー社は、現時点ではまだ「利用者の関心(76%)と実際の使用(46%)の間にはギャップがある」と指摘。その要因として以下3つを挙げています。

 

●オンライン診療そのものを知らない

●オンラインで受けられる診療内容を知らない

●保険の適用範囲が分からない

 

 

また、オンライン診療サービスのプロバイダー側の懸念としては、全性、業務の流れの統合、対面診療との比較、診療報酬が指摘されています。これらを乗り越えるとともに、新しい働き方や、情報伝達における段階的な改善、テクノロジーの統合、アクセス拡大といった課題の解決が、幅広いプロバイダーに求められています。

 

 

ようやく「恒久化」に進み始めた日本。国民の63.2%がオンライン診療に前向き!

 

 

冒頭で触れた通り、日本でもようやく初診からのオンライン診療を「恒久的に」認める方向性が示されました。

 

 

実はオンライン診療自体は、2018年4月には保険対象となっていました。しかし1997年に厚生省(当時)が、「遠隔診療は、あくまで直接の対面診療を補完するものとして行うべきものである」とした通知を発出。以来ずっと、初診は「直接の対面診療」が“原則”とされ、オンライン診療の普及を阻む一因となってきたのです。

 

 

(なお、初診からのオンライン診療に反対する立場の人がしばしば根拠とするのは、「医師は、自ら診察しないで治療や処方箋を出してはならない」とし医師法20条規定です。しかし、正しく読めば、オンライン診療が「自ら診察しない」ことには当たらないのは自明です)

 

 

 

 

実際、2017年の時点でオンライン診療を導入している病院は 21院(全体の 0.2%)、診療所は 449院(同 0.4%)でした(日本総合研究所)。その後、2018年の診療報酬改訂による保険適用を経ても、保険点数(=診療報酬)の低さなどから導入は伸び悩みました。

 

 

その後、初診に関する‟原則“は据え置かれたまま、新型コロナ拡大を受けて今年4月、「時限的」「特例的」な措置として初診からのオンライン診療が“解禁”されました。ただ、同月の診療報酬改訂でも保険点数は低いまま据え置きに・・・。

 

 

日本医師会が4月24日~5月11日にかけて行った調査では、回答した165医療機関中、オンライン診療を実施していたのは7院、わずか4.2%でした。うち3院は今回の新型コロナ流行をきっかけに導入したといいます。

 

 

厚生労働省[日本医師会提出資料]

 

 

一方、国民はオンライン診療を歓迎しています。三菱総合研究所と医療情報システム開発センターが共同で4月30日に実施した調査では、全体の63.2%がオンライン診療を選択肢として考えたいと回答しました。

 

 

希望する医療体制(年齢別)

三菱総合研究所・医療情報システム開発センター

 

 

7月に示された政府の「経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太方針2020)」でも、デジタル化の推進を強力に進める方針の下、「オンライン診療について、電子処方箋、オンライン服薬指導、薬剤配送によって、診察から薬剤の受取までオンラインで完結する仕組みを構築する」と明記されました。背景には経済界の強い意向が見て取れます。

 

 

今回報道のあった、初診からのオンライン診療「恒久化」も、この方針に沿ったものと考えられます。諸外国に比べ、大幅に遅れをとったと言わざるを得ない日本の医療のデジタル化・オンライン化ですが、国民の利益を最優先に考えれば推進あるのみ。米国や中国のように、導入を後押しする積極材料が今後見えてくるか、期待したいところです。

 

 

ナビタスクリニックも引き続き積極的に、デジタル化・オンライン化に取り組んでまいります。

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