フライト中に感染とみられる事例、空気感染が起きていた? 機内の空気は「手術室レベル」だけれど・・・
【まとめ】
☆飛行機内で新型コロナに感染する可能性―― ドイツ-イスラエル間の事例を紹介します。
☆旅客機内の空調とエアフィルターは万全。それでもリスクがゼロではない理由とは?
☆国際航空運送協会(IATA)、米国CDC、『The Lancet』の空の旅に対する見解は?
9月9日、マスクの着用を拒否し機内で声を荒げた男性が、臨時着陸した旅客機から降ろされたというトラブルが報じられました。同様の出来事は、つい一昨日(9月12日)にも北海道で起きています。一方で先月は、札幌(新千歳空港)-東京(成田空港)間の乗客(40代男性)が前席の乗客から新型コロナに感染した可能性、という報道もありました。
流行が下火になった国々で徐々に人や物の行き来が再開される中、新型コロナウイルスにまつわる飛行機の問題やトラブルも聞こえ始め、機内の安全性についても関心が高まっていす。
ドイツ-イスラエル間の旅客機内で、7名の陽性者から他の乗客2人に感染?!
航空機内での新型コロナウイルス感染事例としては、イスラエル(テルアビブ空港)-ドイツ(フランクフルト空港)間のフライトでの報告があります。搭乗前に感染者と接触したツアー客24名と、彼らと乗り合わせた乗客78名を空港で検査の後、さらに追跡調査したものです。
7日間のドイツ観光ツアーを終えて航空機がイスラエルに到着したのが2020年3月9日。イスラエル到着時の検査で、観光グループ24人中、7人がPCR検査(咽頭ぬぐい液)で新型コロナ陽性となりました。うち4人は飛行中に症状があり、無症状だった3人はその後の追跡で2人が発症、1人は無症状のままでした。
当時、観光ツアー客は搭乗前には誰も新型コロナの診断を受けておらず、感染拡大を防ぐための対策(マスクの着用など)も実施されていませんでした。飛行時間は4時間40分でした。後に、ドイツ滞在中に接触のあったホテルのマネージャーが、新型コロナ陽性と判明しています。
これを受け、観光グループと同じ便の乗客78人中、71人(91%)が調査に応じました。うち1人はフライトの4日後にPCR陽性を報告しましたが無症状のまま、7週間後に抗体検査(IgG)陽性となりました。
さらに、フライト後14日以内に新型コロナを示唆する症状を報告した乗客が8名おり、うち1人は9週間後にIgG陽性となりました。この乗客はフライト後の隔離期間中、5日目に頭痛、筋肉痛、声枯れを訴えましたが、PCR検査は実施されませんでした。
以上、新型コロナの感染者と同乗した乗客2名が感染したことから、フライトの前後(空港内等)での感染は完全には否定できないものの、航空機での感染リスクが示唆されました。
この論文では、機内での感染リスク要因として、
●感染者との座席の近さ
●乗客と乗務員の動き
●接触感染の媒体物
●出発ゲートでの乗客間の接触
などを挙げた上で、「空気感染※を否定しない」としています。今回の研究では、機内で感染した可能性の高い2人の乗客は両方とも、感染したツアー客から2列以内に座っていました。
※空気感染(≒エアロゾル感染)については、過去記事「結局、エアロゾル感染って起きるの? ~変わりつつある新型コロナの世界常識」をご参照ください。
航空機内、空調フィルターと換気は万全? それでも残る感染リスクとは?
この事例では空気感染に関してさらに、「機内の天井から床方向と、前方から後方への空調が、感染率の引き下げに働いた可能性があります。乗客がマスクを着用していれば、感染率はさらに引き下げられたのではないか」と推測されています。
となると、航空機内での新型コロナウイルス感染について、まず気になるのが機内の空調や換気です。
世界的医学雑誌『The Lancet』では、空調フィルターについて以下ように言及されています。
航空機は、地上で一般的に見られるものよりもはるかに高性能で効果的なフィルターを備えた空調システムを採用しています。飛行機に使用される高効率の微粒子エアフィルターは、コロナウイルスを含む典型的なサイズの粒子を取り除くことが分かっています。
●空調フィルター:
ほぼすべての飛行機には、手術室で使用されるのと同じウイルス除去効果(99.97%以上)のHEPAフィルターが搭載され、空気がろ過されています。
●換気:
客室内の空気は2~3分ごとに、オフィスや店舗よりも頻繁に、新しい外気と交換されます。
と説明。「最近のほとんどの航空機では、客室に供給される空気は100%新鮮か、高性能フィルターを通した空気の混合物であり」、「病院の手術室と同じ」であるとし、「飛行機でウイルスに感染するリスクは、ショッピングセンターやオフィスよりも低い」と評価しています。
こうしたことを踏まえ、米国疾病予防管理センター(CDC)では、空の旅について、次のように見解を示しています。
航空機内の空気は循環し、フィルターで清浄化されるため、ウイルスや細菌のほとんどは、フライト中には簡単には広がりません。ただし、混み合っていてソーシャルディスタンスを十分確保できなかったり、他の乗客と2m以内に座らねばならなかったり、あるいは数時間座っていたりすると、新型コロナに感染するリスクは高まる可能性があります。
機内での空気感染ばかり心配するより、フライトの前後も肝心です!
米国CDCはさらに、空の旅に伴うリスクは機内の環境ばかりではないことも指摘しています。
●搭乗前にも、セキュリティチェックと空港ターミナルで時間を費やす必要があり、他の人と頻繁に接触したり、様々な物の表面に触れたりする可能性があります。
●公共交通機関やライドシェアリングがウイルスへの感染リスクを高める可能性があるため、空港への行き方も考慮してください。
一方、『The Lancet』では、これからの空の旅の変化を挙げています。
●乗客と乗務員の接触機会を減らし、十分な距離をとるために、食事や飲み物、無料雑誌などのサービスは削減されます。
●乗員・乗客ともに、新型コロナウイルスの迅速検査が通常の搭乗手続きとなるでしょう。
●清掃と殺菌消毒が通常業務となります。
●マスクその他の保護具の使用が、より一般的になります。
●非接触技術が、人とのやり取りを減らし、旅行に関連する支払いとプロセスを促進します。
なお、冒頭で触れたマスクの着用を巡るトラブルは、国内の航空会社では乗客のマスクの着用が任意であるために起きたとも言えます(着用を義務付けるべき、と言っているわけではありません)。
IATAによれば、世界のほとんどの航空会社では、乗客のマスクの着用が義務付けられているとのこと。IATAも、空港に入る時、フライト中、そして目的地の空港に到着して離れるまでの全旅程で、着用を推奨しています。
とはいえもちろん、マスクさえしていれば安心、ということではありません。
米国CDCは公共交通機関全般の利用に際して、またIATAはWHOが推奨する一般的な対策を旅客機の乗客にも適用できるとして、人々に向けて次のような対策を呼び掛けています。
●手洗いまたは定期的な手指消毒剤の使用。できるだけ頻繁に石鹸と水で20秒間手を洗うか、アルコール60~80%の消毒剤で手指をこする。
●タッチパネルや指紋スキャナー、券売機、改札口、手すり、手洗い、エレベーターのボタン、ベンチなど、不特定多数の人が触れる物にはできるだけ触らない。
●他の人への接触の回避。2m以上のソーシャルディスタンスを心がける。
●咳・くしゃみエチケットを守る(ハンカチで口元を覆う、ひじの内側で受ける)。
●体調がすぐれない場合は旅行を取りやめる。
今後の新型コロナの感染状況にもよりますが、長い目で見れば飛行機の使用も徐々に回復していくことでしょう。むやみに怖がる前に、一人ひとりができる感染対策を行い、快適なフライトにしたいですね。