半年以上前から言われてきた男女差、ようやくその免疫学的な違いが分かってきました。
【まとめ】
☆2月の武漢からの報告を皮切りに、世界各国から「新型コロナは男性患者の死亡率が高い」との報告が相次ぎました。
☆その差を説明しうる、男女の免疫反応の違いが明らかに。炎症物質(サイトカイン)とT細胞に男女差アリ。
☆ただし、最大のリスク因子は「加齢」であることを忘れずに。免疫力の低下や持病を持つ人の増加のためと見られます。
男性の新型コロナ死亡率は女性の1.6倍!? 世界各国から続々と集まる報告。
「どうやら男性の方が女性よりハイリスクらしい」――新型コロナウイルス感染症は男性の方が重症化しやすく、死亡率が高いことが、これまでに日本を含む世界各地で報告されてきました。
男女差について、初めて確たる研究結果が報告されたのは、今年2月17日のこと。中国・武漢市の都市封鎖(1月23日)が世界を震撼させた一方、日本はまだ新型コロナが指定感染症となったばかりで、国内死者数も累計50人程度でした。
中国疾病予防管理センター(CCDC)が、武漢市における昨年末~今年2月11日の確定症例44,672件を対象に分析を行った、当時としては最大規模の疫学的研究です。結果、新型コロナによる死亡率は、女性が1.7%だったのに対し、男性は2.8%。男性の方が女性の約1.65倍の死亡率でした。
その後、世界に感染が拡大。各国からの報告はほぼ一様に、年齢の違いによらず男性の死亡率が高くなっています。
例えば、人口100万人当たりの新型コロナ死者数が現時点(9月1日)で世界ワースト1の英国については、英国国家統局が分析結果を公表しています。今年3~7月の死亡率は、英国全土にわたって男性が女性を2倍近く上回る結果に。5月1日時点での年齢調整死亡率は、人口100万人当たり男性が5.06人で、女性は2.55人でした。
同じく英国で1,727万8,392人を対象に実施された大規模疫学研究では、1万926人の新型コロナ死者の分析から、男性の新型コロナ死亡リスクは1.6倍と報告されています。
人口100万人当たりの新型コロナ死者数
(人口100万人以上かつ100万人当たり感染者数10以上の国)
(札幌医科大学、2020年9月1日時点)
また、イタリアは、今年3月6日に人口100万人当たりの新型コロナ死者数が中国を抜いて世界1位となり、現在は英国に次ぐ第2位。Statista によれば、8月18日時点で、同国の新型コロナ死者数は累計35,644人、死亡率は女性が11.3%に対し、男性は17.6%でした。イタリアでも男性は女性の約1.56倍の死亡率です。
イタリアの新型コロナウイルス死亡率(性別・年代別)
(statista)
なお、過去に流行したコロナウイルス感染症の「SARS」(重症急性呼吸器症候群)と「MERS」(中東呼吸器症候群)も、男性の死亡率が同程度に女性を上回っていました。例えば2002~03年のSARSだと、香港の研究では全症例1,755件のうち男性の死亡率が21.9%、女性は13.2%と、男性が1.66倍(年齢調整後1.62倍)に上りました。
対コロナ免疫反応に男女差!! 重症化の明暗を分ける医学的メカニズムとは?
そうした中、8月26日付の世界的科学誌『nature』に、新型コロナ重症化の男女差を生み出す免疫学的なメカニズムを示唆する論文が掲載されました。
米エール大学の岩崎明子教授の率いる研究チームは、感染初期の新型コロナ患者98人について分析を行いました。その結果、男性患者の血中には細胞から分泌される炎症物質「サイトカイン」(タンパク質)が多く含まれ、重症化の背景にあることが示唆されたのです。
新型コロナの重症化メカニズムの1つとして、以前から「サイトカインストーム」が言われてきました。
サイトカインは本来、侵入したウイルスを排除するために、免疫反応を調節する役割を担っています。しかし、免疫システムが暴走して過剰に分泌されると、強い炎症を引き起こし、内臓や血管などを傷つけてしまうのです。肺炎、そして呼吸器不全に至り、死亡することも。
逆に、女性患者では生来のサイトカイン値が高い人ほど重症化しやすくなる傾向があり、男性患者ではそうした特徴は見られませんでした。
さらに、「T細胞」による免疫にも男女差が見られました。
(shutterstcok/fusebulb)
T細胞は、ウイルスに対抗する抗体の生産や、感染した細胞の排除を行う免疫細胞です(過去ブログ「数カ月で抗体が消える!?――それでも新型コロナ免疫は残る可能性。T細胞による免疫システムとは?」はこちら)。血中のT細胞の数値が、女性患者は高齢でも男性患者よりはるかに高いレベルで維持されていました。
これにより、女性はそもそもウイルスへの抵抗力が高いことが示唆されます。
一方、男性患者では年齢が高いほどT細胞の活性が低くなっていました。そして、年齢および体重指数[BMI]が高くてT細胞活性が低いほど、重症化傾向が見られました。女性患者にはこの特徴は見られませんでした。
ただし、最大のリスク因子は「年齢」。老化による血液・血管の異常から合併症に。
こうして、新型コロナに関しては、医学的にも男性の方がハイリスクなことが明らかになりつつあります。ただし、重症化や死亡の最大のリスク要因は、「加齢」であることもお忘れなく。
厚生労働省によると、年齢別の死亡率(8月26日時点)は、80代以上が17.6%と、最も悪い数字です。次いで70代が7.8%、60代が2.4%。その下の50代では0.6%、40代が0.2%とかなり低下し、30代以下はすべて0.0%。全体の死亡率を1.9%にまで引き上げているのは、明らかに60代以上なのです。
(厚生労働省)
この傾向も男女差と同じく、世界的に共通しています。
米国疾病予防管理センター(CDC)によれば、米国内では18歳~29歳に比べて85歳以上の新型コロナによる入院リスクは13倍、死亡リスクは630倍となっています。最も相対的なリスクが低いのは5~17歳で、18歳~29歳と比べて入院リスクは9倍低く、死亡リスクは16倍低くなっています(8月18日時点)。
高齢者の新型コロナ重症化(死亡)リスクが高い原因は、第一にはやはり加齢に伴う免疫力の低下でしょう。さらに、持病を持つ人が加齢とともに増加することも大きな原因と考えられます。

(shutterstock/Ulza)
米国CDCが全米176万人分の新型コロナ感染者(1月22日~5月30日)を分析したところ、持病のある患者は、持病のない患者に比べ、入院が6倍(持病なし7.6%、持病あり45.4%)、死亡が12倍(持病なし1.6%、持病あり19.5%)多かったことが報告されています。持病の内訳は、心血管疾患(32%)、糖尿病(30%)、慢性肺疾患(18%)でした。
持病を持つ人が重症化しやすい原因としては、「血栓が発生しやすくなる」という新型コロナの特徴との関連が考えられています。高齢者は健康であっても動脈硬化が自然に進んでいますし、特に心血管疾患や糖尿病は血管老化と密接に関わっています。
以上から、高齢者、特に持病をお持ちの男性は、かなりハイリスクと言わざるを得ません。ご本人のみならず、ご家族や周囲の方も、ますます用心していきましょう。
(トップ画像:shutterstock/DimaSid)