-全国で早い新学期、新型コロナが不安? 世界各国の対応は?~NEJMの報告から-

2020.08.25

新型コロナ終息を待たずに世界各国で学校が再開。リスクとメリットをどう評価し、対策を講じるべきでしょうか。 

 

【まとめ】

 

☆パンデミック下の学校再開・継続を世界が模索。世界的医学誌「New England Journal of Medicine」論文からまとめます。

 

☆小学生の感染のしやすさ、うつしやすさは? 世界の学校再開状況と対策は?

 

☆オンラインではなく実際に学校に通うメリットとは? 教育と、身体・精神・社会的発達のための子供たちの権利をどう守る?

 

 

 

 

 

新型コロナウイルス流行による休校で生じた学習の遅れを取り戻そうと、今年は全国的に夏休みが短縮して実施されました。一部地域の公立小中学校では既に先週17日から新学期が開始され、授業が行われています。

 

 

文部科学省の調査では、新型コロナ休校を行った全国1,794教育委員会のうち、95%が夏休みを短縮と回答(6月23日時点)、小中学校では7割が20日以下の夏休みとなり、最短で9日でした(東京新聞)。

 

 

今週から新学期、という学校も多数。一方で、依然として新型コロナウイルスの新規感染者数は、連日1,000人レベル。そんな中での学校生活とあっては、不安も消えません。

 

 

google.com

 

 

withコロナ下の学校のあり方は、今も世界中で模索されています。今年7月7日には、子供の感染リスクと学校再開リスクに関する論考が、世界的科学誌「Science」に発表されました。(これについては、ナビタスクリニック川崎の谷本哲也医師が、「ワセダクロニクル」連載記事でまとめています。⇒こちら

 

 

さらに同29日には、世界的医学雑誌New England Journal of Medicine」(NEJM)でも、パンデミックさなかの小学校再開について医学的・社会学的見地から評価した論文が掲載されました。問題意識は主に米国の社会状況に沿ったものですが、各国の状況や普遍的な課題にも踏み込んでいます。

 

 

そこで今回はこの論文から、私たちが知っておくべきこと、学ぶべき視点をピックアップしてまとめていきます。

 

 

子供は軽症、感染しにくい、ってホント? 子供から感染は広がるの?

 

 

これまでにも言われているように、1~18歳までの子供は新型コロナウイルスに感染したとしても、多くが軽症あるいは発症しないままで済むようです。また、幼い子供は感染しにくく、感染してもウイルスを広げる可能性は非常に低いと見られる一方、ゼロではないと考えられています。

 

 

(shutterstock/MIA Studio)

 

 

具体的には、以下のようなことが報告されています。

 

 

●新型コロナウイルスへの感染のしやすさは、幼いほど低く、年齢とともに増加することを示唆する研究も。細胞の表面にあって新型コロナが侵入する入り口になるタンパク質(受容体)『ACE2』が、10歳未満で最も少なく、次いで10~17歳が少ない、というもの。(過去ブログで久住医師が解説しています!→こちら

 

 

●同程度にウイルスにさらされた家族の経過を見ると、10歳未満の子供は、10代~成人よりも感染頻度が低い。世帯とコミュニティの両方の感染状況を見てみても、9歳以下の子供は10~14歳の子供よりも感染しにくい

 

 

●一部の子供たちは、川崎病に似た全身の炎症症状(小児発症性多系統炎症症候群、MIS-C)で入院治療が必要に。ただし、割合は21歳未満の10万人に2人とごくわずか早期の入院治療により順調に回復

 

 

●感染した子供が周囲の人にどれくらいウイルスを広げるかについては、年齢の違いはいまだはっきりせず。接触歴を年齢別に追跡した韓国の研究では、0~9歳の子供が家族内で感染を広げたケースは全体の5%程度と、ごくわずか。

 

 

●その後8月に米国医師会雑誌(JAMA Pediatrics)に発表された報告では、幼児(5歳未満)患者ののどなどから、成人の10~100倍量の新型コロナウイルスの遺伝物質を確認。

 

 

世界各国の小学校、再開で感染クラスターは発生しない? 対策とその後の状況は?

 

 

子供~未成年の感染に関する調査は、世界各国の学校やコミュニティのデータとも一致しています。フランス、イスラエル、ニュージーランドの高校で発生した新型コロナウイルスは、近隣の小学校にまで及ぶことはありませんでした。これは、幼い子供ほど感染しにくく、また感染させにくいことを示唆しています。

 

 

 

 

●オランダでは休校を経て4月に学校を再開した際、1クラスの人数を半分に減らす一方で、12歳未満の子供たちについては、“ソーシャル・ディスタンス”について何ら制限をかけず。6月初旬には全て通常授業に。ハイリスク者やそその家族を除き、ほとんどの子供とスタッフが学校に戻った今も、罹患率は横ばいで推移(最新データでは、現在は微増傾向)。

 

 

●一方、厳格な“ソーシャル・ディスタンス”の下で4月に小学校、さらに5月に中学・高校を再開したデンマークでは、7月にかけても感染者数は減少し続けた(最新データでは、8月中に患者が増加したものの、現在は再び減少へ)。

 

 

●フィンランド、ベルギー、オーストリア、台湾、シンガポールでも、学校を再開したことによる感染者数の増加は報告されず。ただし、これらの国の学校では十分な予防策が講じられ、活動内容やグループ規模の制限を緩やかに解除したためと考えられる。

 

 

●イスラエルの事例は、油断は禁物であることを示唆。7月の感染者数の再増は、5月の高校再開と関連している可能性。学校の教室は混雑し、予防策は最小限だった。ただし、明確な因果関係が立証されておらず。

 

 

 

 

オンライン教育だけでは何が足りない? 対面教育が重要な理由。

 

 

学校において安定的な対面教育が求められる理由には、4つの要素があります。

 

 

まず、子供たちの教育と発達の観点です。

 

 

本質的な学びと社会的発達:

子どもたちは家にいるだけでは、本質的な学びや、社会的感情の学習の機会を逃してしまいます。仲間や大人との関係性の構築や、遊びの機会、その他の発達上必要な経験からも遠ざかってしまいます。特に、貧困や発育・発達・学習障害を持つ子供たちにとっては深刻です。

 

 

 

 

加えて、学校に集うことのメリットは学習面だけではありません。学校は子供たちへの社会福祉サービス機能をも担っているためです。

 

 

セーフティーネット機能:

家族内の問題や対人関係から来る精神的な不安定を支えたり、低所得や好ましくない生活環境が生む不健全な発達や健康問題セーフティーネットになったりしています。廉価で提供される給食に、栄養を依存している子供は少なくありません。特に貧困家庭の子供は深刻です。

 

 

保育機能:

学校を安定的に開校することは、共働き家庭の保護者のサポートとなります。経済を支える労働力として、また特に医療スタッフとして、働く保護者が安心して子供を送り出し、自らも仕事に従事できる環境を、学校は提供する役割があります。

 

 

(shutterstock_ FamVeld)

 

 

他方、消極的な理由もあります。

 

 

遠隔授業への障壁:

遠隔(オンライン)授業に大きく舵を切るには、デジタル環境の整備、特にどの家庭でも安定的にアクセスできる体制づくりが必須です。それには経済的な問題に加え、技術的な課題をクリアする必要があります。

 

 

技術や知識のある大人が家庭にいたとしても、子供の傍らにいつもいてサポートできるわけではありません。遠隔授業と対面授業を交互に採り入れて蜜を避ける方式もありますが、スケジュールが複雑化し、働く保護者には負担が大きくなります。教育の機会を平等に確保するには、現時点では対面授業が最も確実な手段なのです。

 

 

(shutterstock_FamVeld)

 

 

withコロナの学校生活、安心を高めるために必要な対策とは?

 

 

新型コロナ流行下の学校生活に安心と安全をもたらすのに最も重要なことは、地域やコミュニティ自体の感染者を減らすことです。検査体制の強化など学校外での施策が大前提ということです。

 

(istockphoto)

 

 

実際、休校措置をとっていたほとんどの国や地域(イスラエルを除く)では、地域ごとの感染率を低く抑えることに成功した(10万人あたり1日1件未満)上で、再開に踏み切っています。そして引き続き、集団レベルでの感染管理の維持に注力しています。

 

 

具体的な対策としては、

 

●児童と教員などスタッフ両方に対し、定期的な検査を実施する。

 

●教員・スタッフ同士の感染対策として、マスクやフェイスガードの着用、スタッフ以外の成人の敷地内立ち入り禁止、デジタル教員会議の開催など。

 

●学校の建物や教室の使用方法など、蜜を避けるための物理的な変更。

 

 

 

 

これだけのことをしてでも、小学校の再開と対面授業は不可欠だという考えです。小学校は、商店や映画館、バーなどとは一線を画し、むしろ食料品店、医療機関、あるいは食品メーカーのように、優先度の高い存在です。

 

 

子供たちの教育と成長に関わる様々な権利を守るため、いかに安全に学校をフルタイムで再開・継続するかは、国の最優先事項というべき課題です。

 

 

それは単なる科学的・技術的な問題ではありません。私たち大人の子供たちに対する責任の問題です。貧しい意思決定によって、致命的な感染症が制御不能に陥るのを許してしまうのかどうか――子供たちを人生の苦難から守ることは、人としての核心に関わるテーマと言うべきでしょう。

 

 

(トップ画像:shutterstock/FamVeld)

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