新型コロナ大流行が予想される2度目の冬を迎えるにあたり、インフルエンザは大きな懸念材料です。
【まとめ】
☆この冬、新型コロナとインフルエンザ流行が重なり「重大な事態が危惧され」る、と日本感染症学会。
☆新型コロナとインフルB型の同時感染は重症化の報告も!インフルにかかると一般的な風邪は減るけれど・・・?
☆インフルエンザの予防接種が新型コロナ重症化を防ぐ?! 理由はあの「BCG説」と同じかも。
第2波に揺れている日本ですが、新型コロナウイルス感染症の脅威を痛感することになるのは、おそらくこの冬。それに対し、私たちができる重要な備えの1つが、インフルエンザの予防接種です。まったく別のウイルスなのに、なぜそれが新型コロナを迎え撃つのに必要なのでしょうか? 3つの理由をご紹介します。
新型コロナとインフル、同時流行の可能性・・・2020-2021冬が最大の危機!!
インフルエンザワクチンの早めの接種をおススメする1つめの理由は、今冬の医療機関の逼迫予想。例年のように比較的スムーズにインフルエンザの治療を受けられるかどうか、懸念されるためです。
8月3日、日本感染症学会は、「今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて」と題した提言を発表しました。その冒頭で、3つの懸念すべきポイントを挙げています。
●従来のコロナウイルスの伝播モデルから、次の冬に新型コロナウイルスの⼤流⾏が起こると予測されている。
●特に、インフルエンザの流⾏期と重なることで、重⼤な事態になると危惧される。
●中国からブタ由来の新型インフルエンザの発⽣も報告されており、今後の動向に留意する必要がある。

(Shutterstock/Lightspring)
今冬に新型コロナが大流行する、との予測を示したのはハーバード大学の研究者たち(Science)。コロナウイルスは、冬の一般的な風邪を引き起こし(10~15%程度)、複数の型が知られています。研究では、そうした従来のコロナウイルス同士の相互作用を分析し、新型コロナの今後5年間の流行動向を推測しました。
その結果、5つの予想流行パターン中4つで、2020~21年冬に最大の感染者数が示されたのです。
昨冬は大幅減のインフルだけど・・・今年の冬は医療機関パンクで受診難民が続出?
一方のインフルエンザはというと、次の2020-2021年冬も1000万人規模の国内流行になる可能性が高く、2,000〜3,000人がインフルによって亡くなるとも言われています。(日本医事新報社)
実は2019-2020年も、当初は大規模な流行が予測されていました。ところが、年明け以降、新型コロナの流行で状況は一変。活動自粛やソーシャル・ディスタンス、手洗いの徹底などの対策が、インフルを抑え込んだのです(グラフ)。日本では最終的に、A型のみの流行で患者数700万人、2020年1月に終息しました。
国内インフルエンザ症例数の推移
縦軸は人数(単位:千人)
横軸は各年1月1日~を第1週とした週数(グラフ範囲は概ね10月~3月半ば)
今冬も、新型コロナ対策が再び功を奏して、予測よりも患者数が少なくて済む可能性はあります。しかし、最新の海外論文では、そうした期待は「公共の場でのマスク強制、学校と小売店舗の閉鎖、移動の制限などの継続的な遵守が前提」としています。
それどころか、昨冬のインフル減少さえ、「新型コロナ以外の呼吸器系ウイルスの検査率が大幅に下がった」ためで、実際にどの程度減ったのかは定かでない可能性を指摘しているのです。
新型コロナ第2波だけでも逼迫しつつある現在の医療体制を考えると、インフル患者とコロナ患者が入り混じって押し掛けた時に何が起きるのか・・・。“受診難民”が続出して重症化・死亡のリスクが高まる事態もあり得ます。
新型コロナとインフルエンザB型の同時感染で重症化の報告も・・・!
早めのインフルエンザワクチン接種をおススメする2つ目の理由は、新型コロナとインフルエンザに同時に感染してしまった場合についての懸念です。
「新型コロナとインフルエンザの同時感染はよく見られ、B 型インフルとの合併症例は重症化リスクが高い」という、中国・武漢からの研究報告があるのです。
同研究では新型コロナ陽性307人のうち、過半数に当たる57.3%がインフルエンザA型・B型との同時感染でした。しかも、B型との合併患者ではCT画像の異常やリンパ球減少など、重症化リスクが高い傾向にあったのです。

(shutterstock_Africa Studio)
なお、同時流行を考えるにあたって、ちょっと気になるのが、「インフルにかかると、“普通の風邪”にかからない」というウワサ。実はこれはざっくり言えば本当で、英国グラスゴー大学が大規模な分析を行い、発表しています。
9年間にわたる調査から、ウイルス性の呼吸器疾患と確定した15,302症例を分析。呼吸器症状を引き起こす11種類のウイルスの相互関係をコンピューターモデルで解析したのです。その結果、A型インフルエンザ患者では、他のウイルスの患者に比べて、一般的な風邪の一因であるライノウイルスに感染する率が約73%低かったのです。
「新型コロナが勢いづくと、インフルがおとなしくなる」は、期待薄かも・・・。
こうしたウイルス間の競合現象について、論文の筆頭研究者は、「サバンナでライオンとブチハイエナがエサを奪い合うように、呼吸器系ウイルスも気道内で勢力争いをしている可能性がある」と英国研究・イノベーション機構(UKRI)の取材に対してコメントしています。

(shutterstock_CKA)
ただ残念ながら、従来型のコロナウイルスについては、インフルエンザウイルスとの相互関係は確認できませんでした。となると新型コロナウイルスについても期待薄。つまり、新型コロナにかかったからと言って、インフルにかかりにくいとか、その逆が言えるわけではなさそう。
以上から考えると、この冬は新型コロナとインフルエンザの同時流行に対し、警戒して臨むに越したことはありません。
しかも、前出のハーバード大の研究では、新型コロナウイルスの再流行が2025年まで繰り返される可能性があると指摘しています。そうなれば、インフルとの同時流行は当面、毎冬の心配事となるかもしれません。
現在、新型コロナウイルスには治療薬として確立したものがなく、ワクチンも開発段階です。となれば、まずは手堅くインフルエンザ予防を徹底すべき。つまり、インフルエンザの予防接種が先決です。

(shutterstock/Africa Studio)
インフル予防接種で新型コロナ死亡率低下! 理由はあの「BCG説」と同じ?!
最後に、早めのインフルエンザワクチン接種をおススメする3つ目の理由は、新型コロナ感染を予防する可能性です。
ナビタスクリニック新宿で診療を行う上昌広医師(医療ガバナンス研究所理事長)は、「東洋経済オンライン」で、以下のように解説しています。
アメリカ・コーネル大学の医師たちが6月4日、イタリアの高齢者を対象としたインフルエンザワクチン接種率と、新型コロナ感染時の死亡率の調査で、両者の間に統計的に有意な相関が存在したと報告した。インフルエンザワクチン接種率が40%の地域における新型コロナの死亡率は約15%だったが、70%の地域では約6%まで低下していたという。
(中略)
彼らが考えるもう1つの可能性は、インフルエンザワクチンが免疫力全体を活性化し、インフルエンザだけでなく、新型コロナウイルスに対する免疫力を高めたことだ。これは結核予防のために接種されるBCGワクチンが、新型コロナウイルスに有用ではないかとされる機序と同じだ。
上昌広医師
上医師は、「この考え方は現段階では仮説にすぎない。結論を得るには、今後の臨床研究の結果を待たねばならない」と念押ししつつ、さらにインフルエンザワクチンの需要動向についても言及しています。
インフルエンザは2019-20年のシーズンは流行していないため、日本人の集団的な免疫力は低下している。いったん流入すれば、大流行へと発展する可能性がある。そうなれば、インフルエンザワクチンの需要が高まり、品薄になるはずだ。
「Science」の最新記事によれば、海外のメーカーは、2020–21年冬のインフルエンザワクチンの増産を発表。米国疾病予防管理センター(CDC)は、接種者は昨年より2,000万回分増え、過去最高となるのべ1億9,400~9,800万人が接種を受けると予想しています。英国の国民保険サービス(NHS)も先月、無償接種の対象年齢を子供と大人の両方に拡大すると発表しました。

(Shutterstock/Lightfield Studios)
多くの国で、インフルエンザの予防接種を増やそうと、キャンペーンの強化が始まっています。
国内でも、早い医療機関では9月中旬過ぎからインフルエンザ予防接種の予約受付を開始するところもあります。ぜひこまめにチェックしていただき、早めの接種をご検討ください。
(トップ画像:shutterstock_Africa Studio)