命に関わらなくても、身体的・精神的苦痛や日常生活に支障をきたす皮膚症状。新型コロナも無縁ではありません。
【まとめ】
☆話題になった「コロナしもやけ」とは? どんな症状? 世界中から報告があります。
☆実は“しもやけ”だけじゃない! 全身にわたる新型コロナの皮膚症状。 どうして起きる?
☆予防のためのマスクなどによる顔の肌トラブルや、洗剤や消毒薬による手荒れやかぶれも要注意!
新型コロナウイルス感染症では、重い肺炎や、心血管疾患など命に関わる合併症に関心が集まりがち。しかし、感染やその予防策のせいで、皮膚に問題が生じることも世界各地で報告されています。今回は、そうした報告をもとに、新型コロナの皮膚トラブルをまとめます。
(WWL-TV)
「コロナのしもやけ」「コロナのつま先」ってどんなもの? 世界中から症例報告。
緊急事態宣言の真っ只中にあった4月、世界から「新型コロナウイルス患者のつま先が、しもやけ状にダメージを受けている」という報告が相次ぎました。「コロナのしもやけ」「コロナのつま先」などと呼ばれて話題になったので、覚えている方は多いでしょう。
例えば、米国皮膚科学会雑誌には、ベルギーの新型コロナ男性(23歳)の症例が報告されました。37.7℃の発熱が3日間続いた後、つま先と足の側面に、赤く痛みを伴う病変が発生したと言います。
また、欧州皮膚科・性病科学会雑誌には、イタリアでの季節外れのしもやけ患者63人に関する研究が発表されています。当時はまだPCR検査が十分に普及していなかったために、新型コロナウイルス陽性と確認されたのはごく一部でしたが、イタリアで新型コロナが蔓延したのと同時にこうした“しもやけ”の発生が見られたのです。そのため、いち早く「新型コロナウイルス感染が“しもやけ”の原因である可能性がある」という仮説を立てるに至りました。
コロナのしもやけは、当初フランスやベルギーで話題となり、その後、イタリアやスペイン、米国、中国など、世界各地から報告がありました。
多くは、発生のしやすさに男女差は見られず、ほとんどが足のつま先やかかとだけで、手にも症状が出るのは1割未満のようです。赤く膨れ上がったり、水ぶくれが出来たりして、痛みやかゆみを訴えるのが典型例です。
下痢などの消化器症状や、息苦しさなどの呼吸器症状、発熱などがある人もいる一方、足の“しもやけ”が唯一の症状という場合もあり得るようです。
“しもやけ”だけじゃない。全身に湿疹やじんましん、口の中に発疹も! なぜ皮膚症状が出る?
皮膚症状についてはこの「コロナのしもやけ」ばかりが注目されましたが、実は新型コロナ患者では、そのほかにも全身の様々な部位に、湿疹やじんましんのような病変が現れることが分かっています。
イタリアからの報告(18報の論文レビュー+3つの症例)では、新型コロナウイルス感染症の最も一般的な皮膚症状は、「斑点状に広がるふくらみのある発疹」としています。皮膚症状のある患者の3分の1以上に見られました。その他、じんましんが10%程度、“しもやけ”症状が15%程度、網目状の病変が約3%、出血性の斑点が1.4%と報告されています。
(J Dermatol Sci. 2020 May; 98(2): 75–81.)
上記の報告では、発疹等の3分の2は胴体に限られていましたが、患者の約2割に手足の皮膚症状が見られました。皮膚症状が出た患者の12.5%で、呼吸器症状や新型コロナウイルス感染症との診断が下りる前に、発疹等が出現していましたが、全ての人が10日以内に皮膚症状が収まっています。呼吸器症状等の重症度に関係なく、皮膚症状は現れていました。
なお、一般にウイルスが侵入して全身を巡ると、免疫反応としてじんましんなどの発疹が出ることがあります。ただしこれに加えて、“コロナのしもやけ”含め、新型コロナウイルスに特徴的に見られる現象との関連もいくつか指摘されています。
①皮膚の毛細血管が損傷を受ける
(Translational Research, The Journal of Laboratory and Clinical Medicine)
②血液の凝固作用が強められ、血栓が発生する
(Translational Research, The Journal of Laboratory and Clinical Medicine,Pediatric Dermatology)
③血管の内側の壁を構成する細胞が炎症を起こす
(American College of Cardiology)
つまり、全身の血管や皮膚を巡る毛細血管に生じた炎症や血栓により、様々な発疹が出現したり、血流が滞ったつま先に”しもやけ”症状が現れたりする、と推察されているのです。
予防策による皮膚ダメージも深刻!マスクやフェイスガード、さらに手洗い洗剤・消毒液でも。
さて、新型コロナウイルスに関連して、まったく別の皮膚障害も生じています。感染予防のための対策や装備が、皮膚に負担を与えることで起きるものです。以下は、ブルガリアからの報告です。
まずは、マスクやフェイスガード、ゴーグル等の感染予防装備によって顔の皮膚に生じる様々なトラブル。
感染予防装備を顔に長時間につけていることを迫られる第一線の医療従事者では、542人のうち97%がほてりやかゆみ、痛みを伴う赤みや発疹など、顔の皮膚に異常を訴えました。多くは、頬や額、鼻に、かぶれ(接触性皮膚炎)やじんましん、ニキビや脂漏性湿疹など持病の皮膚疾患の悪化を起こしていました。
原因は、マスクなどの装着によって、内部の湿度が過剰に高まってムレてしまうことや、摩擦、接触の刺激などによって、肌のバリア機能がダメージを受けてしまうためとしています。
なお、過去の研究でも、医療従事者の3分の1以上が、N95マスクの着用によってニキビ、顔のかゆみ、皮膚炎等を経験していることが指摘されています。
さて、もう1つの予防による皮膚トラブルは、手洗い用洗剤や消毒薬を頻繁に使用することで起きる、手荒れやかぶれです。
洗剤/消毒剤による過度の手洗いは、弱酸性の皮脂の層を損ないます。この層は、汗腺から分泌される汗と、脂腺から分泌される脂が混じり合い、皮膚を覆うバリアの役割をはたしています。この層が損なわれると、刺激に弱くなり、肌が荒れたりかぶれたりしてしまうのです。
一般に手の皮膚炎の発症・悪化因子として、アトピー素因、乾燥、手洗い頻度、水仕事、手袋の使用、および仕事の従事期間が指摘されています。この調査では、医療従事者の3分の2が1日10回以上手を洗うと見られるにもかかわらず、保護クリームを塗っているのは22%だけでした。
かぶれ等の皮膚トラブル予防のためには、まず洗剤成分などが残らないようしっかりすすぐこと。しっかり洗えているなら、洗った後にさらに消毒薬を使う必要はありません。さらに、保護クリームを頻繁に、特に手洗い後は念入りに塗ることが奨励されます。
以上、新型コロナウイルス感染症にまつわる皮膚症状についてまとめてみました。かかってしまった場合の皮膚症状は自分でもどうにもなりませんが、マスクのオンオフや手洗い後の保護クリームなど、予防の際の肌トラブルは工夫次第でリスクを下げることができます。Withコロナ生活は長期化しそうですから、地道に心がけていきましょう!
(トップ画像:shutterstock/Chris Curry)