甘く見ていると細菌の出す毒素が全身に。重症化して入院が必要になる赤ちゃんもいます😿
【まとめ】
☆お子さんに多い虫刺されやあせも、掻きむしったところから全身に広がる「とびひ」は早期治療が肝心です。
☆放っておいたり、治療が遅れると、毒素や細菌が全身に回って全身の皮がむけたり、命を脅かすことにも。
☆予防のためには、清潔と保湿が大事!鼻いじりをしがち、あるいはアトピー性皮膚炎のお子さんは、特に注意が必要です。
ただの虫刺されやあせもだったはずが・・・あっという間に全身に広がる水ぶくれ。
夏になると、虫刺されやあせもなど、小児科でも皮膚科分野での受診が増えます。虫刺されではハチの他、知らない虫に刺されてしまうお子さんもいますが、圧倒的に多いのは、蚊とダニです。あせもは、特に乳幼児さんのご相談が多くなります。
とはいえ、どちらも早めに適切な処置をし、清潔を保つことで、悪化を防ぐことができます。軽ければ市販のかゆみ止め薬などでも、数日~1週間程度で状態は改善します。
問題は、そこから「とびひ」を発症してしまった時。
あせもからとびひを発症した例
(日本皮膚科学会)
とびひとは、「火事の“飛び火”のように急速に広がる」という意味の、皮膚の感染症。正式には「伝染性膿痂疹」(でんせんせいのうかしん)と言います。
原因は、ひっかき傷などから侵入した細菌です。
原因細菌は主に2種類で、黄色ブドウ球菌か、溶血性連鎖球菌(いわゆる溶連菌)。皮膚症状の出方が違い、前者は水ぶくれ、後者はかさぶたになって広がります。乳幼児から子供に多いのは圧倒的に黄色ブドウ球菌によるもので、夏のこの時期には悪い条件が重なり、小さな患者さんが増えます。
黄色ブドウ球菌
(natureダイジェスト)
どれだけ恐ろしい細菌かと思われるかも知れませんが、黄色ブドウ球菌は健康な人の肌にも普通にいる常在菌です。正常な肌では、皮膚そのもののバリア機能が働いたり、他の常在菌とのバランスが保たれて、黄色ブドウ球菌だけが暴走できないようになっています。
しかし、傷口ではその防御態勢も決壊し、細菌が入り込みやすくなっています。黄色ブドウ球菌は毒素を放って水ぶくれを生じさせたり、傷口や水ぶくれの中身を化膿させたりします。さらに、毒素は血流などに乗ってあっという間に周囲に広がってしまうのです。
虫刺されから黄色ブドウ球菌が感染したとびひ
(日本皮膚科学会)
毒素が広がると、全身の皮がむけてやけどのような状態に。早期の治療が大事です!
具体的には、掻きむしってただれたところに感染が起き、小さな水ぶくれ(水疱、すいほう)が出来始めます。次第に周りの皮膚も赤みを帯びてきて、水ぶくれの中身も膿に変わっていきます(膿疱、のうほう)。水疱や膿疱はとても破れやすく、浸み出したり破れ出た液によって、次々と周りの皮膚にも感染が起きて行くのです。
この段階で受診すると、抗菌薬の軟膏(抗炎症成分を配合したものも)が処方されます。患部が大きければ、ガーゼで覆って、1日に1~2回取り替えるよう指導されることもあります。ごく軽症なら塗り薬だけで様子を見ますが、抗菌薬の飲み薬も服用することが多いです。
また、かゆみも強いため、かゆみ止めの飲み薬・塗り薬も併用し、掻きむしらないようにしてあげることも、重症化を防ぐのに大事です。
一方、放置していたり治療が遅れたりすると、血中に入った毒素が全身に回って、「ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群」(SSSS)に陥ることも。高熱とだるさとともに、口や目の周り、首、わきの下、股などの皮膚が真っ赤に腫れあがり、やがてやけどのようにべろんとむけてしまいます。
ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)
(マルホ株式会社)
こうなると一刻も早く入院し、抗菌薬の点滴治療が必要です。乳児さんでは処置が遅れると命に関わりますが、早期に発見して治療できれば重症化せずに治ります。
また、毒素だけでなく黄色ブドウ球菌そのものが血中を回り、高熱が出て、全身状態が悪化する「敗血症(菌血症)」もまれに見られます。いずれにしても、ただの虫刺されやあせもだと思っていたものが、急に発疹が増えてきたり、あちこちに水ぶくれができ始めたりしたら、危険信号。まずは小児科や皮膚科を受診しましょう。
予防のために出来ることは? 鼻を触りがちなお子さんは、とびひのリスクも高くなります。
予防のために大事なのは、普段から皮膚を清潔に保つことです。ただし、石鹸を過剰に使って頻繁に洗いすぎるのも、実はよくありません。肌がアルカリ性に傾いて、他の常在菌との勢力バランスが崩れ、かえって黄色ブドウ球菌を増やすことにつながります。
一方、とびひになってしまった場合には、患部をきちんと石鹸で洗いましょう。石鹸はよく泡立てて、こすらず、泡でていねいにやさしく洗い、お湯でしっかり洗い流します。タオルの共用は避けましょう。入浴については、症状が引くまではできるだけ湯船につからず、シャワーだけで済ませるのが基本ですが、詳しくは医師にご相談ください。
手洗いも重要です。虫刺されやあせもがかゆければ、ついつい引っ掻いてしまうもの。その時に手についていた細菌から、感染が起きます。新型コロナウイルスの流行で多くの人が手洗いを心がけているとは思いますが、外出後に限らず手はこまめに洗い、爪も短く切っておきましょう。
また、黄色ブドウ球菌は、健康な人の鼻や喉の粘膜にも多くいることが知られています。ですから、鼻を頻繁に触っていれば、その指先に付着していると考えるべき。その手や爪で、虫刺されやあせもを掻きむしってしまったら・・・。
実際、鼻や口の周りからとびひが広がっていく赤ちゃんはよくいらっしゃいます。鼻いじりをしがちなお子さんは、とびびのリスクも高いと考えておきましょう。やめさせることができれば、それに越したことはありません。
(日本皮膚科学会)
さて、アトピー性皮膚炎のお子さんもいっそうの注意が必要。皮膚のバリア機能が低下しているため、この時期、清潔と保湿は念入りに。汗そのものも刺激になって皮膚の状態を悪化させるので、こまめにシャワーを浴び、その後早めに保湿剤やアトピー治療薬などを塗りましょう。
とびひは、恐れることはありませんが、一歩間違うと赤ちゃんやお子さんはもちろん、親御さんも心配で辛い思いをすることになります。たかが虫刺され、たかがあせもと油断せず、清潔とスキンケアを頑張りながら、様子を見守っていてくださいね。そして少しでも不安を感じたら、まずは早めに受診してみることをお勧めいたします。
ナビタスクリニック川崎
院長 河野一樹
(トップ画像:shutterstock_Juan Ci)