なぜ筋トレはNG? なぜ夏に増える? 痛風予備軍でも、全身の血管老化が進みます。
【まとめ】
☆30・40代にも増えている痛風・高尿酸血症。「筋トレ」と「夏」、実はハイリスクって知ってた?
☆高尿酸値が続くと、無症状でも動脈硬化が進行します。肥満解消、有酸素運動、尿酸排泄を促す食事を。
☆一番難しくて一番大事なのは尿酸値を意識しつづけること。無症状でも生活習慣の見直しと治療継続を!
夏場にリスクが高まる病気は、熱中症だけではありません。意外と知られていないのが、「痛風」。しかも、そのベースとなる「高尿酸血症」(血中の尿酸値が7㎎/dLを超えた状態)は、血管を傷めて様々な合併症を引き起こします。
痛風と聞いても、「中高年の病気でしょ」と思われるかもしれません。ところが年々、40歳代以下の若い年代での発症が増えています。さらにその背景にある高尿酸血症は、30~40代の男性が最も多く発症し、有病率は約30%に上るとの大規模調査も。全国で、痛風のおよそ10倍にあたる、推定1,000万人の患者がいると見られています(日本生活習慣病予防協会)。
高尿酸血症の年代別発症率
良かれと始めた「筋トレ」が引き金に?! なぜ夏は痛風になりやすい?
今年の春は、新型コロナウイルスの流行で「ステイ・ホーム」を強いられ、家の中で過ごす時間が大幅に増えました。そこで、外に出て運動をする代わりに筋トレを始めた、という声も多く聞かれます。
ところが、健康のために始めたはずの「筋トレ」が、痛風・高尿酸血症のリスクを高めることは、ほとんど知られていません。
そもそも「尿酸」とは、細胞内の核に含まれるプリン体という物質が分解されるときに生じる老廃物です。それが多すぎてスムーズに尿中に排泄されず、血中濃度が高まってしまったのが「高尿酸血症」。
尿酸値の高いまま放置していると、尿酸がくっつきあって結晶となり、足の指などの関節にたまります。この結晶を外敵と見なした白血球が攻撃を加えて炎症が起き、「風が吹いても痛い」というくらい激痛の「痛風」発作となるのです。
筋トレのような無酸素運動を行うと、その強度に関わらず、尿酸値を上昇させることが報告されています。特に、負荷の高い無酸素運動では、運動後ただちに尿酸値が急上昇。原因は、無酸素運動によって筋肉に生じる乳酸。乳酸排泄が優先されて尿酸排泄が抑制されてしまう結果、尿酸値が上がってしまうと考えられています。一方、有酸素運動では、尿酸値に影響がありませんでした。
ただ、筋トレをしていないからと言って油断はできません。実は夏は痛風・高尿酸血症のハイシーズンなのです。
原因は「脱水」。尿酸は水溶性のため、体内の水分が減ると、何もしなくても相対的に血中の尿酸濃度が上がってしまうのです。汗を大量にかく夏は、ただ生活しているだけで他の季節より痛風・高尿酸血症のリスクにさらされているのです。
自覚症状のない高尿酸血症、でもひそかに動脈硬化が進行中!
確かに高尿酸血症の段階では、なんの自覚症状もありません。でも、体の中では恐ろしいことが進行している可能性が高いのです。血管の老化とも言える、動脈硬化です。
(三和化学研究所)
そのメカニズムは、まだ実ははっきりと分かっていません。しかし、高尿酸血症の人が心血管疾患や脳卒中を起こしやすことはよく知られています。また、動物実験では、血管の内側の壁(血管内皮細胞)に尿酸がとりこまれると、酸化ストレスが生じて壁を傷つけ、動脈硬化の原因となることが観察されています。
実際、高尿酸血症の人では、糖尿病や脂質異常症、高血圧などの生活習慣病、慢性腎臓病(CKD)、メタボリックシンドロームを合併している人も、非常に多いのです。
例えば、CKDの末期に当たる末期腎不全(ESRD)の発症率は、高尿酸血症だと正常値の人の3倍以上に上がります。腎臓は、血液をこしとって尿を作り出す臓器で、毛細血管の集まりです。尿酸値の高い状態と、毛細血管の老化の関連性が示唆されます。
Iseki K et al: Am J Kidney Dis 44(4): 642-650, 2004
(三和化学研究所)
ただし、世界的な医学誌「New England Journal of Medicine」6月25日号には、「尿酸値を薬物治療で低く保っても、腎機能の低下を抑えられなかった」という2つの研究が同時に掲載されました。尿酸値と生活習慣病や動脈硬化の詳しい関連性については、今後の研究が待たれます。
まずは、たっぷりの水分補給しながらの有酸素運動で、肥満解消を。
痛風や高尿酸血症を改善・予防するには、どうしたらいいのでしょうか?
ナビタスクリニック理事長の久住英二医師は「週刊ポスト」2020年4月17日号の取材に応え、
「痛風は遺伝的な要因が大きく、尿酸値が非常に高くても痛風になりにくい人もいれば、基準値内に保たれているのに痛風発作が起こる人もいる。一般に男性で太り気味の人は、基準値内であっても痛風の発作を発症しやすいため、数値の変化に気をつけるべきだと考えられます」
と解説しています。
太っている人が痛風発作を起こしやすい原因の1つに、インスリンの関与が考えられます。
インスリンはもともと血糖を細胞に取り込む(結果、血糖値を下げる)ホルモンですが、尿酸の排泄を妨げる方向にも働き、出すぎると尿酸値上昇に直結します。肥満になると、インスリンの血糖を下げる能力が低下してしまい、その分、大量に分泌されるようになるのです。
というわけで、「脱水を防ぎながらの有酸素運動による肥満解消」が痛風・高尿酸血症の改善・予防の基本と言えそうです。
まず、意識的にこまめに水分を摂って脱水を避け、尿からの尿酸排泄を促すこと。高尿酸血症では、1日2リットル以上の水分を摂ることが推奨されます。
そうやって十分に水分補給をしながら、有酸素運動を取り入れましょう。ジョギングやウォーキング、水泳、サイクリング、エアロビクスなど、低~中程度の負荷で時間をかけて行う運動です。
「痛風はぜいたく病」はウソ!? それでも食事内容が大事な理由。
さて、痛風は昔から食事が原因とされ、「ぜいたく病」「美味しいものを食べすぎ」「魚卵はだめ」「飲みすぎ」などとも言われてきました。
確かに、尿酸を作り出すもとになるプリン体は、レバーなどの動物の内臓や、魚の干物、魚卵や白子などに多く含まれます。また、アルコールでも特にビールはプリン体を多く含みます。
ただ、実は飲食物のプリン体から生じる尿酸は、全体の2~3割に過ぎません。残りの7~8割は、いずれにしても新陳代謝で出来てくるのです。
それでも、痛風や高尿酸血症の改善・予防には、食事内容の見直しも重要※。「プリン体の少ない食事」に越したことはありませんが、それ以上に食べ過ぎを避け、「尿酸排泄を促す食事」を意識することが大事です。
※「高尿酸血症・痛風治療のガイドライン」でも、高尿酸血症でも無症状(痛風発作は未経験、合併症なし)であれば、薬物治療より生活習慣の改善を基本とし、食事の改善を奨励しています。
食べ過ぎを避けるのは、長い目で見れば肥満解消のため、そして直接的には、インスリンの過剰分泌を回避するためです。
また、同じ観点で積極的に摂りたいのが、野菜、キノコ類、海藻類など、食物繊維の豊富な食品。食物繊維は消化吸収をゆるやかにし、血糖値の急上昇を抑え、インスリンの過剰分泌を回避できます。
一方、尿酸排泄を直接的に促すのが、牛乳などの乳製品。牛乳に含まれるカゼインという成分が分解されて出来るアミノ酸(アラニン)が、尿酸の排泄を助けます。
なお、アルコールに関しては、「ビールじゃなくて、プリン体の少ない焼酎などの蒸留酒なら良いのでは?」 と思われるかもしれません。しかし、アルコールそのものが3つの点でNGです。
①アルコール自体の分解の際に尿酸が作られる。
②尿酸の排泄を妨げる働きを持つ。
③利尿作用があり、脱水を招く。
有酸素運動の後、ビールやチューハイの代わりに「牛乳1杯」を習慣にしてはいかがでしょうか?
一番大事で一番難しいのは、尿酸値コントロールの“継続”です。
さて、ナビタスクリニックにも、痛風発作の患者さんが駆け込まれることがあります。しかし残念ながら、そうした患者さんの多くは、
「発作が起きてからしばらく通院されて、また足が遠のいてしまう方が多いです。高尿酸血症は無症状なので、痛みもないのに通院するのは実際、面倒に思われるのかもしれません」
と、久住医師。また、尿酸値が危険なレベルでない人も、決して安心はできないそうです。
「一昨年が4、昨年が5、今年6というように、少しずつ上昇してきたら、体に何か変化があると思ったほうがいい」(「週刊ポスト」2020年4月17日号)
久住英二医師
尿酸値が上がってきていても、痛風発作が出ない限り生活には支障がないため、放置されがちです。でも、その裏で動脈硬化が進行しているかもしれません。健診結果の尿酸値は必ずチェックしていくようにしましょう。
そして、健康診断で一度でも尿酸値が高いと指摘された人、あるいは要注意となった人は、きっちり定期受診して尿酸値のチェックを。医師の指導を受けながら生活習慣の改善を続けましょう。
また、一度でも痛風発作を経験した方や、高血圧や腎障害などの合併症がある方は、絶対に油断禁物。状態が良くても、勝手な判断で服薬をやめないでください。
「後悔先に立たず」で、尿酸値コントロールを頑張っていきましょう!
(参考)
・日本生活習慣病予防協会「高尿酸血症・痛風」
・厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールと痛風」
・Sunil V. Badve et al. Effects of Allopurinol on the Progression of Chronic Kidney Disease. N Engl J Med 2020; 382:2504-2513
・Alessandro Doria et al. Serum Urate Lowering with Allopurinol and Kidney Function in Type 1 Diabetes. N Engl J Med 2020; 382:2493-2503
(トップ画像:shutterstock/jittawit21)