夏場はなぜ鉄不足になる? 激しいスポーツは特にハイリスク。健診で分からない「隠れ貧血」の可能性もあります。
【まとめ】
☆夏は貧血の季節だった! なぜ? 足に強い衝撃の走るスポーツは赤血球を壊してしまうリスクも。
☆貧血セルフチェックは下まぶたで。健診ではひっかからない「隠れ貧血」にも要注意!
☆鉄分補給の基本は食事。その食べ方、鉄分をムダにしていませんか? 吸収を高める食べ方とは?
夏は水分と塩分だけじゃ足りない! 鉄分不足・貧血が、夏バテ予防の落とし穴!
このところ、だるい、疲れが取れない、寝ても寝ても眠い……といった症状に悩まされる人が、徐々に増え始めています。これから夏本番を迎え、暑い中で大量に汗をかいた後や寝苦しい夜が続くと、熱中症や、いわゆる夏バテを心配される人も多いでしょう。
東京はここ数日、急に気温が下がり梅雨寒が続いていますが、近日中にはまた真夏日の予報も。これだけ気候が不安定だと、たしかに体がついていかず、自律神経の乱れによる様々な不調をきたしがちです。
ただ、実際には別のところに根本的な原因があるかもしれません。その正体こそ、夏の鉄不足・貧血です。
(Shutterstock)
これについて、血液内科が専門で貧血に詳しい、ナビタスクリニック新宿院長の濱木珠恵医師は、次のように説明します。
「鉄は、疲労回復を促すミネラルの代表選手です。普段は血液や肝臓の中に蓄えられていますが、一気に大量の汗をかくと、鉄分が汗と一緒に出てしまうことがあります」
(TBS「教えてもらう前と後」2020年7月14日)
大人の体内には、男性で3〜3.5g、女性では2〜2.5gの鉄が存在します。その6割は、赤血球を構成するヘモグロビンとして血中を巡っています。ヘモグロビンの役割は、呼吸によって吸い込んだ空気中の酸素と結びつき、全身に酸素を運ぶこと。それによって、体中の細胞が酸素を得て、生命活動を維持しています。
そのため、尿や便、汗などからの鉄の排出量は1日1g程度に抑えられています。古くなった赤血球からは、他の成分は分解されて排出されますが、鉄だけは大半が再利用されるのです。
ところが、急に暑くなり、発汗量が急激に増えると、再吸収の仕組みが追いつきません。汗とともに一気に体外へ排出されてしまい、体内の鉄が急に減ることに。
体内の鉄不足は、ヘモグロビンの減少に直結し、全身の組織や臓器に酸素が行き渡らなくなります。その結果、全身の細胞が酸欠に陥った状態が、「鉄欠乏性貧血」です。
(shutterstock)
その症状、鉄分不足かも! 下まぶたの裏側の色でチェック! 激しいスポーツも赤血球を破壊します。
鉄不足や貧血になると、以下のような症状が現れます。
●いつもダルい、疲れやすい、眠っても疲れが取れない
●階段で息切れする
●爪が弱くなり割れる・へこむ、髪がバサバサ
●肌荒れ、顔色が悪いと言われる
●飲み物の氷をガリガリ食べてしまう(氷食症)
●運動のパフォーマンスが上がらない
特に注意したいのが、激しい運動を習慣的に行っている人。長距離選手やバスケットボール、バレーボール、バレエ、剣道など、長時間走ったり、大きくジャンプしたりして足の裏に強い衝撃が繰り返し加わるスポーツは、鉄分不足を招きがちです。
(TBS「教えてもらう前と後」2020年7月14日)
(TBS「教えてもらう前と後」2020年7月14日)
「足の裏を地面や床にたたきつけた際に、血管を流れる赤血球が破壊され、鉄分が漏れ出してしまいます。そうなった鉄分はきちんと必要な臓器に運ばれることなく、血中の老廃物等と一緒に汗や尿などから体外に排出されてしまうのです」
と、濱木医師。
(TBS「教えてもらう前と後」2020年7月14日)
(TBS「教えてもらう前と後」2020年7月14日)
これは、「運動性溶血性貧血」とも呼ばれます。赤血球の寿命は通常120日程度で、絶えず骨髄で新しく作られて血中の数が保たれています。しかし一気に壊されてしまうと、供給量が追い付きません。
「ただし、散歩や軽いジョギング程度なら、それほど衝撃は大きくありませんので、あまり心配することはありません」
なお、上記以外のスポーツでも、日常的にトレーニングを行っていれば、1日あたりの汗の量は普通の人の何倍にもなりますから、やはりハイリスク。激しすぎる運動では、消化管から出血することもあります。
下まぶたの色で鉄不足セルフチェックを。貧血じゃなくても、実は「隠れ貧血」かも!!
鉄不足に陥っていないかどうか、簡易的に確かめるなら、下まぶたの裏側の色をチェックしてみてください。
「下まぶたの裏側には、毛細血管が集まっています。そのため、鉄が足りている時は、まぶたの裏側が赤く見えます。ところが、白っぽく見えてきたら要注意。貧血や鉄分不足のサインです」(濱木医師)
(TBS「教えてもらう前と後」2020年7月14日)
特に、年に1度の健康診断で「貧血」と診断されていないのに、上記のような鉄不足の症状がある、というなら、「隠れ貧血」の可能性もあります。
体内の鉄のうち、ヘモグロビンとして血中にある以外の残りの4割は、肝臓や脾臓などに「貯蔵鉄」として蓄えられています。ヘモグロビンをつくる鉄が不足した時、実は真っ先に使われるのがこちらの貯蔵鉄。それでも足りない時に血中の鉄が減少するのです。
この貯蔵鉄が減った段階が「隠れ貧血」です。
(NHK「ひるまえほっと」2019年11月11日)
「通常の健診の血液検査ではヘモグロビン値しか調べないので、貧血とは診断されませんが、実際にはギリギリの状態。ちょっと無理をすれば貧血と同じ症状が出ることもあります」(濱木医師)
隠れ貧血に心当たりのある方は、医療機関で「フェリチン値」を調べてみることをお勧めします。
食材の鉄分を無駄にする食べ方、していませんか? 吸収を高める調理・食べ合わせとは?
さて、鉄は体内で生成できるものではないため、日常的な補給には、食事から摂り入れるしかありません。
「その際に大事なことは、たまに一度にたくさん食べるのではなく、鉄分を多く含む食材を毎日、継続的に摂取することです」
と、濱木医師。
(TBS「教えてもらう前と後」2020年7月14日)
というのも、鉄分は吸収しづらいのです。食事から摂った鉄の約8〜10%しか、体に吸収されません。まずは、カツオやレバーのなどの魚や肉、アサリやシジミなどの貝類、海苔やヒジキなどの海藻類など、鉄分を含む食材を意識的に献立に加えるよう、意識していきましょう。
特に、ホウレンソウや海藻類、ゴマなど、植物性食品に含まれる鉄分を摂りたいなら、調理や食べ方にひと工夫を。植物性食品の鉄分は「非ヘム鉄」と呼ばれ、動物性食品の「ヘム鉄」と比べてさらに吸収しづらいのです。そこでレモン汁をかけるなど、ビタミンCを多く含む食品と一緒に摂ると、吸収がアップします。
(TBS「教えてもらう前と後」2020年7月14日)
「そう言われても、忙しい毎日の中で、手間をかけた食事がとれないことも多い」という方は、鉄分を強化した食品も活用してみましょう。スーパーマーケットやコンビニに行けば、ヨーグルトや野菜ジュース、またスポーツドリンクなど、鉄分入りの製品が続々と登場しています。
(TBS「教えてもらう前と後」2020年7月14日)
もちろん、明らかな貧血や症状のひどい方は、鉄剤での治療が必要です。また、例えばスキンケアに力を入れているのに肌荒れがひどい、という場合に、原因として貧血や隠れ貧血が見つかることもあります。逆に、鉄分をしっかり摂っているはずなのに、疲れやすい、だるい、といった症状がある方は、他の病気が隠れていることもあります。
貧血でも、他の病気でも、謝った対処法をしていて悪化させることもあります。まずはお気軽に医師にご相談ください。
ナビタスクリニック新宿院長
濱木珠恵
(トップ画像:TBS「教えてもらう前と後」2020年7月14日放送)