世界で毎年1億人が苦しんでいるデング熱。今年も流行しています。東南アジアへの渡航再開時にはご注意を!
【まとめ】
☆この10年、世界100カ国、年間1億人に感染拡大を続けるデング熱。今、シンガポールで激増中です。
☆渡航再開へ向けて動いているベトナム、タイも要注意!治療は対症療法のみ。4人に1人が重症化します。
☆ワクチンはいまだ臨床試験段階。実用化までは地道な予防策を。虫よけスプレーのお勧めは?
ここ10年感染拡大を続けるデング熱が今、シンガポールで激増中! 過去最悪の恐れも。
夏になると、日本でも数年おきに感染者が報告されるのが、デング熱。熱帯に生息する蚊が媒介するウイルス感染症ですが、地球温暖化でその生息地域が広がり、ここ10年で劇的に感染が拡大しています。
全世界100か国以上で年間合計、約1億人が発症し、うち約25万人が重篤な症状(デング出血熱)に見舞われていると推測されています。アフター・コロナでもその状況は変わりません。
(shutterstock/nekoztudio)
そして今、シンガポールで激増中だと言います。
CNNによれば、新型コロナウイルスの被害も大きいシンガポールでは、今年に入りデング熱の患者が14,000人以上報告され、この3週間は毎週1,000人以上。これまでの過去最高22,170人(2013年)を超えるペースで増加しています。
専門家はこの原因について、過去30年間発見されていなかった古いウイルス株の復活と、新型コロナウイルス対策としての自宅待機を挙げています。後者は、住民が終日家に滞在することで、蚊も吸血のために住宅地に集まり、蚊からヒト、ヒトから蚊へとウイルスが運ばれるためです。
渡航再開へ向けた交渉が続くベトナム、タイは、デング熱の“輸入元”常連国!!
現在、日本-シンガポール間は新型コロナウイルス感染症の流行により、渡航がストップした状態にあります。ただ、近年の国内デング熱症例の輸入元を見ると、それ以外の東南アジア諸国が中心。昨シーズンの上位4カ国は、フィリピン、カンボジア、ベトナム、タイでした。
(国立感染症研究所)
このうち、ベトナムとタイは現在、日本政府が入国緩和交渉に入っていることが報じられています。実際に日本からの渡航が再開された場合、特に現地の雨季にあたる夏の間は、新型コロナウイルス以上に用心する必要があります。同時に、デング熱の輸入もゼロというわけにはいかないと見られます。
なお、東南アジアでデング熱ウイルスを媒介している「ネッタイシマカ」は、過去には沖縄や小笠原諸島に生息し、九州で確認されたこともあります。近年では、国際空港のターミナルビル周辺や貨物便の機内での発見も相次いでいるそうです。
2007年以降は、海外から入国・帰国して発症した患者が毎年100~200例前後、コンスタントに報告されています。2010年は244例、2012年は220例でした。2016年には、海外からの帰国者がデング出血熱を発症し、亡くなっています。
デング熱ってどんな病気? 媒介するネッタイシマカ、ヒトスジシマカ、やられやすいのはいつどこで?
デング熱は、熱帯~亜熱帯地域に生息するネッタイシマカが媒介するデングウイルス感染症。デングウイルスは、先日のダニ脳炎ウイルスや日本脳炎ウイルスの仲間(フラビウイルスの一種)です。メスの蚊が感染者を刺し、吸血することで蚊に取り込まれ、そこから7日目以降、その蚊が別のヒトを刺すことで感染していきます。2~14日(多くは3~7日)の潜伏期の後、急激な高熱に襲われて発症します。
4人に1人が、激しい頭痛、筋肉痛、関節痛などの痛みに苦しみます。吐き気や嘔吐、皮膚の赤みなどの症状が出る人も。少しの光でも目を刺激して激痛が走り、真っ暗い部屋でじっと耐え忍んだ、という人もいます。重症化すると、出血、呼吸困難、全身器官の機能障害が出て、命を落とすことも。特に15歳以下の子供の感染が多く、注意が必要です。
(国立感染症研究所)
ネッタイシマカの特徴は、コンクリートジャングルのような無機的な環境でも生息できること。室内では、タンスの裏側、ベッドの下、つり下げられた衣服の間などに潜んで、人が近づくのを待ち伏せします。屋外でも、庭や軒先の日陰などにいる時に刺されやすいようです。
また、ネッタイシマカの活動時間は、主に日中、夜明けから日没までです。動きが素早く、捕まえるのは困難です。しかも、非常にしつこく、何度追い払っても戻ってきて、首筋や耳の後ろ、腕の後側など気づきにくい部位を刺されてしまいます。
一方、デングウイルスが日本国内に持ち込まれた場合、ネッタイシマカと同じ“ヤブカ”の一種、「ヒトスジシマカ」がデングウイルスを媒介するため問題となります。
(国立感染症研究所)
ヒトスジシマカは主に屋外で、公園や庭の木陰や茂み、林のはずれなど、いわゆる藪に潜んで人が近づくのを待ちます。ネッタイシマカとは違い、コンクリートジャングルのような無機的な環境には生活できず、明け方や夕方~夜に活発に吸血します。
実際、2014年には、国内感染が相次ぎました。その多くが代々木公園でヒトスジシマカによって媒介されたと見られ、大きな不安を呼びました。2019年にも、国内でデング熱に感染した患者が確認されています。
治療法なし、ワクチンは現在も開発中・・・では、どう予防すればいい?
残念ながら、今のところデング熱には特効薬や特段の治療法はなく、対症療法で回復を待つしかありません。その際、アスピリンを使用すると出血リスクがあるため、自己判断での解熱鎮痛剤の服用は、注意が必要。時節柄、急な高熱の場合は、いずれにしてもまず医療機関を受診されることをお勧めします。
また、予防ワクチンもいまだ開発中です。2015年にメキシコで世界初のデング熱ワクチンが認可されたものの、接種後の追跡調査で安全性の問題が見つかり、使用は限定的となっています。現在までに複数のデング熱ワクチンが臨床試験段階にあり、第Ⅲ相試験に入っているものもありますが、実用化にはもう少し時間がかかりそうです。
となると、流行地域に出向く場合や、万が一国内で症例が報告された場合には、ワクチン以外による予防に努めるしかありません。
まずは虫よけスプレー。虫よけ成分(ディートやイカリジン)の濃度の高いものを選ぶようにしましょう。おすすめは、2016年に国内解禁となったディート30%。長時間効き目が続きます。ただし、衣服の素材によっては傷めてしまうので、注意書きをよく読んで使用してください。
特に、東南アジアの蚊は「日本の蚊より何倍も強く、虫よけにも慣れている」などとも言われます。現地では濃度の高い虫よけ剤が主流ですし、航空機には液体成分やスプレー缶の持ち込みは制限されているので、流行地へ渡航する場合は現地で直ちに購入してください。
また、服装も大事。東南アジアなど流行地域で過ごす場合や、日本なら蚊の活動時間帯に藪に近づく時には、長袖長ズボンが無難です。どうしても暑い場合などは、虫よけ加工素材で出来たメッシュパーカーなども市販されていますので、上手に活用しましょう。
流行地に長期滞在する場合、あるいは日本でも、住居周りの「ボウフラ」(蚊の幼虫)対策も重要です。ボウフラは、水を満たした状態でしばらく放置される容器(水がめ、植木鉢の水受け皿、空き瓶・空き缶、古タイヤ、駐車場などの排水口の水たまり、クーラーの室外機の水の受け皿など)に発生します。
しかも、卵は乾燥状態で少なくとも1カ月は生存し、水につかると孵化します。ボウフラは約10日で成虫の蚊となります。ですから、水のたまりやすい容器などが放置されていないか、チェックすることをお勧めします。
ヒトスジシマカの幼虫(ボウフラ)の生息場所
(国立感染症研究所)
デング熱を経験したことのある人は、口をそろえて「非常に辛かった」「インフルエンザどころではない」と言います。特に今後の渡航再開に際しては、できる予防を確実に心がけ、ワクチンの実用化を待ちましょう。
(参考)
- 国立感染症研究所「デング熱ワクチンの現状と展望」
- 国立感染症研究所「日本の輸入デング熱症例の動向について」
- 国立感染症研究所「デング熱媒介蚊の生態(東南アジアを例として)」
- 東京都感染症情報センター「デング熱」
- 厚生労働省「デング熱について」
- 厚生労働省検疫所「デング熱」
(トップ画像:shutterstock/Thammanoon Khamchalee)