マスク着用が日常となったこの夏、かぶれやニキビのご相談が増えています。正しく知って予防しましょう!
【まとめ】
☆新型コロナ対策で夏場もマスク使用が求められる今年。気温・湿度の上昇とともに肌トラブルが増えています。
☆ナビタスクリニック皮膚科の佐藤典子医師に聞きました。問題は大きく分けてかぶれとニキビ。その原因は?
☆肌を考えたマスクの素材や選び方、使い方とは? 実はマスク着用で肌が乾燥する、って知ってた?
新型コロナ対策のため、夏だというのに外出時のマスクが当たり前の毎日。そのせいで肌トラブルに悩む方も少なくないようです。ナビタスクリニック立川・皮膚科の佐藤典子医師に、夏場のマスクトラブルと、マスク選びや使い方のポイント、スキンケアについて聞きました。
――今年は新型コロナ対策で、夏でもマスクを着用する必要に迫られています。それが原因で、皮膚科への相談が増えているそうですね。
佐藤医師 はい。特に5月のゴールデンウィーク明け以降、気温と湿度の上昇とともに、マスクによる肌トラブルでの受診やご相談が急増しています。マスクが肌にこすれたり、内側が蒸れたりすることから、着用部位に皮膚炎が起きてしまうものです。
最近、巷では「マスク皮膚炎」と呼ばれていたりもしますが、マスクによる肌トラブルの種類は大きく2つに分けられます。
一つは、接触性皮膚炎、いわゆる「かぶれ」です。
マスクが直接肌に当たって刺激し続けることで、その部位に炎症が起きてしまうもの。肌荒れが起き、赤みが出て、かゆみや痛みが出ます。女性の方のご相談が多いですね。女性は男性に比べて顔の皮膚が薄いためと考えられます。
もう一つは、いわゆる「にきび」です。
マスクの内部は温室のようになり、温度と湿度が上がります。皮脂(皮膚のあぶら)の分泌が増え、毛穴に皮脂が詰まってしまうと、その中でアクネ菌と呼ばれる常在菌が増えすぎてしまいます。すると毛穴に炎症が起き、赤いぶつぶつになったり、膿がたまったりします。炎症が強いと毛穴周りまで腫れ、皮膚がダメージを受けて、治った後も跡が残ってしまうのです。
――どちらも辛いし、ショックですよね。かといってマスクなしでの生活は、今は難しいです。マスクの選び方で、影響を軽減できませんか?
佐藤医師 ご相談に訪れる患者さんを診ても、かぶれやニキビを起こしやすいのは、圧倒的に不織布マスクを使用されている方です。
感染予防の観点では、不織布マスクが最も推奨されます。一方で、サージカルマスクや、家庭用の不織布マスクの多くは、鼻のところに形状保持テープが入った蛇腹形をしています。鼻の形に沿わせた上で、蛇腹を顎まで伸ばすことで、密着度が増すように出来ているんです。
また、内側の不織布素材として多いポリプロピレンは、ガサガサした感触で、接触による刺激も大きい素材です。ですから、不織布マスクは感染予防の点では高性能と言えますが、その分、スレやムレが起きやすく、肌環境は悪化しがちということです。
そこで、マスクによる肌トラブルで受診された患者さんには、ひとまず布マスクの使用をご提案しています。特にコットン(綿)やリネン(麻素材の一種)のガーゼだと、肌へのあたりも柔らかく、汗を吸収してくれます。
口周りのかぶれやニキビに悩まれている方には、水着素材などで作られた立体成型マスクもお勧めしています。立体成型のマスクは、着けていただくと分かりますが、蛇腹型と違って口周りが若干浮きます。直接的な刺激が減る分、肌ダメージの軽減も期待できます。
――お聞きしていると、どんなマスクを着けていても、肌へのダメージは大なり小なり免れないということでしょうか。
佐藤医師 はい。長時間着け続けていれば、スレやムレだけでなく、マスクの内側に雑菌も繁殖します。ですから、人出のある所への外出時間が長い場合や、人と接する時間が長い場合は、替えのマスクを2~3枚用意するのが望ましいです。
できればシーンによって、マスクを臨機応変に使い分けるようアドバイスしています。例えば、満員電車など混み合う空間や人との距離が近い場面では、やはり不織布マスクが最も適切です。一方で、人がまばらな空間や、距離が近づくことの少ないところでは、念のために布製などのマスクを着けておくのもよいでしょう。
周囲2m以内に人が近づく可能性がほぼない環境では、マスクを着ける必要はありません。特に屋外の開放空間で、家族など同居の方以外と接しない場合や、人通りのない道(時間帯)をジョギングする時などは、当然不要です。
――マスクを着けたり外したりするとなると、特に女性では、マスクの跡が気になる、恥ずかしい、という声も多いのでは?
佐藤医師 そうですね。その意味でもマスクの形状と、適切なサイズ選びは大切です。小さすぎるマスクを着けることは、頬への密着度も上がり、跡が消えづらいだけでなく、やはりかぶれやニキビの原因になります。
頬だけでなく、ストラップの当たっている耳の後ろの部分にも、大きな負担がかかります。最近は、マスクのせいで耳の後ろがかぶれ、受診される方が大変多いです。
ですから、鼻の付け根から顎までの長さと、鼻から耳までの長さを測って、マスクの大きさを確かめた上で購入するようにしてください。サイズと共に、素材選びも工夫されてもいいかもしれません。スポンジなどにも使われるポリウレタン製のマスクは、布マスクに比べ耐久性は劣りますが、伸縮性があります。
また、耳の後ろの肌トラブル防止に、マスクに取り付けて、耳の後ろでなく首でマスクを支えるグッズも増えてきています。
(久住医師出演・テレビ朝日「中居正広のニュースな会」2020年6月13日)
――最後に、マスクのダメージから少しでも肌を回復させるための、スキンケアについて教えてください。
佐藤医師 スキンケアの基本は、朝晩の洗顔です。過剰な皮脂を落とし、清潔を保つことで、肌のバリア機能の正常化を助けます。
また、皆さん非常に驚かれるのですが、実はマスクを長時間着けていることで、肌が乾燥しやすくなるのです。汗も皮脂も過剰に分泌される結果、肌の水分と皮脂のバランスが崩れてしまうのです。すると、余分な水分によって肌はふやけ、それが乾くときに必要以上に水分を奪われることになります。
ですから、洗顔後の保湿ケアもとても重要です。化粧水と乳液、クリームなどを順に使い、水分と脂分を適度に補ってください。
――マスクによって乾燥するとは意外でした。マスクそのものの選び方や使い方だけでなく、洗顔や保湿ケアがいっそう大事になってくるのですね。ありがとうございました。
マスクを外した時も気分良くいられるように、肌トラブルを予防していきましょう! もし気になる症状がでてきてしまった場合、間違った対処法で肌の状態を悪化させてしまうことが少なくありません。できるだけ早く皮膚科を受診して、医師にご相談ください。
佐藤典子(さとう・のりこ)
2004年、佐賀医科大学卒業。杏林大学医学部附属病院にて初期研修の後、2006年に同皮膚科学教室に入局。杏林大学医学部付属病院、公立阿伎留医療センター勤務を経て、2015年よりナビタスクリニック立川にて診療開始。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。趣味はピアノ。
(トップ画像:shutterstock/New-Africa)