患者は世界で毎年5,000~13,000人。日本を含む発生国でのアウトドア活動が多いなら、予防接種もオススメです。
【まとめ】
☆日本にもいるマダニが媒介するウイルス性脳炎。インフルエンザのような症状から、命に関わることも。受診の判断ポイントは?
☆草むらや茂みに入る時は、長袖・長ズボン・アウトドアブーツを着用。高濃度にディートを含む虫よけ剤を、素肌にも服にもかけて。
☆予防接種(3回接種)で3年間は安心。アウトドア活動が多い人はぜひ!
ダニに噛まれてウイルス性の脳炎に!? いわば“ダニ版日本脳炎”
ダニと言えば、布団やホコリの中にいて、人の血を吸い、かゆみをもたらすやっかいな虫(昆虫ではありませんが)、くらいの認識の人が多いのではないでしょうか?
ところがここ数年、たびたびニュースになっているのが、命にも関わる「ダニ脳炎」。
ダニ脳炎は、正しくは「ダニ媒介性脳炎」と言って、「マダニ」というダニが脳に異常をきたすウイルスを媒介し、全身に様々な症状を引き起こすもの※。さしずめ蚊が媒介する日本脳炎のダニ版、といったところです。世界でも毎年5,000~13,000人の患者が報告されています。
マダニは、家にいるダニ(イエダニ、コナダニ、ツメダニなど)とはまた別の種類で、家の中など人の管理の行き届いた場所にはまずいません。森林地帯の草むらや茂み、笹原、沢に沿った斜面、牧草地などがすみかです。飛んだり跳ねたりはせず、じっと人や動物がかすめて通るのを待っているのです。
マダニがウイルスを持っていなければ噛まれても問題ありませんが、万が一ウイルスを持っているマダニに噛まれ、発症した場合には命を落とすこともあります。日本でも北海道で年間数例が報告されており、野生動物での感染が拡がっていることが報告されています。
☆ダニ脳炎:注意呼び掛け 札幌の野生動物、1割感染 北大の研究チーム調査
(毎日新聞2017年5月12日 北海道朝刊)
通常、潜伏期間(症状の出ない期間)が1~2週間あって、そこからインフルエンザに似た発熱、頭痛、筋肉痛、吐き気などが続きます。その後、しだいにけいれんやめまい、神経錯乱、麻痺、昏睡といった脳の異常による症状に陥るタイプと、あるいは発熱の後、いったん熱が下がってから改めてこうした脳の異常症状が現れるタイプとがあります。前者のタイプでは致死率は30%にも上り、後者でも1~5%となっています。
※海外では、感染した動物のお乳やその加工品を非加熱で飲んだり食べたりしてうつることもあります。ナチュラルチーズは非加熱ですから、注意しましょう。
マダニに噛まれた! 受診する・しないの判断は?
マダニの体長は、2~3㎜と意外と大きいのも特徴。人に取り付いて血を吸えばもっと大きくなるので、全身を注意深くチェックすれば肉眼で見つけられます。万が一、アウトドア活動で、人の脚やペットなどに噛みついているダニを見つけたら、どうしたらよいでしょう?
まず直ちに、でも冷静に、先の細いピンセットなどで慎重につまみ、潰さないように、ひねらずまっすぐ上に引き上げて除去します。できるだけ皮膚に近い側をつまむのがコツです。

(英国国民保健サービス:NHS)
毛足の長いペットでは、皮膚に取り付いているマダニを見つけるのは容易ではありませんが、マダニ取り専用のピンセットはペットショップなどで売っています。
その後、噛まれた部分を消毒薬もしくは石鹸と水で、きれいに洗い流します。
自分でうまくできる自信がない場合は、人は皮膚科、ペットは動物病院を受診しましょう。
マダニに噛まれて、必ず脳炎を起こすわけではありません。うまく除去できて、とくに症状が無ければ受診する必要はありません。以下の①と②、両方に該当する人は、病院を受診しましょう。
①マダニに噛まれた、もしくは、感染性のマダニがここ数カ月以内に発見された地域を訪れた
なおかつ、
②インフルエンザのような症状(熱っぽい、寒気がする、筋肉が痛い、気分が悪い、など)がある、もしくは、患部が赤く大きく円形に腫れている
また、以下のどれかに1つでも当てはまる場合は、すぐに病院へ!
●首にこわばりがあり、耐え難いほどの頭痛がする
●光をいつもより眩しく感じる
●けいれん発作
●異常な挙動(急な錯乱状態など)
●体の一部が次第に動きづらくなってきた、動かなくなってきた
マダニに噛まれないために、できること。アウトドア派には予防接種もおすすめ。
ダニ脳炎は怖いけれど、だからといってアウトドアの楽しみを我慢するほどに恐れることはありません。自衛策を確認しておきましょう。
●アウトドア(ハイキング、キャンプなど)活動中は、必ず長袖・長ズボンで素肌を覆いましょう。隙間ができないよう、長ズボンの裾は靴下の中に入れましょう。サンダル履きはNG。アウトドア用のブーツや完全に足を覆う靴を履きましょう。
●「ディート」と呼ばれる虫よけ成分を高濃度に(20%以上)含む虫よけ剤※を、素肌と衣服の上にも使用しましょう。なお、虫よけと日焼け止めを一体化した商品はお勧めできません。日焼け止めの方が頻繁に塗り直す必要があるためです。また、傷口や肌荒れ部分に入らないよう注意し、口に入ったり粘膜に付いたりするのを防止するため、乳幼児の手の平や目・口周りへの使用は避けましょう。
●整地されたコースを外れて草むらや茂みなどに入るのは、可能なかぎり避けましょう。
●マダニを見分けやすく、除去しやすいよう、薄い色の服を着用しましょう。
●マダニが衣類に付着していないか、アウトドア活動中も頻繁に、終了後も必ず、全身をチェック。こまめにマダニを払うようにしましょう。
●マダニの好む場所(草むらなど)に入った場合は、2時間以内にシャワーを浴びるとよいでしょう。
ちなみに、虫よけ剤の中でもナビタスクリニック理事長の久住医師が特におすすめしているのが、ディート30%配合の「サラテクトミスト リッチリッチ30」(アース製薬)や「スキンベーププレミアム」(フマキラー)です。また、虫よけ成分を繊維に付着させた「着る虫よけ」衣類(インセクトシールド)も開発されています。洗濯70回でも効果が持続するそうなので、安全安心で経済的ですね。どちらも海外旅行(ヨーロッパ~アジア)にもお勧めです。
さて、こうして気を付けていても、残念ながら「絶対大丈夫」ということはありません。
ナビタスクリニックでは、ダニ脳炎を予防するワクチンをご用意しています。
3回接種で3年、ダニ脳炎ウイルスから身を守ることができます。ただし、効果が期待できるのは接種から1カ月後以降。夏休みにかけて、旅行やハイキング、登山などを計画されている方は、ぜひ今すぐご検討ください。
(参考サイト)
●CDC(Centers for Disease Control and Prevention、米国疾病管理予防センター)
●WHO(World Health Organization、世界保健機関)
●NHS(National Health Service、英国国民保健サービス)