新型コロナ緊急事態宣言が全国で解除されて1週間。感染者の減った今、何をしておくべきでしょうか?(2020/06/01放送)
【まとめ】
☆東京では患者数が再び増加傾向。緊急事態宣言の解除は正しかった?新型コロナは長期戦、持久戦に。
☆第2波は時間の問題。北九州では既に到来? 急増のブラジルからも感染者が羽田空港に…。
☆感染者の少ない今こそ、医療を守るための対策を。検査の徹底には、コロナ差別のない社会づくりが重要。
新型コロナウイルス感染症に対する緊急事態宣言が解除されて1週間。第2波に備えて今すべきことを、ナビタスクリニック新宿院長の濱木珠恵医師がBS11「情報ライブ インサイドOUT」にスタジオ生出演し、解説しました。前後編でまとめます。
解除から1週間で、人出も感染者も増えた東京。新型コロナは「持久戦」へ。
緊急事態宣言解除から1週間。この時期の解除について、
「患者さんを増やさない、という意味では、緊急事態宣言を長く維持するに越したことはなかったと思います。ただ、経済状況と天秤にかけた時にどうか、ということ。病床数のピークは越えたので、患者さんがまた入ってきてもなんとか受け入れられるだろう、という判断だと思います」
と、改めて濱木医師が振り返ります。
新宿歌舞伎町などの繁華街にも、人が戻りつつあります。これを気の緩みと捉えるべきかどうか…。そもそも想定されていたことでもあります。
「解除されれば、人は動くと思います。ただ、街中での買い物にしてもお店側にしても、ゼロか百かではなく、その中間で止めて様子を見る。前と同じ状態に戻ることは難しいと思います。小康状態を長続きさせるにはどうすべきかを考えなければいけません。
ゴールデンウイークが明けた後、どうなってきているかが今週来週あたり数字として出てきます。その数字を見ていくことになります」
実際、宣言解除後の状況を見ると、東京都はすでに人口10万人当たりの感染報告数が0.67人(6月2日現在)と、解除基準の1つだった「1週間の累積報告数が10万人あたり0.5人」を上回っています(解除時は0.34人)。1都3県横並びの中で、突き進んできてしまっている感もあり、東京都は「東京アラート」の発令を決めていると言います。
これについて濱木医師は、
「医療という面だけで見れば、(東京は解除せずに)抑えておいて頂きたかった、というのはあります。しかしそもそも緊急事態宣言、あるいはロックダウン、ステイホームといった措置は、あくまで一時的な窮余の策です。感染のピークが来そう、病床など医療機関のキャパシティを超えてしまいそう、というところを一瞬止める、というための強力策なんです。
新型コロナは長期戦になります。先の通り、経済を考えると緩和や解除はやむを得ません。ここへ来て、長い目で見てどうするか、持久戦へと舵を取り始めたのかな、と思います。もちろん油断はできません。また感染者が増えてしまえば、何らかの“締め”の策が必要になります」
と、経済活動再開は肯定しつつ、用心を促します。
第2波は時間の問題。北九州ではすでに到来? 1カ月で感染者6倍のブラジルからも…。
宣言解除後の今、非常に懸念されるのが第2波です。大正時代にパンデミックを引き起こしたスペイン風邪では、日本は第1波では致死率1.2%でしたが、翌年の第2波では致死率5.3%となりました。その計算で言えば、新型コロナウイルス第2波による死者は38万人にも上ることになります。
「基本的には第2波はどこかの時点で来ると思います。今回(第1波は)、日本は諸外国に比べるとそこまで感染者数が増えない状態で、3~4月にピークを越えました。しかし次の山が来た時に、同じように小さくて済むか、ぐっと大きくなってしまうかは、分かりません」
と、濱木医師。
「その時期がこの冬なのか、夏などもっと早い時期に来るのかも分からないです。コロナウイルス自体は冬に流行するウイルスとされているので、冬まで時間があるとは期待されています。しかしそう思って油断してもっと早いうちに来ると困りますので、いつ来てもおかしくない、と考えるべきです」
北九州市では、5月29日に感染者が29人報告されるなど、早くも第2波の到来が危惧されています。人口比率で言えば、東京なら数百人規模の感染です。
「北九州の場合も、第2波の始まりと捉えて対策をした方がいいと思います。怖いのは、経路不明な方が多い状況です。隠れた感染者がその何倍、何十倍いる可能性があります。そういう意味でも、まだ手綱を緩めすぎるべきではないと思います」
と、濱木医師。同じくスタジオゲストの古川勝久氏(危機管理・安全保障専門家)も、
「濱木先生も前からおっしゃっていたPCRの拡充がここへ来て進んできたことで、見えなかった感染者を拾い上げることが出来てきたのかもしれません。だからもしかしたら、第2波というよりは、第1波がずっと続いているのかもしれない。それを今つぶしている。であれば、この状況は良いことです。これをもっと他の自治体でも行わなければならない。他の自治体では、むしろ状況が把握できていない可能性がある。そちらを懸念するべきだと思います」
との見解を示しました。
今後の第2波到来に大きく影響するのが、海外での流行状況。
例えば、経済優先策を公言するブラジルでは、この1カ月で感染者が6倍に増え、50万人を超えて世界第2位に。日本にとっても無関係ではありません。5月25日には羽田空港に到着した外国籍の男女4人の感染が判明、うち3人(家族)はブラジルに滞在していました。
「やはりまず検疫のところでスクリーニングの上で2週間隔離は徹底していただく。それ以外にやはり、PCR検査数を増やすことも必要です。闇雲に増やすのでなく、海外から戻ってきた方や、もちろん症状のある方を優先に、ということです」
と、濱木医師は警戒を緩めないよう強調しました。
第1波を持ちこたえた医療を守る対策を今こそ。“コロナ差別”が検査の徹底を阻む!
第2波を備えるにあたり、医療体制の不安要素は、ベッド数だけではないようです。濱木医師は、
「ベッド状況は、数としては少し余裕が出ています。ただ、これまでの新型コロナ診療は、医療スタッフの大きな負担の上に維持されてきました。現場のスタッフからは、十分な感染防護具がない中で患者さんをみることに、いつまで自分たちが耐えられるか、という声が当初から上がっていました。この凪の時期に十分な感染予防のための準備をして、第2第3波に備える必要があると思います」
と、医療者や院内の感染を防ぎ、医療人材の流出を防ぐ必要性を訴えました。
また、医療の継続困難は、ウイルスによるものだけではありません。
「新型コロナウイルス感染症の患者さんを見れば見るほど赤字になっていく、という話もよく聞きます。医療機関としては、従来はかかっていなかった感染予防のための費用が上乗せされています。防護服ですとか、消毒用アルコールや医療用マスクが入手困難で値上がりしていたりですとか。
ですから、今この小康状態の時期に第2波等への準備をしていくにしても、予算的に、通常の保険点数だけではカバーしきれません。ぜひ、そこをカバーするための点数をつけていただきたいと思います」
と、濱木医師は、医療機関が直面する経営困難を訴えます。現場から医師や看護師他のスタッフが次々去らねばならない事態に陥る前に、実効性のある対策が必要です。さらに、
「今もまた出てきている経路不明の感染ですが、不明の原因にも色々あります。感染を隠される方もいますし、本当に判明していない方もいます。問題は、感染が『悪いこと』として差別されてしまうと、どんどん隠す方が増え、感染しているかもと思っても検査を受けない方が増えることです。不安だけが広がってしまいます。
ですから、感染が『悪い』こととされず、社会や一人ひとりが、この状況では当たり前のこと、普通のことと受け止めることが大事です。そうして検査を受けやすい、経路を明らかにしやすい状況を作る必要があります」
と、第2波に向けて、社会の理解を求めました。
※後編に続く。
ナビタスクリニック新宿院長
濱木珠恵
(画像はBS11 「情報ライブ インサイドOUT」2020年6月1日放送より)