経済・社会活動の再開で、気になるのが通勤リスクやマスクの扱い。最新のアプリから学説、データを紹介します。(2020/05/30放送)
【まとめ】
☆「満員電車は3密ではない」って本当? 満員電車を避けられるスマホアプリも。接触確認アプリとの併用を。
☆実際の感染者数はPCRで判明しているより多く、死亡率はもっと低い? 注目の指標「超過死亡」って?
☆マスクは結局効果がある? それどころか熱中症リスクも!? 乳児は不要と日本小児科医会が表明したのはなぜ?
新型コロナウイルス感染症に対する緊急事態宣言が解除され、人々の生活は徐々に“平常運転”に戻りつつあります。それでも各地で新たな感染クラスターが確認されるなど、ウイルスはいなくなったわけではありません。そこで気になるのが、外出時にとるべき行動のあれこれ。
5月30日放送の「中居正広のニュースな会」より、今回は通勤時の心構えや便利ツール、そしてマスクの着用について。ナビタスクリニック理事長・久住英二医師の解説をまとめます✨
「満員電車は3密じゃない」って本当? 飛沫より気になる接触感染。
新型コロナウイルス感染症の予防の基本とされるのが、「3密」(密閉・密接・密集)の回避。そのため、宣言後は通勤手段を電車から自転車に切り替えた人も多いようです。
ところが、満員電車は、3月9日の専門家会議で「クラスターが発生しやすい『3密』には当てはまりにくい」との見解が示されています。「近距離での会話や発生があまりなされないから」だと言います。本当でしょうか? 久住医師は次のように話します。
「都心の電車は実際ぎゅうぎゅうですよね。でも、誰がいたかという特定もされにくいので、言ってしまえば、クラスターが発生していても見えていないんです。それが、ライブハウスなど、いわゆるクラスターが報告されている場所との違いです。
一方で、最近では皆さん気を付けていて、マスクをしたうえで喋らずに乗車している方が多いですし、窓を開けて換気が徹底されています。ですから、以前よりは感染リスクは下がっているとは考えられます」
すると、リモート出演の柳澤秀夫氏(元NHK解説委員)氏が、「でも、満員電車だと吊り革などに触らざるをえないこともありますよね。その手でスマホや顔に触ってしまうかもしれない」と指摘。
「はい。感染経路は、飛沫感染と接触感染、大きく2つあります。飛沫感染の予防に関しては、換気が有効なことがオランダの研究グループから発表されています。十分に換気をすれば空中のウイルスが半減するまで30秒だったのに対し、換気をしないと5分かかりました。また、マスクをしていない場合は、咳エチケットを守っていただく。咳やくしゃみは手で受けずに、ひじの内側で受けてください。
接触感染については、安全のために吊り革をつかんだ場合は、その手で目・鼻・口、つまり首から上には触れないようにすることが大事です」(久住医師)
MCの中居正広さん(以下、中居君)も、「満員電車じゃなくても、外出して何かに触ったら、顔はその手で触らない、という心掛けが必要ですね」と再確認していました。
満員電車を避けられるスマホアプリも登場!「接触確認アプリ」との併用がおススメ。
また、満員電車を避けたい人のため、東京より一足早く宣言解除となった福岡では、LINEと西鉄電車が混雑率の分かるアプリを共同開発。2路線の朝7~10時の各電車の混雑率が示されます(混雑率100%は全ての座席が埋まり、全ての吊り革が使用されている状態)。5月21日からサービス開始しています。
「電車は通勤だけでなく病院への通院にも使われますから、そういう方にとっては有効に使えるツールで、安心材料になると思います」(久住医師)
これに加えて、前回放送(5月23日)で紹介した「接触確認アプリ」を併用するのがおススメ。陽性と判明した人が入力すれば、プライバシーを守りながら、数日間の接近者にお知らせが行きます。ただ、スタジオの劇団ひとりさんは「接近しましたよ、というよりも、接近する前に教えてほしい」と意見。
「発病してしまった人は既に病院やご自宅にいる、というのが前提になっています。そもそも新型コロナウイルスは発病の2日くらい前から人にうつし始めるんですよね。感染が後から判明するので、その2日前、過去にさかのぼって接していた人にお知らせが行く、という点で、接触確認アプリは意味があるんです」(久住医師)
このアプリについては前回同様、リモート出演メンバーからも意見や質問が相次ぎました。
「ただ、感染者と接触したというお知らせが来た時に、すぐにPCR検査をしてもらえる段取りになっていればいいですけれど、それくらいのことで病院に来てもしょうがない、家で様子を見ろと言われたら意味がないですよね」(柳沢氏)
「検査だけ拡充しても仕方なくて、検査と隔離をセットにしなければいけないですよね。その時実際にどれだけ隔離施設が必要になるのか…」(社会学者の古市憲寿氏)
実際の感染者数は数十倍で、死亡率はもっと低い? 注目の指標「超過死亡」とは?
これを受けて久住医師は、感染率や死亡率などの指標について、問題を指摘。
「診断されている方の他に、どれくらい診断されていない方がいるか。感染者の全体像が今、色々な国で抗体検査によって調べられ初めています。抗体は、過去に感染したことがあると体の中で作られるタンパク質です。それによると、PCRで報告されている数十倍は感染者がいることが分かっています」
「PCR検査陽性者数を分母に、亡くなった方を分子にして計算する現行方式では、死亡率の数値は大きくなります。しかし、実際の感染者数を分母にすれば、死亡率の数値は下がります」(久住医師)
「一方で、亡くなる人全体の数が例年よりなぜか増えている、という話もあります。『超過死亡』と言って、感染症流行で直接的・間接的に死亡者がどの程度増えたかを、平年の死亡者数と比較して推定した数値です。感染症そのものでなくても、その合併症などで亡くなる人もいます。例えば、インフルエンザ後は平時に比べて心筋梗塞の発生率が6倍くらい上がります」(久住医師)
「ヨーロッパのデータでは、3月後半くらいから例年に比べて死亡者数がすごく増えています。この内訳を見ると、新型コロナPCR陽性で亡くなった人数よりも原因不明の死者数の方が多いんです。ですから新型コロナが本当にどの程度社会に影響を与えているかは、超過死亡を見なければ分からないと言えます」(久住医師)
PCR検査が進んでいる海外諸国でも、全国民を網羅できるわけではないため、「超過死亡」への注目が高まっている、というわけです。
着けて外して、また着けて…マスクも使い方次第で感染源に! 過信も禁物です。
解除後の生活では、マスクの着用についても意見の分かれやすいところ。人が少ない屋外ではマスクする必要はない、と考えている人は多いようです。マスクを外す必要がある場面では、いったんポケットなどにしまっておいたマスクを再び使う必要も出てきますが・・・。
「最近は、布マスクをされる方が増えています。布マスクは当然、使い捨てにはなさらないですよね。会社や電車ではつけて、外では外してポケットに入れて、という繰り返しが常態化します。すると、マスクそのものが汚染されて感染源になりうると思います。
患者さんの使ったマスクであれば内側に、健康な人が使い続けたマスクなら外側に、ウイルスが付着します。マスクをすることが接触感染リスクを増やすことになりかねません」
と、久住医師は指摘します。
「香港大学などの研究グループが、新型コロナウイルスではなく一般的な風邪のコロナウイルスについてマスクの効果を調べたところ、マスクをしていない場合は3割の呼気からウイルスが検出されました。一方、サージカルマスクを着用している場合は、ウイルスは検出されませんでした」(久住医師)
「これは風邪のコロナウイルスなので、新型コロナでどうかはまだ確定的ではありません。また、研究によってマスク着用によって全く検出されなかった、という場合と、少しは検出されたけれどもだいぶ抑えられた、としているものがあります。ですから完全にシャットアウトできるとは考えない方がいいでしょう。マスクさえしていれば人との距離を空けなくていいとか、ペチャクチャしゃべっていい、というものではありません」(久住医師)
マスクのせいで熱中症に?! 体温調節が苦手な乳児に、夏のマスクはリスクに。
マスクに関しては、これからの時期、特に夏は蒸し暑くなり、熱中症を助長する心配も。中居君も、「湿気と暑さで、マスクをしていると蒸れるし、温度はどんどん上がっていってしまいますよね」と問題意識を示します。加藤厚労大臣も、5月26日後の閣議後の記者会見で、「屋外で十分な距離が確保できる場合には、マスクを外すこと」と発言しました。
久住医師も、
「吐く息には、外に熱を逃がす効果もあります。それが体温調節をするうえでかなり役に立っています。ですからそこを塞いでしまうと、熱が逃げなくなる。汗をかかなくなるのと同じような状態になり、熱が体内にこもってしまいます。冬にマスクをすると暖かくていい、と言う女性もよくいますが、ではそれが夏だったらどうか、ということです。マスクは適切に扱わないと感染源にもなりますし、体温調節の妨げにもなりますので、どう取り扱っていくか、注意が必要です」
と説明します。
なお、2歳未満の乳児ついては、マスクは必要ないと、日本小児科医会が声明を出しています(5月25日)。乳児は呼吸器の空気の通り道が狭いため、マスクの着用によって呼吸をしにくくなり、心臓に負担がかかると言います。また、やはりマスクで熱がこもって熱中症のリスクが高まることが指摘されています。

(日本小児科医会)
劇団ひとりさんにも1歳と3歳のお子さんがいらっしゃるそうですが、久住医師は、
「他のお友達とよく遊んだりするようになったら着けてあげてもいいでしょう。また、1~2歳までは筋力も弱く、呼吸の妨げになりえますが、3歳くらいになると体も筋肉がついてきますし、意思表示もできますから、使っても問題なくなってきます」
と、アドバイスしました。
※後編に続く。
久住英二(くすみ・えいじ)