迅速な新型コロナ対策のドイツで、なぜ死亡率が日本を上回っている? 第2波に備えながら社会活動を再開していくには?(2020/05/23放送)
【まとめ】
☆新型コロナ対策で評価されているドイツ、なぜ死亡率が日本より高い? 芸術を守る破格の国策とは?
☆6~7月開幕目指すプロ野球。一方、夏の甲子園決定は正しい? 感染者は必ず発生します。責任論はNG!
☆国が6月導入を目指す「接触追跡アプリ」ってどんなもの? メリットは? プライバシーは守られる?
5月23日放送、テレビ朝日「中居正広のニュースな会」後半。行動制限の緩和が進むドイツを紹介。さらに、第2波の広がりを最小限に抑えるために、どう備えるべきか? 国が導入を目指す「接触確認アプリ」とは?・・・ ナビタスクリニック理事長の久住英二医師による解説をまとめました。
※前編「制限緩和した中国・韓国は今?」はこちら。
迅速な新型コロナ対応が評価されているドイツ、なぜ死亡率が日本より高い?
新型コロナウイルスによる死亡率の高い欧米にあって、ドイツは対応が迅速で、比較的死者数を抑えられていると言われてきました。3月の下旬にはロックダウンを開始しました。
「ドイツでは、流行の始まりに対して検査の開始が早かったですし、人口当たりの集中治療ベッド数も非常に多いんです。ですから重症の方が出ても、きっちり治療する体制がありました」(久住医師)
ドイツは連邦共和国で州の力も強く、政府対応が遅れている部分では州独自に対策を実行してきたといいます。また、ドイツ国民からすると日本は対応の遅さが目につき、原因は東京五輪開催への固執ではないかと見られていたそうです。
他方、ドイツの新型コロナ死者数は、10万人あたり約10人。一方、日本は10万人あたり約0.6人と、10倍以上の開きがあります。
これについて久住医師は、
「ドイツはヨーロッパの中では非常に死亡者数を低く抑えています。今、仮説として言われているのが、ヨーロッパで流行中の新型コロナウイルスは病原性が強いのではないか、ということです。つまり、ドイツやヨーロッパでは、日本とは起きていることが違うんじゃないか、と。日本でこれだけ対策が遅れているにも関わらず、なぜこれだけ死者数が少ないのか、世界中が不思議に思い、興味を持っています」
と説明します。すると、「だったら、後々ヨーロッパのウイルスが入ってきたら、日本でも同じことになっちゃうんですか?」と、スタジオの劇団ひとりさん。
「そこはまだ分かっていませんが、その可能性はあります」
と、久住医師は経済・社会の回復を目指しつつも、気を緩め過ぎないよう、注意を促しました。
ドイツは一足早く制限を段階的に解除。芸術活動を守る破格の対応とは?
ドイツは、経済活動の立て直しへの動きも日本より一歩進んでいます。5月6日には、解除を段階的に行うと発表しました。
規制の緩和後、それまではデリバリーとテイクアウトだけだったドイツの飲食店も、イートインを再開。利用客は入店時や事前に氏名や携帯電話番号などの登録を求められ、店側が記録を4週間など一定期間は保管します。感染者が発生した際に、追跡して連絡を取れるようにするためです。
店内では、テーブル間は1.5m空けることになっています。ですからドイツ国民の楽しみであるビアガーデンも、これまで通りにはいきません。長いベンチで腕を組んで歌って飲んで、というオクトーバーフェストも、今年はお預けになりそうです。
また、ドイツは芸術やアーティストを重んじる国でもあり、美術館や博物館なども、1.5mの人との距離が保てる芸術関連施設を早々に再開。ドイツ文化大臣は「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」と声明を出しています。アーティストを含む個人事業主の緊急支援策を国が率先して整備し、ホームページから申請できる仕組みも真っ先に作られました。3か月分、最大9,000ユーロ(日本円で105万円)が一括給付されます。
一方、緊急事態宣言が解除された日本でも、様々な業界で感染を防ぎながら営業を行うための取り組みが始まっています。
例えば「2度づけ禁止」だった串カツ屋さんでは、ソースに浸けるスタイルから、かけるスタイルに変更。映画館ではソーシャルディスタンスを守るために、観客は2席以上間をあけて着席することで距離を保ちます。カラオケ店でも、消毒の徹底、店員のフェイスシールドの着用、個室の人数は定員の半分以下にする、などの取り組みがあります。
「お客さんが触れたものを直ちに消毒するのはいいことです。その際、アルコールではなく、洗剤や次亜塩素酸を使ってください。アルコールは人体にも安全に使用でき、しかも医療機関でも今は手指消毒用のものが不足しているくらいですので、物の消毒には使わないでいただきたいと思います。もちろん、手指消毒用のアルコールシートなどを使ったうえで、すぐにそれでテーブルを拭く、といった有効活用ならかまいません」(久住医師)
プロ野球開幕へ。一方で、夏の甲子園中止の判断は正しい? 責任論がダメな理由。
ドイツでは、プロサッカー(ブンデスリーガ)が待望の再開。選手は全員PCR検査を受け、無観客で行われます。放送権やグッズ販売、ビール消費などの経済効果が期待されています。
日本のスポーツ界では、プロ野球が6月中旬~下旬の開幕を目指しています。広島東洋カープでは、5月21日から「マツダスタジアムを見に行こう」と題し、広島県内在住ファンを1軍の練習に抽選で500人招待するイベントを開催。1組4人に20席を割り当てて十分なスペースを確保。マスクの着用や検温(37.5度以上は不可)を義務付けています。スタッフもフェイスシールドなどで対応しています。
「人との距離を空けることや、フェイスシールドで、飛沫感染を防ぐことができます。また、接触感染を減らすには、手洗いや消毒の徹底が必要です」(久住医師)
一方で、高校野球は夏の甲子園が中止に。ただ、都道府県独自の大会を開催するかどうかは、各地の高野連の判断にゆだねられています。
これについて久住医師は、
「これはどこかの競技団体が、言葉は悪いですが抜け駆け的に始めないと、みんな様子を窺って、いつまでたっても始まらないと思います」
と、独自の見解を示します。
「例えば韓国でプロ野球が始まりましたが、そのやり方で感染が広がるのかどうか、参考にする。あとは、地方によっては地区大会をやってみて様子を見て、7~8月は無理かもしれないけれども、プロ野球のシーズンが終わった時期に上位大会を行う方針にする、といったことも考えられます」
「どの団体やスポーツを再開しても、必ず新型コロナウイルスの感染は起きます。『だから再開してはダメ』『だれが責任を取る』という議論ではなく、それを想定の上で、どこで感染が起きたのかを直ちに把握して接触を避ける、など、実践しながらより安全な方法をとっていく。そうやって模索していかないと、いつまでたっても始められません」
「特に野球など屋外スポーツは、屋内スポーツに比べれば感染リスクは低いものが多いと考えられます。野球やサッカーは人気もありますので、そういうところから率先して再開してみて、道を切り開いていただければと思います」
国が6月導入目指す「接触確認アプリ」って何? これで第2波は乗り切れる?
第2波の到来を見越して、その広がりを最小限に抑えるため、国が6月導入を目指しているのが「接触家訓アプリ」です。
GoogleとAppleが共同開発したスマホアプリで、登録者同士が接近すると両者のスマホに記録が残ります。登録者は自分の陽性が判明したら、陽性情報をアプリに入力。スマホの記録をもとに、過去数日中に接触のあった人に自動で通知が届く仕組みです。スマホへのダウンロードは任意。個人情報との紐づけはなく、感染者特定の心配はありません。日数や距離などは現在詰めているところだと言います。
久住医師も、
「企業や学校、もしくはライブの主催者等による利用が考えられます。新型コロナウイルスは発病の2日くらい前から感染力があるので、熱など症状が出た時点からの接触者だけが特定できればいいわけではありません。発病前に接触した人に警告が出せるなら、非常に大きなメリットがあると思います」
と、評価します。
「個人情報が保護された形で接触歴が分かる、というのは、この感染症を封じ込めるうえでとても大きな意味があると思います。一方で、アラートが来た場合に、どうやって自分の感染を確かめることができるか。現在よりも検査を簡単に受けられる体制を国がどんどん整備することが求められます。
唾液でのPCR検査ができるようになれば、検査は格段にやりやすくなります。科学的にも、鼻からのPCR検査と同じくらいの精度があることは分かっています。問題は、それを健康保険等で行うとなると厚労省の認可が必要であり、そこに要するスピードです。
経済・社会の回復に向けて人が動く中で、どんなに気を付けていても感染する人は必ず出てきます。企業によっては『感染したらクビ』と言っている社長さんもいると、患者さんから聞きました。そうではなく、感染した人が速やかに申し出て、休みをとれるような、ウイルスと共存していく社会にいかに早く移行していけるかが大事です」(久住医師)【完】
※前編「制限緩和した中国・韓国は今?」はこちら。
久住英二(くすみ・えいじ)