新型コロナによる死亡率が低いのは本当に“日本モデル”のおかげ?久住医師がインタビューに応じたNPR番組を和訳します。
【まとめ】
☆国としての対策の不徹底ぶりの割に、新型コロナによる死者数の少ない日本。世界中が不思議に思っています。
☆医療現場もその理由は「誰も分からない」と久住医師。ただ、“日本モデル”のおかげだとは「誰も思っていません」。
☆日本の低死亡率は欧州・米州とウイルスが違うから? 低死亡率はアジア共通。むしろ日本はアジア内ワースト・・・。
NPR(米公共ラジオ)【日本のパンデミック管理成功のウラにあるもの】
What Lies Behind Japan’s Successful Management Of The Pandemic
(ナビタスブログ編集部訳。意訳を含みます)
2020年5月26日
アンソニー・クーン
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)による死亡率で見る限り、日本のコロナウイルス対応は世界の国々と比べると、成功を収めていると言えます。しかし日本人の多くは、アウトブレイク(流行勃発)に対する自国政府の対策に不満を持っているようです。
メアリー・ルイーズ・ケリー氏(MC):
日本は昨日(5月26日)、首都圏の1都県と北海道の緊急事態宣言を解除しました。日本のCOVID-19による死亡者は、比較的少ない数にとどまっています。しかし、NPR(米公共ラジオ局)のAnthony Kuhn(アンソニー・クーン)がソウルから報告したように、日本人の多くは「日本政府のウイルス対応にも関わらず、そうした良好な結果が得られた」という見方で一致しています。
クーン氏:
これまでのところ、新型コロナウイルス感染により命を落とした日本人は約850人、つまり人口100万人あたり約7人です。これに比べ、米国の死亡率は約44倍です。日本では、人口約1億2,600万人のうち約1万7,000人が感染しています。安倍晋三首相は月曜日(5月25日)に非常事態を脱したと宣言しました。
(挿入音声:安倍首相のスピーチ)
クーン氏:
安倍首相は、「私たちは、日本ならではのやり方で、わずか1カ月半で流行をほぼ収束させることができました」と主張しました。「日本モデルの力を示しました」と。しかし一部の専門家は、日本の検査数は非常に少なく、実際の感染者数を知ることは困難だと言います。専門家会議副座長の尾身茂博士は先日、国会でこの点を指摘しました。
(挿入音声:尾身博士の答弁)
クーン氏:
尾身博士は、「(実際の感染数が、報告数の)実は10倍か、15倍か、20倍かというのは、今の段階では誰も分からない」と語りました。であるとしても、感染症に詳しいナビタスクリニック理事長・久住英二医師は、ウイルスが日本の人口を本当に減少させているとすれば、見過ごすのは難しいと指摘します。
(挿入音声:久住医師インタビュー)
クーン氏:
久住医師は、「なぜ医療機関が肺炎患者で溢れかえる事態になっていないのか、私たち日本の医師も、その理由をまだ誰も分からないんです。さまざまな仮説はありますが」と話します。米国やヨーロッパで猛威を振るっている新型コロナウイルスは、なんらかの変異を起こしているか、アジアの新型コロナウイルスとは別物、といった医学的仮説があります。あるいは、握手の代わりにお辞儀をする日本の習慣など、文化的な説明がされてもいます。そして久住医師はさらに、日本人がわざわざ言及しない要因を挙げています。
(挿入音声:久住医師インタビュー)

久住英二医師
クーン氏:
久住医師は、「政府がやったことでうまくいったとは、国民は誰も思っていません」「自分たちが非常に幸運だっただけだということを、国民は認識していると思います」というのです。
(挿入音声:久住医師インタビュー)
クーン氏:
新型コロナ対策の成功を強調したものの、朝日新聞による週末の世論調査では、安倍首相の支持率は29%と8年ぶりの低い数字に下落しました。ほとんどの日本人が、安倍首相の非常事態宣言は遅すぎたと感じています。4月には、安倍首相は各世帯に2枚ずつ布マスク配布しようとしましたが、人々は口々にその政策を「アベノマスク」と揶揄しました。「アベノミクス」と称される安倍政権の経済政策をもじったものです。
(中略)
クーン氏:
日本経済はすでに不況にあり、最近の世論調査によれば、安倍首相は企業の存続を支援するのに十分なことをしていないと、ほとんどの日本人が感じています。安倍首相の失策や、(新型ロナウイルスによる)死者数の少なさへの明確な説明の欠如にもかかわらず、日本は最終的に流行をうまく管理している国の1つに数えられるかもしれない、とポール・ナドー氏(日本ウォッチングのwebサイト「東京レビュー」の共同編集者)は主張しています。そしてそれは、基本的なヘルスケアへの投資、連絡先の追跡、手洗いなどのファンダメンタルズ(国や企業などの経済状態などを表す指標)に集約されることになる、と言います。
(後略)
新型コロナ死亡率が低いのは、本当に日本モデルや日本人の習慣・特性のおかげ?
日本の新型コロナウイルス対策の不徹底ぶりと、それにも関わらず感染爆発や死者数の激増といった悲劇的展開を免れてきたことは、今や世界中から不可解に思われています。
NPRの伝える通り、政府や専門家会議はそれを自分たちの主導した“日本モデル”の成果だと主張し、また日本人自身も、国民の元来の衛生意識の高さや習慣(手洗い励行、玄関で靴を脱ぐ、お辞儀など身体接触の少ないコミュニケーション法)のおかげだと自負する空気があります。
しかし、ナビタスクリニック新宿で診療を行う上昌広医師(医療ガバナンス研究所理事長)は、『週刊女性』(2020年6月2日号)で、以下のように指摘しています。
「欧州や米国東海岸(ニューヨークなど)の大西洋を隔てて広がるエリアのコロナと、アジアや米国西海岸(ロサンゼルスなど)の太平洋エリアのものでは、感染力も死亡率も大きく異なります。
同じコロナウイルスでも種類が違う可能性が高い。より猛毒性があると思われる大西洋タイプが入ってきたら、これまでの対策ではもたないでしょう」

上昌広医師
札幌医科大学作成のデータベースによれば、人口100万人以上かつ100万人当たり感染者数が10人以上の国は、5月27日現在把握されているだけでも、世界で19カ国あります。死亡率が低い順に並べてみると、アジア・オセアニア圏の全6カ国で上位6カ国を占めていることが分かります。他方、世界平均より死亡率の高い9カ国は、全て欧州・米州です。
(札幌医科大学「人口当たりの新型コロナウイルス死者数の推移【国別】」)
紫色が日本。詳しくは上記リンクからご確認ください。
(人口100万人以上かつ100万人当たり感染者数が10人以上の19カ国:上記データベースより作表)
たしかに、欧米型とアジア型では同じ新型コロナウイルスでも、何かが違いそうです。そして、日本の100万人あたり死亡数はアジア・オセアニア圏6カ国中ワースト1であることは、大いに気にかかります。
ウイルスの変異は自然に起きるもの。やはり第1波での被害が欧米より低レベルに抑えられたのは、「非常に幸運だっただけ」に見えます。緊急事態宣言が解除され、街には急速に人が戻り始めています。今度こそ、必ずやってくる第2、第3波にいかに備えるかが問われますね。
(トップ画像:shutterstock/Viacheslav Lopatin)