新型コロナウイルス緊急事態宣言から1カ月超。「あの件、どうなった?」をあれこれ検証していきます。(2020/05/16放送)
【まとめ】
☆新型コロナウイルス、PCR検査数が今も1日1万件に及ばないのはなぜ?そんな中、新たに承認された「抗原検査」とは?
☆世界では今、118のワクチン計画が進行中で8つが臨床試験段階。しかし実用化~普及には年単位でかかりそう。
☆大阪大学で開発中の「DNAワクチン」は9月にも数百人規模の臨床試験へ。従来のワクチンと何が違う?
今回のテレビ朝日「中居正広のニュースな会」(5月16日放送)のテーマは、「新型コロナ対策、1カ月前と比べてこう変わった」。前編は検査体制とワクチン開発について、ナビタスクリニック理事長の久住英二医師による解説をまとめます。
PCR検査、実施数は今も1日1万件未満。なぜ伸びない? 新たに承認された「抗原検査」とは?
安倍総理がPCR検査数を倍増して1日2万件体制にすると表明したのが、4月6日。それから1カ月あまり、5月12日までの実際の1日あたり検査数は最大でも9,387件(4月23日)と、目標の半分以下にとどまっています。その後も特に増えていません。
5月15日には、PCR検査能力が1日22,000件に達したとの報道もありましたが、実際の検査数が伸びないのはなぜなのでしょうか?
この原因について久住医師は、
「検査する必要性が減っている、ということが考えられます。発病する人が減っていれば、検査は減ります。実際、私が周りの医療者に聞く限りでも、『もう感染した方も退院して、うちの病院にはもうコロナの患者さんはいないよ』『病棟も大分すいてきているよ』という声が多くなっています」
と説明します。緊急事態宣言以降の活動自粛の効果が出てきて、一時的にせよ感染の勢いは収まっていると見られます。
一方、PCR検査だけでなく、新たに「抗原検査」にも関心が集まっています。
4月27日、大手検査試薬メーカーの富士レビオが、「抗原検査」キットを厚生労働省に承認申請。それから3週間後の5月13日に承認を得ました。検査時間がおよそ30分と短いことから、医療現場での使用が期待されています。
「PCR検査は、ウイルスの遺伝子の有無を調べる検査です。それに対し抗原検査は、ウイルスの殻に刺さっているタンパク質の有無を見る検査です。インフルエンザの簡易検査と同じような仕組みで、鼻に綿棒を入れて検体を採取し、調べます。
結果が出るまでに1~2日かかるPCR検査と違って、抗原検査はその場で結果が分かります。ただし問題は感度。正確さはPCR検査の6~7割のとされています。PCR検査も検体をどこから採ってくるかによって感度が変わり、鼻の奥から採った場合は6~7割と言われます。さらにその6~7割ですから、今のところ50%未満ということです」(久住医師)
この数字については、「そんなに感度がよくないのに承認される、というのは・・・?」と、納得いかない様子の中居君。久住医師は、
「これは、PCR検査の数に限界がある中で、PCR検査の数は温存しつつ他の選択肢を増やす、という意味があると考えられます」
と解説します。
なお、検査対象の範囲については、無症状の人まで誰でも検査を受けられるようにすべきかどうか議論があり、医療資源・体制の維持の観点からも意見が分かれるところです。しかし日本では現状、医師や相談センターが必要と判断した人のみ検査を受けられます。検査体制を拡充したからと言って、希望者が急に殺到するとは考えにくい状況。第2・3波の到来に備え、検査体制の拡充は引き続き進めるべきと言えそうです。
世界中で開発が進むワクチン。それでも世界的な普及までには1~2年かかります。
検査体制と並んで気になるのが、ワクチンの開発状況。1カ月前と比べ、どの程度進んでいるのでしょうか?
4月15日、中国科学技術省が、開発中の新型コロナウイルスワクチンの1つが臨床試験の第2段階に進んだことを発表。臨床試験の第1段階は安全性の確認、第2段階は有効性確認が主な目的です。WHOは、この時点で世界で70種類以上のワクチン開発が進んでおり、臨床試験の第2段階は世界初としていました。
その後、この臨床試験は508人のボランティアに対して実施され、現在は経過観察中。年末の実用化を目指していると言います。このワクチンに関しては、
「中国でしっかりとしたデータが出れば、治療薬の緊急承認と同じように、日本でもワクチンを承認して緊急輸入し、国内で使えるようにすることは可能だと思います」
と、久住医師。
すると、リモート出演の柳澤秀夫氏(元NHK解説委員)が、「でも、海外で開発されたワクチンは、開発した国が優先的に使って、なかなか輸出してくれないじゃないですか・・・」と指摘。また、社会学者の古市憲寿氏からも、ワクチン完成後の生産・普及までの時間について「世界中の人に、(公衆衛生上)意味があるくらいに行きわたるのに、どれくらいの期間を見ておけばいいんですが」との質問も。
「それは非常に大きな問題です。流行の収束には、人口の6割に免疫を付けてもらう必要があります。世界人口70億人がワクチンで免疫を付けるなら、42億人に接種する必要があります。42億本のワクチンを生産するには、やはり年単位で時間がかかります。しかも、他の疾病に対するワクチンも必要ですから、生産ラインを全てコロナ用に振り向けることはできません。結局、42億本とは言わなくても、何年かにわたって生産をしていかなければとても追いつかない、ということになります」
WHOによれば現在、世界では118のワクチン計画が進行中で、8つのワクチンは臨床試験段階に入っている(うち7つは第1~2段階もしくは第2段階)、と報じられています。今後の動きが注目されますね。
日本で開発が進められている「DNAワクチン」って何? これまでのワクチンとどう違う?
リモート出演の柳澤秀夫氏(元NHK解説委員)からは、もう一つ気になるワクチンの話題も。
「日本でのワクチン開発もすごく気になります。最近、大阪大学がDNAワクチンの開発を進めていて、かなり安全性が高く、簡単で、量産できると聞きました。この可能性はどうなんでしょうか?」
これについては、
「DNAワクチンは、ウイルスの遺伝子をヒトの体に入れることで予防効果を得るものです。接種されたウイルスの遺伝子情報(DNA)を設計図として、ヒト自身の細胞に、ウイルスの一部であるタンパク質を作らせます。そのタンパク質に対する免疫を体に付けさせる、という方法です。次世代型ワクチン、と言えますね」
と、久住医師。
大阪大学のDNAワクチンについては、今年9月に数100人程度の臨床試験を開始し、来年の春には実用化(100万人程度)が実現する見込みとの報道もあります。従来のワクチン製造法では6~8カ月かかっていた(さらに、製造に必要な有精卵の入手時間も必要で、数も限られる)のに対し、DNAワクチンなら6~8週間で作れることも、パンデミック向きだとされます。
「もちろん、これがうまくいけば日本にとっては福音になりますが、自分の国で開発されたワクチンだから自分の国だけで使う、というのはあまり良しとされていません。製薬企業があるのは、言ってみれば裕福な国だけです。アフリカなど製薬企業を持っていない国はどうなるのか。自分たちだけが使うのではなく、世界中に分配することが企業倫理として求められています」(久住医師)
※後編に続く。
久住英二(くすみ・えいじ)
(画像:テレビ朝日「中居正広のニュースな会」2020年5月9日)