1つの転換局面を迎えている新型コロナウイルス対策。改めて検査体制や管理体制が問われています。濱木医師が解説!(2020/05/11・12放送)
【まとめ】
☆新型コロナウイルス対策、緊急事態宣言は39県解除も、東京は今も出口戦略を模索中。必要なのはやはり徹底した検査。
☆期待が高まる唾液PCR検査。綿棒方式との違い・メリットは? 精度は信頼できるの?
☆東京都では報告ミスで感染者数を76件修正。原因はどこにあった?根本は国によるデータベース構築・管理システムの欠如。
※前編「37.5℃“目安”って何だったの?縦割り行政で検査数伸びず!?」はこちら。
39県で緊急事態宣言解除も、東京は今も出口戦略を模索。まずは検査の拡充が必須!
政府が「特定警戒都道府県」の5県を含む39県を対象に、緊急事態宣言を解除する方針を固めました。一方、東京や大阪など8都道府県については、解除は見合わせ。専門家会議は、宣言解除の目安として「過去一週間での新規感染者数が人口十万人当たり〇・五人未満とする」などの項目を検討してい るとも報じられました。
解除の背景には、自粛要請の長期化で、新型コロナ倒産が続出していることも背景にあります。これまでに全国150件近くに上り、今後も続くと見られます。
こうした事情から、5月5日には政府に先立って大阪府が、独自の自粛要請解除基準を発表。①新規感染経路不明者が10人未満、②PCR陽性率(陽性者数/検査数)が7%未満、③重症病床の使用率が60%未満、という3つを7日連続満たせば、段階的に解除していくとしました。
一方、いまだ出口戦略を模索中の東京都は、ここへ来て5月初旬(5/2~8)の陽性率が平均7.6%だったと発表し、ピーク時の4月11・14日の数値31.6%と比べると大幅に低下したことをアピール。陽性率7%を下回ると死亡数が減ってくる、という話は以前も取り上げました(こちら)。
ただし、問題は分母であるPCR検査数の絶対的な少なさ。日本は、1000人当たりの検査数がOECD36カ国中35位、という現状も先日紹介しました(こちら)。検査数を他の先進各国並みに増やした上での数値でなければ、その陽性率にどれだけの意味があるのかはギモンです。
「誤解しないでいただきたいのは、PCRを全例に行えと言っているわけではない、ということです。それは難しいと思います。それでも当然、検査件数は増やすべきで、ある程度疑わしい症状がある方、その接触者も優先して検査ができるようにした方がいいです」
と、濱木医師。疑わしい人は医師の判断で積極的にPCR検査を行い、陽性であれば施設などに隔離、陰性であれば行動制限を緩める、といった方法での自粛解除も考えられます。
「一方で全体の感染率を見るには、疫学調査として現段階では抗体検査だと思います。その方が、今PCR陽性でなくても、過去に感染したことがある方をきっちり拾えます。現在の感染者数というよりは今まで何%の方が感染したかを確認しやすいです」
正確な感染実態の把握こそが、適切な出口戦略の大前提ということです。
大注目の唾液によるPCR検査。綿棒方式と比べてメリットは?精度は大丈夫?
そんな中で大注目されているのが、唾液を使ったPCR検査。先日もまとめ記事(こちら)で少しご紹介しました。
これまでの鼻咽頭検査では、患者の鼻から喉の奥の粘膜を綿棒でこすって検体を採取していました。唾液方式による検体採取では、患者自身が1cc(10円玉1つ分)の唾液をケースに出します(その後の作業は同じ)。唾液方式なら、綿棒方式と違って、痛みもなく、医療従事者と患者の接触もありません。患者にとっても楽で、医療側も技術・人材・防護服を要さずに、2次感染リスクを小さく抑えられます。
「コロナウイルスはもともと上気道炎を起こすので、鼻や喉にいると考えられていましたが、最近では消化管にもいるのではと言われるようになっています。唾液腺も消化に関係しますから納得できます。感染の広がりを考えるときに、ツバはやはり外に出てきますから、一層気を付けるべき、ということが分かります」(濱木医師)
口の中で増殖が始まるため、症状が出る前にひとにうつしたり、味覚症状が出る、ということとも辻褄が合います。イエール大学の研究では、綿棒方式より唾液の方が5倍ウイルスが多かったとのこと。
また、リモート出演の北海道大学病院・豊嶋崇徳教授(5/12)は、発症から2週間以内であれば、唾液方式の陽性率は100%と言います。一方で、韓国の研究からは、鼻拭い液には長期にわたって残留しているウイルスの死骸が含まれ、そのために長らくPCR陽性が続くことが分かっています。そのせいで、症状が消えたのにいつまでも退院できない事態となっている、というのです。
唾液によるPCR検査では、陽性反応がもっと早期になくなるとのこと。回復すれば、唾液からは直ちにウイルスが消える、というのです。ですから退院のための検査に唾液PCR検査を導入することで、より早期の退院が可能になるはず。新型コロナ病床の不足が深刻化に対し、非常に合理的な解決策となります。
厚労省も、唾液PCR検査を早ければ5月中にも認可する方針との報道もありました。
「自粛を緩めて活動を再開していくためにも、PCR検査の敷居を低くして、早く患者さんを見つけることが大事です。どんどんこうした新しい方法を実用化していただきたいと思います」(濱木医師)
東京都で感染者76人分の報告ミスは、国としてのデータベース構築・管理の欠如の現れ。
さて、東京都では報告ミスにより、計上から漏れていた76人がプラスされたことも問題になりました。原因は、これまでの発生届がFAXで紙ベースだったこと。
「実際、医療機関から保健所への連絡はみんなまだFAXなんです。皆さんの身近な例だと、はしかの発生時も、疑われる患者さんが受診されると保健所と医療機関とのやり取りは、電話した上で、書式に則って記載したものをFAXしてください、と言われます。情報保護のために紙ベースで、ということのようですが。それが10件20件くらいまでならなんとか対応できると思いますが、今回の新型コロナウイルスの場合は1日200件前後を各地域から集めて集計して、という規模です。どうしてもミスが発生しやすい下地があったと思います」
と、濱木医師。医療機関から保健所へも、保健所から東京都へも、FAX。医療機関と保健所の2段階で、記入の手間と時間のロス、そして報告漏れや重複計上のリスクがあるシステムになっている、ということです。手続き的な煩雑さは、医療費や税金の無駄遣いでもあります。
「その都度その都度、担当者が入力していくだけで、そもそもデータベース化して共有しようという体制も認識も、共有されてこなかったのだと思います。言ってみれば、こうした事態に関して、SARS以降も何も準備してこなかった。準備不足です。4月の東京都に関しては今更致し方ないですが、今後どう対策していくか。また東京以外の地域でどう体制を作るかが大事です」Dot
国として、データベースや管理システムを構築することが、喫緊の課題と言えそうです。【完】
※前編「37.5℃“目安”って何だったの?縦割り行政で検査数伸びず!?」はこちら
ナビタスクリニック新宿院長
濱木珠恵