新型コロナウイルスの抗体検査(IgG)とその注目の理由を、2人のコメントに沿ってまとめます。
【まとめ】
☆2週間以上前に新型コロナウイルスにかかっていたかが分かります。世界中で今注目の理由とは?
☆日本はOECD36カ国中35位の1000人当たりPCR検査数。不安から希望されるハイリスク職の方も。
☆久住医師が考える、国内流行収束までの道のりは? 集団免疫は? あるべき検査・医療体制とは?
※5/8現在、ナビタスクリニックでは新型コロナウイルス抗体検査のご予約を一旦見合わせております。検査キットの入荷次第、ご予約を再開致します。
新型コロナウイルスの抗体検査って何? PCR検査とどう違う?
ナビタスクリニックの調査結果(5.9%)が東京新聞で報じられた後、連日多くのお問い合わせを頂いている新型コロナウイルスの抗体検査。新型コロナウイルスに対する抗体が血中に含まれるかを調べるものです。
(Shutterstock/ ustas7777777)
抗体検査とはどういうものなのか、ナビタスクリニック立川の瀧田盛仁医師は、
「病原ウイルスが体に侵⼊すると、それを排除しようと、体内で免疫反応が起こります。発熱や喉のどの痛みなどの⾵邪症状は、この免疫反応をきっかけに発⽣する現象です。病原ウイルスを捕まえて排除するために、抗体と呼ばれるタンパク質が作られます。その抗体を測定することで、病気にかかっているか、もしくは、かかっていたどうかを推測するのが、抗体検査です」
と説明します。
「抗体には様々な種類があり、ウイルス感染症の場合は特に、主に感染早期に現れる『IgM』と、IgMより遅れて検出され始め、⻑期間出現し続ける『IgG』の2種類の抗体が見られます。ナビタスクリニック等で検査しているのは、『IgG』です」
先日もブログで取り上げた通り、国立感染症研究所がPCR検査陽性の新型コロナウイルス患者の血液を用いてIgG抗体の検出率を調べたところ、発症7~8日後は25%、発症9~12日後は約52%、発症13日後以降は約97%でした。
要するに、新型コロナウイルスに感染し、発症から約2週間が経過していれば、非常に高確率で抗体を検出できる、ということ(感度については後述します)。
つまり、PCR検査では、鼻やのどの粘膜などから体内にウイルスが今いるかどうか調べるのに対し、抗体検査(IgG)では、過去に新型コロナウイルスに感染したことがあるのかを調べることになります。
また、抗体検査はPCR検査と違い、受診して採血し、検査キットに血液と試薬を垂らして15分程度待てば、その場で結果が分かります。医療者側の感染リスクも低く、受診者にとっても手軽です。
過去の感染歴しか分からない抗体検査が、なぜ注目されるの? 集団免疫とは?
新型コロナウイルスの抗体検査は今、世界的に注目を集めています。米ニューヨーク州のクオモ知事は抗体検査を積極的に実施し、4月22日には州内3000人の陽性率は13.9%、さらに対象を7500人に増やすと14.9%となったことを発表しました(現地4月27日時点)。今後も抗体検査を拡充する方針だと言います(日本経済新聞)。ドイツでは、スイス製薬大手のロシュから月内に抗体検査薬300万個を調達し、6月以降は月500万個ペースに増やすと表明しています(日本経済新聞)。
現在の感染が分かるわけではない抗体検査が注目されているのは、外出制限などを緩和していく際の重要な指標になると期待されるためです。英国では、抗体検査で免疫が確認された国民に「免疫証明書」を発行し、外出を許可する計画を検討していると報じられました(産経新聞)。
日本国内でも、ナビタスクリニックの後に、神戸市立医療センター中央市民病院では外来患者1000人の約3%が陽性と報じられました。また、厚労省の依頼を受けた日本赤十字社が、献血の血液で抗体検査を行っているようです。
ナビタスクリニック理事長の久住英二医師は、週刊誌『女性自身』の取材に応え、
「人口の60%以上に免疫があれば、集団免疫といって感染拡大を抑制できるといわれています。海外ではすでに、どれくらいの人に感染歴があるのかを調査するために、大規模検査が行われており、ドイツの流行地では約14%、アメリカ・カリフォルニア州のサンタクララ郡では約4%が抗体を持っていると推計されています。
当院では検査した30人のうち陽性者は1人。まだ集団免疫には時間がかかるという印象ですが、全体像を知るためにも、こうしたデータの積み重ねは重要です。今後は、検査で陽性となった人たちが、自粛が続く経済活動や社会活動を支えられる存在になれればと思っています」
との見解を示しました。
OCED36カ国中35位と、極端に少ない日本のPCR検査数。不安と隣り合わせで働く人も。
日本で抗体検査が注目されるのは、先進各国に比べて人口当たりのPCR検査数が極端に少ない、という事情もあります。
国内では2020年1⽉に最初の患者さんが確認されて以来、2カ月以上にわたり、PCR検査対象は海外渡航歴のある⼈や、新型コロナウイルス陽性者に濃厚接触した⼈、⼊院が必要なほど重症化した⼈に限られてきました。
4月7日に全国に緊急事態宣言が出され、19日に国内感染者数が1万人を突破。軽症で自宅待機中に急変し、重症化する例が相次いだこともきっかけとなり、PCR検査の要件はようやく大幅に緩和されてきました。それでも1000人当たりPCR検査件数は、OECD加盟国36位中、35位。36位はメキシコで、上位の先進各国の10分の1以下です・・・。
(OECD)
そのため、無症状や軽症を含む全体の感染者数は全くつかめていない、というのが実情。そこで、過去の感染歴が分かる「抗体検査」への関心が高まっているのです。
特に、感染リスクの高い職業の人々は、自身が感染源となるリスクも高いということ。それでも容易にPCR検査が受けられない状況があります。

(Shutterstock/Cryptographer)
「院内感染や重症化リスクの高い高齢者の世話など、不安と隣り合わせで仕事をしている医療関係者や介護従事者などへの検査は、迅速に進めるべきだと感じます。当院でも、『感染していたかも』という救急病棟の医師がいらっしゃいました。結果は陰性で、『今後も感染しないように、より一層気をつけなければ』と感じられたようです」(久住医師、『女性自身』)
逆に抗体検査が陽性なら、感染リスクの高い職場でも問題なく働ける可能性があり、医療崩壊や介護崩壊を防ぐ人員配置につながる、という考え方もあります。
抗体陽性なら免疫アリ? 検査キットの陰性・陽性はどれくらい信頼できる?
ところで実際、IgG抗体陽性=新型コロナウイルスに対する免疫ができている、と言えるのでしょうか。久住医師はこれについて、
「病気によって、抗体でウイルスを無力化できるタイプと、無力化できないタイプがあるので、必ずしも抗体がある=感染しないとは言い切れません。ただ、新型コロナウイルス感染症は、おそらく無力化できるタイプだと考えられています。
中国の症例では、感染歴のある人の血液を治療中の感染者に輸血したところ、症状の改善効果がみられたという報告があります。つまり、感染して治った人たちの血液に含まれる抗体には、新型コロナウイルスに対抗する力がありそうだということです。
“抗体があれば絶対に再感染しない”とまで証明されたわけではありませんが、免疫が獲得できている可能性は高いと考えています」
と解説します(『女性自身』)。
なお、抗体から免疫の有無を推定するには、そもそも検査キットが正しく陽性・陰性を示してくれることが前提となります。その点はどうなのでしょうか?
ナビタスクリニックで導入しているのは、中国メーカーが製造し、国内大手繊維メーカーのクラボウが輸入販売している検査キット。前出の国立感染研の調査もこのキットを使って行われていますが、その際はPCR検査が必要とされるほど症状のある人が対象でした。一方、軽症や無症状の人では作られる抗体の量が少ない可能性も・・・。瀧田医師によれば、
「メーカー資料によると、中国で538⼈が参加した臨床試験では、病気がない場合に正しく『陰性』と判定できる能⼒(特異度)は100%、一方、病気を正しく『陽性』と判定できる能⼒(感度)は76%と報告されています。つまり、かかったことのない人に陽性と出ることはありませんが、かかったことがあっても陰性と出る可能性はあります」
とのこと。やはり陰性の場合についてはともかく、陽性の結果についてはひとまず信頼できそうです。
(瀧田盛仁医師)
久住医師の考える感染収束までの道のりと、あるべき検査・医療体制とは?
最後に、国内の流行状況をいかに収束させていくのか、それまでどのような検査・医療体制を敷いていくべきか、久住医師の見解を「トカナ」の抗体検査レポートから抜粋してご紹介します。
「(感染収束の時期は、)どんなやり方をするか次第で変わってきますね。現状、日本政府が行っているような行動を制限する方法は、長引く方法ではあります。一方、どんどん感染拡大して人々が集団免疫を獲得すれば収束は早いですが、死者が多数出ますし、十分な医療が受けられずに亡くなる患者さんも増加します。
結局は行動制限をしつつ、集団免疫を獲得していく方法で舵取りするしかないのでしょうが、そもそもの問題は、日本はウイルス感染の有無を調べるためのPCR検査の実施件数が少ないこと。感染状況が分からない中で、どこまで行動制限を求めるべきか、その効果が測定できません。これは政府の判断ミスかと思います。
新型コロナウイルス感染症は、もはや(社会に)蔓延しています。PCR検査を行政検査として保健所が行うのでなく、他の感染症と同様に、医療機関で医師の判断によってできるようにして感染者を徹底的にあらい出すことが必要です。そして、初期にアビガンを処方するのです。重症化したら治りにくいので、感染初期のウイルス量が少ないうちに薬で抑えることが重要です」
(久住英二医師)