若者たちが正しい性知識の下に、望む人生を歩める社会を目指す、NPO法人ピルコン・染矢明日香代表のインタビュー後編です。
【まとめ】
☆20~30代の学生、社会人、看護師、助産師などのボランティアが主体的に、体験談などを含む双方向授業を企画、実施。
☆親や教師からは伝えづらいことも、年齢の近いスタッフからのメッセージだと伝わりやすい、との反響。
☆性の低年齢化に社会前提が追い付いていない現状。現場の声を集めて政策提言に繋げたい。
※前編はこちら
ナビタスクリニックでは、緊急避妊薬を処方していますが、日本が多くの点で性の後進国であることについて、問題意識も持っています。性教育もその一つ。前編では、日本の性教育の課題と、NPO法人ピルコンの取り組みについて伺いました。後編では、その活動を支えるボランティアスタッフの方々について、また、活動への反響や将来展望について伺います。
――(性教育×キャリア教育プログラムでは)ボランティアの人たちが中心的に活動されているのですね。
はい。20代前半から30代前半の人たち、30人ほどが、性教育に積極的にアクションしていきたいと意欲的に参加してくれています。学生さんや社会人では、自分が受けた性教育と実体験のギャップに衝撃を受けたことがきっかけ、という方も少なくありません。看護師や助産師の方では、職業柄、10代での出産に立ち会ったけれども、ハッピーなケースばかりではなかった、そういうケースを減らしたい、という方もいます。
毎回、アンケートに基づいて方針を決め、ボランティアの方々の立案で作り上げていきます。ディスカッション形式を多く取り入れ、一方通行にならないよう、生徒さんたちとのコミュニケーションを大事にしています。性感染症についてクイズ形式で取り上げることもあれば、アダルトビデオでの演出と実際の性行為で配慮すべき点の違いについて、ざっくばらんに話をすることもあります。

ピルコンホームページより
――反響はいかがでしょうか。
参加した中高生からは、「正しい知識をもとに自分で考えて決断することが、自分も相手も傷付けないために大切だと思った」「ネット等のウソの情報を知ることができた」「異性のことも学べたので、お互いに理解していきたい」といった声が寄せられています。
学校の先生からも、「年齢の近いスタッフの方の体験談から、生徒も性の悩みやトラブルを身近に感じていた」「教員からは具体的に話しにくいことを身近なお兄さん・お姉さんの立場から話してもらえたのがよかった」といった反響をいただきました。
保護者向けの講演も年20回ほど開催していますが、最近では、小学校のPTAからの依頼も増えました。高学年になると思春期を迎え、親と子の間に距離が出てくる時期ですが、性の低年齢化に保護者がついていけていない現実があるようです。
――保護者だけでなく、教育現場全体が、子供の性的な成長や関心についていけていないように見えます。
そうなんです。今年4月、東京都足立区の中学校で3月に行われた性教育の授業に対し、東京都議会で批判の声が上がったことが報じられました。文部科学省の学習指導要領に従えば本来は高校で取り扱う避妊や人工妊娠中絶について授業で扱ったことが問題視されたものです。しかし、この授業は本当に不適切だったのでしょうか?
実際に10代の子どもたちに接していると、性行為を断れない、もしくはさみしさや性的欲求のままに性行動を、避妊の知識がなく性行為をしている子たちもいます。10代の母による出産は年間約1万件以上、10代の中絶は年間約1万5千件行われています。インターネットやSNSの発達により、子供たちが性的な経験や情報に触れる機会は確実に増えています。
また、刑法では、「性行為に同意する能力がある」とみなされる年齢(性的同意年齢)は13歳とされています。こうした現状を踏まえるなら、性行為の仕組みや影響も、同じ年齢から伝えるのが大人の責任ではないでしょうか?
――社会全体の意識を変えねばなりませんね。
ええ。ちょうどこの問題で社会の関心も高まっていますから、若い人々や親御さん、教育現場の声を集めて、政策提言に繋げたいと思っています。
また、講演を依頼される学校などは、そもそも先生方の意識が高い、ということですが、まだまだそういう学校ばかりではないと思います。意識の高い先生たちだけでなく、若者と接する多くの大人の方にご利用いただけるようなコンテンツを充実させ、インターネットで無料公開していきたいと考えています。
NPO法人ピルコン
染矢明日香代表