引き続き、久住英二医師が新型コロナウイルスに関する疑問に答えます。重症から回復した芸人さんの実体験もご紹介!(2020/05/02放送)
【まとめ】
☆新型コロナウイルス感染症にまつわる疑問、今回は重症化と心血管疾患の合併症について、久住医師が回答!
☆若者でも重症化するの? 重症化の予兆と回復の決め手とは? 回復した芸人さんの実体験をご紹介します。
☆脳梗塞や心筋梗塞など、心血管疾患の合併症の報告が相次いでいます。新型コロナは血栓にどう関与している?
※前編「急変して重症化の予兆は?心血管疾患も?久住医師が解説!」はこちら。
若者でも症状の急変はある、って本当? 重症化の兆候を示す症状とは?
このところの新型コロナウイルス感染者の報道で気になるのが、急変して重症化するケース。軽症で自宅などで様子を見ていた方が、数時間のうちに重症化し、場合によってはそのまま亡くなってしまう例が後を絶ちません。久住医師も、
「重症化率そのものは、明らかに高齢者が高いんです。60代の後半から70代、80代と急増します。ただし、それよりも若い方々でも、症状が急変することがあります。埼玉では軽症で自宅待機していた50代男性が急激に体調悪化し亡くなりました。そういったケースが複数報告されています」
と話します。
急変の原因は、過剰な炎症反応。免疫細胞が暴走して、正常な細胞までダメージを受けてしまう「サイトカインストーム」と呼ばれる現象が起きていると考えられます。サイトカインは、外敵を追い出そうとした免疫細胞が体に作らせる炎症物質です。
厚労省は、新型コロナウイルス感染症について、容体急変を示す「緊急性の高い12症状」を公表しています(表)。
「もちろん、重症化した方でも治療を受けて退院された方もたくさんいらっしゃいます。急変したからもう助からない、というわけではありません」
番組では、急変後に入院治療を受け、無事に退院された方として、芸人・ラジバンダリ西井さん(44歳)を紹介。スタジオと生電話でお話を伺いました。西井さんは非喫煙者で体力には自信がありましたが、高血圧の持病で薬を服用されていました。現在は自宅療養中です。
西井さんの場合は、何の前触れもなく41度の発熱と激しい倦怠感に襲われました。まずは帰国者・接触者相談者センターに電話相談。その時点では、「コロナか判別できないので、高熱が続いたり呼吸困難の場合には救急車を呼んでください」とのアドバイスを受けたそうです。その日の深夜、どうしても耐え切れなくなった西井さんは、救急車を呼びました。
救急要請の際、西井さんは帰国者・相談者相談センターに電話したかどうかを確認されたそうです。ただし久住医師によると、状態が悪ければ同センターへの事前相談の有無にかかわらず、救急要請には応えてもらえるとのこと。
搬送後、まずは医師の判断でインフルエンザの検査を受け、陰性。次に血液検査を行うとリンパ球の減少が見られ、「新型コロナウイルスの感染者によく見られる傾向」と伝えられました。ところが、そこで西井さんがPCR検査を受けられるか尋ねたところ、「深夜なので保健所との連携が取れないので難しい」と言われ、そのまま自宅に帰されたそうです。
これは4月3日時点の対応であり、現時点で「この状態の患者さんをそのまま帰宅させるのは、普通は考えられない」と、リモート出演の大阪医科大学付属病院・鈴木富雄医師。ただし「現時点でも地域によっては、新型コロナ患者を受け入れ可能な病院が足りていない」と言います。
自宅待機中に重症化。入院してすぐICUへ。それでも回復できたポイントとは?
西井さんの場合は帰宅後、奥さんとは部屋を隔離し、窓を解放して換気するようにしていたそうです。食事も部屋の前においてもらい、二人とも室内でもマスクを着用していました。解熱剤や鎮痛剤もきかず40℃の熱が続いていたそうです。
その後、ようやくPCR検査を受けることができ、陽性(奥さんはその後もPCR検査を受けていないが、未発症)。しかしその結果を自宅で待つ間にも状態は悪化し、発熱から5日後に入院、すぐにICU(集中治療室)治療となりました。
新型コロナウイルスが怖いのは、肺炎になっていても息苦しさに気づきにくいケースが多いこと。息苦しさを自覚した段階で既に重症化していた、という人が大勢、救急に運び込まれています。西井さんも咳をし始めたのは入院後からでした。
急変の前触れとしては、血中の酸素濃度の低下が挙げられます。血中の酸素飽和度は一般的には96~99%が標準値ですが、95%以下になると危険信号。90代前半で酸素吸入が必要になります。この酸素飽和度は、「パルスオキシメーター」という小さな医療機器に指先を当てて計ります。
家族から見て意識がぼんやりして反応が弱かったり、呼ばれても返事をしないくらいもうろうとしたり、といった意識障害も危険なサイン。脈が乱れていれば、血圧低下の可能性もあり、そうなるとショック状態に陥ることもあります。そうなると本人の自覚症状に関わらずICUでの治療が必要になります。
西井さんは、アビガンは使用せず、発症から9日目にICUを出て一般病棟へ。まだ熱は39℃台だったそうです。翌日には咳も収まり、酸素吸入器を外しました。熱が36℃台に下がったのは、さらに5日後。そこから4度のPCR検査を受け、陰性→陽性→陰性→陰性で退院となりました。
西井さんは現在順調に回復し、体調も9割方は戻っているそうです。重症化しても問題なく回復できたのは、「まだ重症化の入り口あたり、おそらく本当に危険な状態になる手前で入院し、ICU治療が受けられたことが大きい」と鈴木医師。もう一歩症状が進んだ人は、入院の時点で人工呼吸器につながれることが多く、ギリギリの状態での入院だったと言えます。
そして、急速な回復をもたらしたのは、酸素投与と点滴。低酸素状態は全身の臓器の大きな負担になります。点滴には水分と様々なミネラル(電解質)が含まれます。高熱が出ると、水分や食事がとれない一方、汗を大量にかきます。水分と電解質が失われ、それらの適切なバランスが崩れると、ショック状態に陥ることもあります。
新型コロナのせいで脳梗塞や心筋梗塞が増えている? 肺でなく血管も攻撃するの?
もう一つ、新型コロナウイルス感染症で話題になっているのが、肺炎だけでなく、脳梗塞などの血管障害を引き起こすのでは? という点。
「ウイルスが血管に入り、血管の内側を攻撃します。これが原因の1つとなって、血栓ができやすくなるのです。
と、久住医師。
「海外の研究で、亡くなった方の血管を調べた報告があります。血管はチューブ状になっていますが、その内側の壁を覆っている『血管内皮細胞』から、たくさん新型コロナウイルスが見つかりました。ウイルスが血管内皮細胞に作用を及ぼした結果、心臓や血管系の病気が引き起こされている可能性が今言われています」
「通常は、血管内皮細胞からは血液が固まらないようにする物質が分泌され、血流が滞らないようになっています。しかし血管内皮細胞がダメージを受けると、その修復部分に血液など成分が塊(血栓)をつくってしまいます。だんだん血液の流れが悪くなり、最終的にその部分の血管が詰まったり、塊が流れて行った先の毛細血管を詰まらせたりします。その先の臓器には酸素が運べなくなり、機能が低下したり組織が死んでしまったりします」
この血栓症が、重症化の原因になると言われています。
- 脳血管に血栓 ☞ 脳梗塞
- 心臓の血管に血栓 ☞ 心筋梗塞
- 肺の毛細血管に血栓 ☞ 呼吸困難
- 神経の近くに血栓 ☞ 味覚・嗅覚障害
また英国や米国ニューヨークなどでは、子供たちの間に川崎病※と同じような症状が報告されています。これも、新型コロナウイルスが血管内皮細胞を傷害することに関連があると考えられています。
※4歳以下の乳幼児に多い、全身の血管に炎症が起きる病気
ただし、これらの症状の多くは、今のところ中国や欧米からの報告が中心です。未解明の部分も多く、人種差の可能性も考えると、日本での症例を積み重ねていくことが重要。それによって、新型コロナウイルスが体にもたらす影響の全容が見えてくると期待されます。
新型コロナウイルスは、今のところ決して強毒性であるとまでは考えられていません(今後どのような変異種が出てくるかは未知)。それでも、上記のような合併症のリスクも伴います。引き続き、感染拡大防止のため、手洗いなど身近な防衛手段を徹底すると同時に、一人ひとりが「自分がかかっているかも」という考えで一人一人が行動することが大事ですね。
久住英二(くすみ・えいじ)
(画像:テレビ朝日「中居正広のニュースな会」2020年5月2日)