正しい性の知識と判断力を育み、若い世代が自分の望む人生を生きられる社会をめざすNPO法人ピルコン。染矢明日香・代表にお話を伺いました。(前編)
【まとめ】
☆中絶件数は、生まれてくる赤ちゃんの5分の1。性経験のある女子高校生の約8人に1人が性感染症に感染。
☆背景には、性の知識や当事者意識、自尊心の不足があると考えられている。
☆性行為や妊娠・出産という過程だけでなく、「人との関わり方や相手の立場を考えること」まで含む包括的性教育を!
※後編はこちら
先日、「【Dr.久住が斬る】緊急避妊薬の市販薬化はいつ?――性の後進国ニッポン。」で2回に分けて取り上げた「アフターピル」の問題、もうお読みいただきましたか?(まだの方はこちら ⇒ 前編 ・ 後編)
そうした中、「性の後進国」である日本の現状に危機感を覚え、立ち上がったのがNPO法人ピルコンです。「若者が性についての正しい知識に基づき豊かな人生を築ける社会」を目指し、2007年に学生団体を発足。2013年からはNPO法人として活動を続けています。代表の染矢明日香氏に、お話を伺いました。
――ピルコンの理念と活動のきっかけを教えてください。
私たちは、正しい性の知識と判断力を育むための支援を行い、これからの世代が自分らしく生き、豊かな人間関係を築ける社会の実現を目指しています。
きっかけは、私自身が大学時代に妊娠・中絶を経験したことです。当時は、「生理中の性行為では妊娠しない」「腟外射精で避妊できる」といったあやふやな知識しかないまま、パートナーにコンドームを付けることも言い出しづらかった。辛い経験をして、ふと周りを見ると、友達も以前の私と似たり寄ったりで、リスクの認識が乏しいと気づいたのです。
その後、日本で中絶件数が当時年間30万件ほどに上ること(現在は年間18万件ほど)を知り、性教育や避妊についての正しい知識が若者にきちんと共有されていないことを知りました。
――日本の若者の間では、性に関して多くの課題があるようですね。
はい。性は誰にとっても身近なものですが、きちんと話す機会は非常に限られています。一方、曖昧な性知識のために傷ついたり、誰にも相談できず悩む若者は少なくありません。
現在も中絶件数は、生まれてくる赤ちゃんの5分の1の数に上ります。性経験のある女子高校生の約8人に1人が性感染症に感染しています。背景には、性の知識や当事者意識、自尊心の不足があると考えられています。
――ピルコンでは、どのような活動をされているのでしょうか?
性を、性交や出産だけではなく、「人との関わり方や相手の立場を考えること」として捉える「包括的性教育」を実践しています。
ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)が中心となってまとめた指針では、包括的性教育は、若者の性行動を促進することはなく(性教育後、性行動を早めたとする研究は0%、遅らせたとする研究は37%)、むしろ責任感を高めることが報告されています。
具体的には、医療従事者などの専門家の協力を得ながら、中高生~大学生向けの性教育×キャリア教育プログラム(出張授業)や、保護者向けの性教育講演、恋愛や性の傷つき体験や悩みを共有するセルフヘルプグループミーティング、児童養護施設向け性教育、その他、性の健康に関する啓発・講演・教材開発を行っています。

ピルコンの出張授業(ホームページより)
これまで、首都圏を中心に全国の中学校、高校、大学、児童養護施設で、のべ100回以上、1万名以上の子供たちを対象に出張授業を実施してきました。
――出張授業についてもう少し教えてください。
「性の健康」をテーマに、思春期におこる心身の変化、妊娠・ライフプランニング、性感染症、男女交際(デートDV)、性情報との関わり方について、体験型ワークショップを交えて、正しい知識や体験談をお伝えします。
大学生や若手社会人のボランティアスタッフが、企画から実施まで担当するのが特徴です。多くは参加した生徒さんたちに年齢が近いので、体験談やメッセージにもより共感が得られやすいようです。私も毎回参加しますが、あくまでコーディネーター的な立場でお膳立てする役回りです。
プログラム資料の監修とボランティアスタッフの研修には、産婦人科医や助産師、感染症予防研究者などの専門家にアドバイザーとして指導いただいています。
――ボランティアの人たちが中心的に活動されているのですね。
(次回に続く)
NPO法人ピルコン
染矢明日香代表