「成人T細胞白血病」は、他の白血病とはかなり違うようです。ウイルスの母子感染を防ぐことが一番の予防です。
【まとめ】
☆北別府氏が告白「成人T細胞白血病」とは? ナビタスクリニック新宿院長の濱木医師がTBS「Nスタ」で生解説しました。
☆普通の白血病と違い、原因はウイルス。主な感染経路は母乳で、発症までに30~50年以上かかります。キャリアかどうかは血液検査でわかります。
☆未発症のまま終わる人も多く、発症率は低いものの、発症すると化学療法での治癒は困難。骨髄移植を行います。
濱木医師がTBS「Nスタ」スタジオ生解説! 北別府氏公表の「成人T細胞白血病」とは?
元広島東洋カープの名投手・北別府学氏(62歳)が、地元広島のテレビ番組で、「成人T細胞白血病」と2年前に診断を受け、このほど本格的な治療に入ることを生告白、自らのブログなどでも発表しました。成人T細胞白血病とはどんな病気なのか、ナビタスクリニック新宿の濱木珠恵院長(血液内科医)が、TBS「Nスタ」にスタジオ生出演して解説しました。
(テレビ朝日「グッドモーニング」2020年1月22日)
その内容を交えつつ、成人T細胞白血病についてまとめていきます。
成人T細胞白血病は、通常の白血病とは明確に異なる点があります。原因がはっきりしているのです。
白血病は血液のがんで、血液細胞の遺伝子異常によって起こります。ただ、通常の白血病は多くが原因不明。それに対し、成人T細胞白血病は、「HTLV-1」というウイルスへの感染が原因で引き起こされます。
(テレビ朝日「グッドモーニング」2020年1月22日)
(TBS「あさチャン!」2020年1月22日)
「このウイルスが、感染したT細胞(白血球の一種)の中で遺伝子変異を繰り返し起こさせ、それが何十年と蓄積した結果、発症に至ると考えられます」
と濱木医師は説明します。
一番多い感染経路は、母乳。
HTLV-1は、発症まで30~50年かそれ以上かかるのも特徴で、感染していても未発症の人はキャリアと呼ばれます。キャリアのお母さんが母乳育児をすることで、5人に1人が感染するとされます。
(テレビ朝日「グッドモーニング」2020年1月22日)
「感染しても、キャリアとして持っているだけの間は、ほぼ症状は出ません。そのため母親もキャリアと自分では知らないまま、母乳を通して母子感染が起きてしまうのです」(濱木医師)
その赤ちゃんも感染を知らずに成長し、発症するのは40歳を過ぎてから。50~60代になって発症するケースが多く、患者数が最も多いのは60~70代です。
(TBS「あさチャン!」2020年1月22日)
(厚労省)
これについては、ナビタスクリニック理事長の久住英二医師もTBS「あさチャン!」の取材に応え、「北別府氏も、もしかしたら赤ちゃんの時に母乳を通じて母子感染していたのかもしれません」との見解を示しました。
なお、母乳感染以外の感染経路としては、性交渉が挙げられます。結婚後2 年で、キャリア男性から妻へ20%程度が感染するとされています。他方、1987 年に輸血用血液は全てチェックが行われるようになり、輸血からの感染は現在はありません。
キャリアは国内に約100万人。潜伏期間数十年で5%の低発症率。ただし治療は・・・。
HTLV-1に感染していた場合でも、生涯に発症する確率は約5%。生涯発症しないままの人がほとんどです。年間発症率も、1000人あたり0.6~0.7人と、1%未満です。実際のところ、全国のキャリア約100 万人に対し、発症数は年間約700 例と言われます。
(TBS「Nスタ」2020年1月22日)
濱木医師によれば、「発症する・しない、どこで違うのかは、ウイルス量などに違いはあるとしても、明確なことは分かっていません」とのことです。
その一方、発症すると治療はなかなか困難です。
一般的な症状は、リンパ節の腫れ、肝臓や脾臓などの腫れで、目立った症状もなく、気づきにくい病気です。ですが、国立感染症研究所によれば、発症すると2年以内に多くの方が亡くなるとも。化学療法だけで治癒まで持っていくのは難しいのです。
(TBS「Nスタ」2020年1月22日)
そこで、ドナーからの提供を受けて「造血幹細胞移植」が行われます。最近では年間150例近くの成人T細胞白血病患者に移植が行われ、2015年時点で計1,800件を超えたと報告されています。
(TBS「Nスタ」2020年1月22日)
治療の際は、まず抗がん剤で症状を一時的に抑え、その後、移植を行います。血液を作り出す組織ごと、入れ替えるしかないのです。治療期間は約3カ月から半年。
近年の著名人としては、元宮城県知事の浅野史郎氏も成人T細胞白血病を発症し、化学療法を経て骨髄移植を受け、翌年には退院しています。
北別府氏も、抗がん剤治療を経て、骨髄移植を行う予定とのことです。
血液検査をすれば分かります。自分がキャリアかどうか知っておくことにも意味があります。
実は成人T細胞白血病は、日本で発見された病気です。1977年、日本の南西部に多発する、新しいタイプのT細胞性白血病として発見されました(ウイルスの確認は1980年頃)。もともと太平洋地域の島国にも患者が確認でき、その流れをくむ人々の多い南九州、東北や北海道などの太平洋沿岸にも患者が比較的多く見られるのです。ただし日本ではその後、大都市に人々が拡散し、東京や大阪などでも患者数の増加が報告されています。
(厚労省)
通常の健診などで行われる血液検査では、HTLV-1の検査は含まれません。ただ、医療機関を受診して申し出れば、調べてもらうことができます。大抵の医療機関で受け付けてくれます。費用は数千円程度。
多くが母乳育児や性交渉を通じた家系内での感染のため、2011年からは妊婦検診に、HTLV-1の検査が含まれるようになりました。それ以降に生まれた赤ちゃんで、お母さんがしっかり妊婦検診を受けていたなら、感染の心配はありません。
(TBS「Nスタ」2020年1月22日)
また、元宮城県知事の浅野史郎氏の場合は、献血がきっかけで、感染が判明しました。発症はその5年後のことでした。
「自分がキャリアかどうか知っておくことで、原因不明の体調不良の際などに発症を疑うことができ、いち早く対処することが可能です」(濱木医師)
「ご家族や家系を遡った際に、それらしき病気の方がいた、あるいは祖父母が南九州や東北地方などに見られる発症者の多い地域の出身だった、といった場合は、念のために検査を受けてみてもよいかもしれませんね」
ナビタスクリニック新宿院長
濱木珠恵
(参考)
●国立感染症研究所「成人T細胞白血病とは」
●厚労省「ヒトT細胞白血病ウイルス-1型(HTLV-1)の母子感染予防について」
●国立がん研究センターがん情報サービス「成人T細胞白血病/リンパ腫」
(トップ画像:TBS「Nスタ」2020年1月22日)