-「いのちの授業 ~がんを通して」~現場からの医療改革推進協議会第14回シンポから⑤-

2020.01.27

昨年12月開催のシンポ5演題レポート、最終回は「いのちの授業~がんを通して」を中学生に届け続けている川口利氏です。

 

 

【まとめ】

 

☆2010年から9年続いている「いのちの授業」。コーディネーターの川口氏が構想の経緯とその目的などについて紹介しました。

 

☆久住医師も初回から講師として中学生にメッセージを発信しています。もう一人の講師は患者さん。そこに意味があります。

 

☆がんは国民の2人に1人が罹患しつつもイコール死ではない今日、がんを超えて・抱えて生きることとは? それを多感な今、考えてほしい。  

 

 

 

昨年12月に開催された「現場からの医療改革推進協議会」第14回シンポジウムから、ナビタス選5演題を紹介していく企画。最終回は、ナビタスクリニック理事長の久住英二医師も講師を務める「いのちの授業~がんを通して」を構想・実現し、以来9年間、コーディネーターを務めている川口利氏です。

 

 

中学生を対象に9年続く「いのちの授業」。きかっけは? その目的とは?

 

 

「いのちの授業」が始めて開催されたのは、2010年11月のことでした。以来9年間、「いのち」の大切さや自分の生き方を考えてもらうきっかけづくりとして、中学生を対象に、以下の3つの目的で授業が行われてきました。

 

 

1.生徒たちが命と健康、医療に関する偏りない知識を身に着けられるよう、教育の場に素材提供する

 

2.医療従事者と患者を講師とすることで生きた情報を提供し、生徒たちに本物の声を聴かせる

 

3.生徒たちに「いのち」について自ら考えるきっかけを提供し、「いのち」の尊さや生きることの意義を考えながら生活することを促す

 

 

メイン講師は2人。医療従事者として、ナビタスクリニック理事長の久住英二医師が初回から参加しています。患者側講師は、当初は故吉野ゆりえ氏が務め、現在は阿南里恵氏がバトンを引き継いでいます。

 

 

 

 

「いのちの授業は、中学校の授業の2コマを想定して、80分程度で行われますが、その当日だけでなく、学校側には1コマずつ事前学習・事後学習もお願いしています。そのプログラムは我々が作成して提供しています。しかし、学校の先生方には、我々を単にゲストとして迎えるのではなく、生徒たちのために一緒に考え、取り組んでいただくようにお願いしています」

 

 

当日の2コマと、前後1コマずつ、授業時間を合計4コマ使って行われる計算です。それだけの時間を割いていただける学校でのみ開催している、とのこと。

 

 

「いのちの授業」が誕生したきっかけは、川口氏の実弟で、医療情報誌『ロハス・メディカル』を発行している川口恭氏からの相談でした。同誌は当時5周年を過ぎたところで、「培ってきたネットワークを活かして、教育現場に何か貢献できないか。中学生なら、年齢的にももう正しい医療の在り方について理解してもらえるのではないか」と持ち掛けられたそうです。

 

 

 

 

川口氏はかつて地元の県立高校で12年間教諭として勤務しており、その経験を活かし、知り合いの都内中学校長に相談を持ち込みました。いったんは教育委員会へ掛け合うことをアドバイスされたそうですが、お役所仕事は時間を要します。川口氏は自らプランを練り上げて、再度校長に直談判。熱意が伝わり、「ここまでやってもらえるなら、ぜひ自分の学校で」と言っていただいたとのことです。

 

 

初回の授業は教員の方々からも大変好評で、翌2011年度には大塚製薬株式会社の協賛事業として正式にスタートを切りました。

 

 

2人に1人ががんになる時代。国の学校での「がん教育」方針にも図らずも合致

 

 

「以来、これまでの9年間で、15,000人の中学生に授業を行ってきました」と川口氏。

 

 

「学校側としても、『いのちの授業~がんを通して』は、厚労省が推進し、文科省が東京都教育委員会等へ示した、学校における『がん教育』の構想(学校におけるがん教育の在り方について・報告)にほぼ合致しています」

 

 

 

 

実は当初、「がんを通して」という副題はありませんでした。最初に患者講師を務めた吉野ゆりえさんも、現在の講師の阿南理恵さんも、お二方ともがん患者ですが、がんだけを主眼に置いて始まったわけではなかったからです。

 

 

がんは今日、イコール死ではなくなりました。そのため、がんを超え、あるいは抱えながら生活している患者さんは大勢いらっしゃいます。その中には、中学生に自身の経験を赤裸々に語りつつ、考える材料を提供できる人、講演活動されている人が少なくないのです。吉野ゆりえさんや阿南理恵さんもそうした患者さんたちでした」

 

 

阿南理恵さん

 

 

とはいえ今日、がんは本人の2人に1人がかかる時代です。「いのち」を考えるにあたり、「がん」そのものも、捨て置けないテーマです。

 

 

「血液がんを専門とする久住先生は、授業で『一卵性双生児が同じがんになる確率は11%』といった話をされます。まず病気について正しい知識を持ってもらう。それだけでなく毎回、『2人に1人ががんになる、ということは、お父さんかお母さんががんになるかもしれない。あるいは隣に座っている友達、もしくは自分がなるかもしれない』という現実を伝えます。

 

 

 

 

『そんなこと医師が言うのか』とアンケートでお叱りの声が届くこともありますが、がん=死とは限らないなら、がんを抱えて生きていく必要が出てくる。その時に目の前の現実をどう捉えるのか、心構えをつくっておくべきなのです。中学生くらいから知っておくべきでしょう。知っているのと知らないのとでは大違いです」

 

 

「もしもの時に、今ここで皆さんが聞いていることが、きっと利いてきますよ」――そんな思いで、「いのちの授業」は、厚労省や文科省が「がん教育」を掲げる前から、がんを念頭に置きつつ行われてきたのです。

 

 

自分が、身近な人が、がんになり、がんを超えて生きていく時、何を考えて、どう生きるか。

 

 

川口氏は続けます。

 

 

「単なる知識だけでなく、がんを抱え、あるいは乗り越えた患者さんが、目の前で話してくれることにも大きな意味があります。がんになり、悩み苦しんだ、でもそこで終わりではないことを示してくれるからです。そこからまだ人生は続き、生きている。生きていく。何を考えて、どう生きるのか。中学生の皆さんも、考えてみてはどうですか? というきっかけであり、ヒントを示してくれるのです。

 

 

 

 

それが、予防医療にもつながっていくのではないか、と川口氏。

 

 

知って終わりでなく、もしもの時への心構えを作っていく。あるいは、少しでもリスクを下げる生活習慣を考えてもらう。『がんには絶対的な予防法はありません。規則正しい生活に努めるといったことしかありません』というのも、久住先生が毎回お話されることです」

 

 

 

 

異なる立場ながら、日々「いのち」と向き合っている講師の思いや考えをじっくりと聴いてもらい、自分のこととして考えてもらいたい。人生のヒントになることが見つかるかもしれないし、将来、医師や看護師などの医療従事者を志す生徒が出てくるかもしれない。日常生活の中で活かすことのできるものを見つけてもらえたらそれで良いのではないだろうか。(ロハス・メディカル「いのちの授業」ホームページより)

 

 

こうした願いを込めて、川口氏は「9年間ブレずにやってきた」と話します。

 

 

始めて授業を受けた子は今24歳。どうなっているだろう? その子たちの中には、今、医師になっている人、看護師になっている人、薬剤師になっている人…医薬の道に進んだ人はきっといることでしょう。その姿を思い描きながら、これからもこの活動を続けてまいります」

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