-予定外妊娠は61万件!「知らない」「行けない」~現場からの医療改革推進協議会第14回シンポから④-1-

2020.01.08

昨年のシンポから久住医師司会の5演題をご紹介。4人目は性教育と避妊法へのアクセス改善に向け活動する、研修医の中村葵さんです。(前編)

 

 

【まとめ】

 

☆ナビタスクリニックも取り組むアフター・ピルの普及や、性教育の推進のために活動する、研修医の中村葵さんの講演を2回に分けてご紹介。

 

☆ザンビアやインドで避妊や家族計画に目覚め、帰国後、性教育の遅れを実感した医学生時代。「この状況は、彼・彼女たちが悪いの?」

 

☆日本での予定外妊娠は年間61万件!中村さんは、性教育の遅れと産婦人科への受診ハードルが原因とします。

 

 

 

昨年12月に開催された「現場からの医療改革推進協議会」第14回シンポジウムから、ナビタス選の5演題(久住医師司会)をご紹介しています。今回と次回は、医学生時代から性教育と避妊法へのアクセス改善のために活動を続けている、研修医の中村葵さんの講演です。

 

 

無知は彼・彼女たちのせい?――性教育はみんなにとって良い社会をつくるもの

 

 

「私は、性教育はみんなにとって良い社会を作るためのものだと思って活動しています」と話し始めた中村さん。2018年に群馬大学医学部医学科を卒業、現在は群馬中央病院で研修医として働いています。学生時代は学生団体「国際委学生連盟 日本」を通じてザンビアで産婦人科実習をしたり、インドで女の子たちの教育支援を行ったりし、その経験を通じて、避妊や家族計画に携わることを決意したそうです。

 

 

 

 

(中村さん提供)

 

 

一方で、日本で医学生として生活する中で、友人たちから「排卵って何?」「生理がこない。妊娠したのかな」「ピルって危険なんでしょ」「私はゴムつけてるから絶対に妊娠しない。たまにつけないでしてるけど」など、性に関する間違った知識を耳にしたり、相談を受けたりすることが多々あったとのこと。

 

 

これは彼・彼女たちが悪いのか、と考えた時、そうではない、日本社会全体の問題なのではないかと気づいた」という中村さんは、日本での活動を開始。現在は性教育NPOの一つ「ピルコン」で活動しています。

 

 

「私たちは、中高生や大学生向けの講演や、アフターピルのOTC化などに取り組んでいます。その中で分かったのが、ピルコンに寄せられる半数以上の相談が、『妊娠しちゃったかな』『アフターピル飲んだけど、大丈夫かな』といった内容だ、ということでした」

 

 

(中村さん提供)

 

 

多くの女性が、避妊についての知識も乏しいまま性交渉を持ち、妊娠の回避手段もなく、望まない妊娠に至っています。

 

 

国内15〜44歳を対象とした調査では、予定外の妊娠が年間約61万件報告されています。その中絶あるいは出産にかかった費用は、年間約2520億円に上ります。低用量ピルやIUD/IUS(子宮内避妊用具)の使用率が、もし10%増加すれば、予定外妊娠の件数は約7万件減少し、約280億円の費用削減が可能とのことです。

 

 

原因①「知らない」――ユネスコでは性教育は「遅くとも5歳から」を提唱。かけ離れた日本。

 

 

こうした現状をもたらしている原因として、中村さんが考えたのは、

 

 

①学校での性教育や医療情報の提供不足、つまり「知らない」こと

 

②医療へのアクセスが十分確保されていないこと、つまり「行けない」こと

 

 

という2点でした。

 

 

①の性教育については、ユネスコによる『国際セクシュアリティガイダンス』では、遅くとも5歳からの性教育を提唱しているそうです。

 

 

「また、私が7月に訪れたスウェーデンでは、小学校高学年の教科書には性行為の図解も入っていて、有名人を起用した動画やTV番組を利用した授業が行われていました。小学生が一番好きな授業が性教育だそうです。首都ストックホルムでは10代向けに性に関する情報提供webサイトが作られていて、かなり国を挙げて性教育に投資が行われているという印象でした」

 

 

「そこで今、私が取り組んでいることの1つが、一般社団法人Sowledgeでの性教育トイレットペーパー作成です。これは、『国際セクシュアリティガイダンス』に基づき、生殖の仕組みだけでなく、プライベートゾーンを守る、性的同意の話、性被害にあったときにどうればよいか、といったことを、小学生にも分かりやすい言葉と絵で示したものです。

 

 

 

 

(中村さん提供)

 

「さらに、ピルコンではチャットボットを運営しています。作成に当たっては、久住先生はじめ、医師の先生方にご協力いただき、現在、7000人の中高生に利用していただいています。全て自動応答で、『妊娠したかどうか』といった相談に応じたり、性の知識などをお伝えしたりしています」

 

 

(中村さん提供)

 

 

原因②「行けない」――産婦人科の受診ハードル。医師も高校生の避妊に偏見や無理解。

 

 

そして②の医療へのアクセスですが、日本ではまだまだ産婦人科への受診ハードルが高い現状があります。

 

 

「これは私がまだ個人的に行っていたLine相談での話ですが、高1(16歳)の女の子から『この間の性交渉の際にコンドームが破けてしまい、生理の遅れが今日で3日目なんです。妊娠が心配』という相談を受けました。その時は、まだ間に合うからと、受診してアフターピルをもらうようアドバイスしました。

 

 

その後、彼女は定期的に低用量ピルを飲みたいと希望したのですが、親御さんからは否定され、勇気を出して近くの産婦人科に電話してみても、小ばかにされつつ断られてしまったそうです。『高校生が避妊目的で低用量ピル? それじゃちょっと処方できないな』と。

 

 

他の産婦人科は遠くて行かれないからと、彼女はネット通販で違法に売られているピルを入手することまで考えていましたが、『それは内容の保証ができないから』と、日本家族計画協会のつくっているクリニック一覧を紹介しました」

 

 

 

 

また、低用量ピルを処方してもらうだけのために通院するのが面倒で、そのまま服薬を中断してしまうケースも多く見られます。日本は一部の専門医(産婦人科)が処方するのが常識になっており、しかも、「チャットボットに寄せられる相談でも、医療者でも性教育や避妊に関する教育を十分受けていない人が多いようで、『高校生が避妊?』と否定的な人もいる現状が浮き彫りになっています」と中村さん。

 

 

諸外国では低用量ピルやアフターピルはOTC化されているか、医療機関以外に避妊法の提供施設があることが多いのです」

 

 

実際、中村さんが訪れたスウェーデンでは、全国に220カ所、12~25歳を対象とした「ユース・クリニック」があるそうです。若者の性に関するあらゆる相談を受け付けていて、産婦人科や精神科との連携も図られているとのことです。

 

 

(中村さん提供)

 

※後編「日本は避妊も途上国」はこちら。

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