前回に引き続き、HPVワクチン問題に斬り込んだ音喜多駿・参議院議員の講演レポート(後編)です。
※前編はこちら⇒https://navitasclinic.jp/archives/blog/4673
【まとめ】
☆「HPVワクチン、政治家はなぜだまされるのか?」――音喜多議員が分析する4つ目の原因は、反ワクチンが反権力と結びついた実態。
☆このところの政界での積極勧奨再開への動きがどう発展するかは、「票につながるかどうか」にかかっています。
☆会場参加者から「親の情報格差が子供たちの未来の健康格差になっている」との指摘。音喜多議員が考える「政治家の仕事」とは?
原因4:反ワクチンが反権力と結びついている状況。それを利用し、存在感を示す議員たち。
「HPVワクチン、政治家はなぜだまされるのか?」――音喜多議員が考える4つ目の原因(他の3つはこちら)は、反ワクチンが反権力と結びついている状況があること。「政府がやっていることは悪い、信用できない。厚労省は不祥事ばかりだ、と、野党側のポジショントークとして、ワクチン問題を利用して反政権アピールする人も、一定数いると思っています」
反ワクチンの中には自民党議員もいる、という指摘もあるかもしれませんが、「よく見てみると、そういう議員は自民党の中の亜流、マイノリティなんです。だから党の中で自分たちの存在価値を主張するために、反ワクチンを利用していると考えています」
編集部から補足すると、「反ワクチン」が一部の人間の利益のために利用されている状況は、日本あるいは国会議員に限らず、世界的な問題となっています。つい最近も、米国の大手紙『ワシントンポスト』で、こんな報道がありました。
米国反ワクチン運動の創始者
「ナチュラル」な健康食品など売って億万長者に
この米国最古の反ワクチン団体は自らを、主に人々の寄付や問題意識に支えられたささやかな「全国的な草の根運動」と称しています。しかし実際には、「ワクチンの代替品」とうたったビタミン剤やサプリメントなどの「自然健康製品」の売り上げ等によって、年間に推定6億円以上の収入を得ているというのです。
言ってしまえば、反ワクチン運動そのものが巨大なビジネスであり、彼らの生業であり、それによって彼らは潤っているのです。
音喜多議員の参加したセッションの司会を務めた久住医師も、フェイスブックなどで、「情弱な人々、科学的思考力の無い人々が食い物にされていますね。統計学は義務教育で教えるべきではないでしょうか? 反ワクチン運動は、社会に対する犯罪です」とコメントしています。
積極勧奨再開へ変わり始めた潮目。「政治家が動くかどうかは、世論次第。票につながるかどうか」
ただ、今年の後半に入り、政界でもHPVワクチンをとりまく流れが少しずつ変わってきたことは、音喜多議員も実感しているそうです。最近も井出庸生・衆議院議員が、HPVワクチンに関する質問主意書を国会に提出し、定期接種であるワクチンを積極勧奨しないのは行政の怠慢であると指摘する答弁を行いました。三原じゅん子議員も積極勧奨再開を目指す議連を立ち上げました。
「私も7月から国会に出席する中で、自民党の中でもHPVワクチンに対する世間の理解促進・改善の必要性を説く議員も増えてきていると感じています。あと一歩二歩のところまで来ているのかな、と思います」
「結局、政治家が動くかどうかは世論次第です。『これをやることが多くの人を救い、自分の手柄となるかどうか』『これで多くの人に感謝され、票につながるかどうか』、その認識が彼らの行動原理だと思っています」
「ビーチフラッグのようなもので、ピーッと笛が鳴ると一斉に立ち上がって走り出し、旗を奪って『私がやりましたー!』と叫ぶんです。今はみな、いつ立ち上がるか、いつ笛が鳴るかと待ち構えている。ですからあと一押しです。皆さんの働きかけとご協力をお願いします」
私たちがHPVワクチンへの理解を深め、支持者を増やすことで、政治家や国は動くということです。政治家や国にぶら下がって、そのアクションを待つのとは正反対。反ワクチンを自己の利益のために利用する人がいて、政治家も例外ではないなら、それを逆手に取ればいい、ということでしょうか。
会場参加者「親の情報格差が、子供たちの未来の健康格差に。まずは通知を」
続いて音喜多議員の質疑応答タイムとなりましたが、ここで久住医師が、先日議員会館で開かれた維新の会のヒアリングで出会った製薬企業勤務の会場出席者の方を紹介。
その方の長女が高校1年生で、HPVワクチン3回接種を完遂されているとのこと。ヒアリングでは、「まさに当事者である女子中高生が一番の情報弱者である」こと、また、夫婦の話し合いではHPVワクチンに対して「怖いと感じていた妻を説得するのが一番難しかった」こと、娘さんの学校でのエピソードなどをお話しされ、「厚労省からも自治体からも、HPVワクチンに関するクーポンも通知も来ない状況で、積極勧奨を一時的に取り下げると言って以降、娘は中1から6年間、ずっと放置されてきました」と訴えたそうです。
(イメージ)
ご自身は製薬企業勤務であることからも問題意識を持っていたそうですが、世間的にはそういう親御さんはまだまだ少数派のようです。
「娘の女子校で中3の時にクラスでアンケートを実施したところ、45名中1名しかHPVワクチンの接種を受けていませんでした。その1名は親御さんが医師でした。つまり、女子中高生をお持ちの一般のご家庭では、HPVワクチンを打つタイミングとして非常に大事な時期に、その有効性やメリットがきちんと伝えらえていない状況があります」
「親がある程度の知的エリートであるか、医療に接している職業であるか、親の情報格差が、彼女たちの未来の命や健康を左右してしまうという、健康格差につながっているんです。まずは積極勧奨へ向けて調整などと言っておらずに、通知してほしい」
今年の夏休み(=ちょうど高3生が3回定期接種を受けられるタイムリミットの時期)には親同士ランチ会で、自身の娘がHPVワクチン接種を受けたことをカミングアウト。それを受けて、ランチ会参加者13名中、8名(=6割)の娘さんたちが接種を受けたそうです。
(イメージ)
「強制ではなく、通知や適切な情報があり、きっかけがあれば、受ける選択をする親御さんは多いのではないかと感じました」
これに対して音喜多議員は、
「政治家の仕事は、リスクゼロを目指すことでなく、コストベネフィットを冷静に判断して、ベネフィットのあるものを皆さんにしっかり伝えることだと思っています。まずは、情報を適切に提供していくこと、しっかりやっていきたいと思っています」
とコメントし、講演を締めくくりました。
(トップ画像:音喜多駿公式HPブログより、ナビタスクリニック新宿にてHPVワクチン接種を受ける音喜多議員)