-【久住・濱木医師 生解説】白血病闘病の競泳・池江選手が退院報告。造血幹細胞移植とは?-

2019.12.20

10カ月の白血病治療を経て退院を迎えた池江璃花子選手。経過と治療について、久住・濱木両医師の生解説をまとめます。

 

 

【まとめ】

 

☆白血病治療に専念していた競泳・池江璃花子選手が退院。池江選手の治療経過は? 造血幹細胞移植とは?

 

☆久住・濱木両医師が、TBS「Nスタ」「ひるおび!」でスタジオ生解説。両医師とも白血病が専門で造血幹細胞移植の臨床研究の経験も。

 

☆寛解状態を維持している池江選手。ただし治療継続で、免疫力は低下しています。私たちにできる応援は「予防接種」です!

 

 

 

白血病の治療を続けてきた競泳の池江璃花子選手が、自身の公式HPで退院報告をしました。これについてナビタスクリニック理事長の久住英二医師がTBS「Nスタ」に、新宿院長の濱木珠恵医師がTBS「ひるおび!」にそれぞれスタジオ生出演し、血液内科医として解説を行いました。

 

 

(TBS「Nスタ」2019年12月17日)

 

 

(TBS「ひるおび!」2019年12月17日)

 

 

10カ月の闘病をへて退院した池江璃花子選手。病名は、急性リンパ性白血病と公表。

 

 

退院を公表した池江選手は今回、公式HPに直筆メッセージをアップし、「入院中、抗がん剤治療で吐き気が強いときや倦怠感もありましたが、そんなときはとにかく『大丈夫、大丈夫、いつか終わる』と自分を励まし続けました」と、およそ10カ月の入院生活を振り返りました。

 

 

池江選手が白血病を公表したのは今年2月12日のこと。ツイッターで、「検査を受けた結果『白血病』という診断が出ました。私自身 未だに信じられず 混乱している状況です」と発信しました。

 

 

(TBS「Nスタ」2019年12月17日)

 

 

白血病は、骨髄の中にあって血液(様々な血球)を作り出すもととなる「造血幹細胞」が、がん化して「白血病細胞」となる、血液のがんです。正常な血液が作り出せないために様々な症状が起きます。

 

 

公式HPではさらに、池江選手の病名は「急性リンパ性白血病」であると公表。

 

 

白血病は大きく、リンパ球になる細胞ががん化する「リンパ性白血病」と、それ以外の血球になる細胞ががん化する「骨髄性白血病」に分けられます。がん化した細胞の増殖スピードによって、それぞれさらに「急性」「慢性」に分けられます。

 

 

(TBS「Nスタ」2019年12月17日)

 

 

久住医師は、急性リンパ性白血病について、「リンパ球は、ウイルスなどをやっつける働きを担っている細胞です。未熟な状態のままのリンパ球がどんどん増えてしまうのが急性リンパ性白血病で、若い人に多く、急激に進行します。治療が遅れると命に関わる、深刻な病気です」と説明します。

 

 

抗がん剤治療から「造血幹細胞移植」へ。厳しい闘病生活を乗り切り、寛解状態に。

 

 

治療については、当初は抗がん剤による化学療法が行われていましたが、合併症を併発したため、継続が困難に。そこで骨髄移植などに代表される「造血幹細胞移植」を行ったところ、状態が改善し、寛解状態となりました。今回の退院は、寛解が維持できており、体調も安定しているために実現したそうです。

 

 

(TBS「ひるおび!」2019年12月17日)

 

 

造血幹細胞移植は、ドナーなどから採取した造血幹細胞を点滴などで移植する治療法です。

 

 

久住・濱木両医師は、造血幹細胞移植の臨床研究にも携わった経験の持ち主。久住医師は、

 

 

「急性リンパ性白血病では、抗がん剤による化学療法の後に、造血幹細胞移植を伴った超大量化学療法が行われることが多くあります。体の中にある白血病細胞をすべて殺すことを目的として、その人の造血機能が失われるほどの強い抗がん剤治療を行い、その後、失われた造血機能を回復するために、ドナーの提供した造血幹細胞を植え付ける、という治療法です」

 

 

「ただし、それだけ体への負担も大きくなります。大量の抗がん剤によるダメージに加えて、ドナー提供の造血幹細胞にとって患者さんの体は本来敵であることが問題になります。そもそも白血球(リンパ球)は免疫細胞、つまり外敵をやっつける細胞なので、移植された造血幹細胞が患者さんの正常な臓器を異物と認識して攻撃する「移植片対宿主病」などが起こりやすいのです。全身の皮膚が赤くなったり、下痢をしたり、という反応が現れます。これを免疫抑制剤で抑える治療が必要になります」

 

 

と、造血幹細胞移植について解説。

 

 

(Shutterstock/Li Wa)

 

 

途中で合併症が起きたことについては、「様々な薬を使っているので、その中のどれかが障害を起こしたり、白血病によっては飲み薬を飲み続けることでよい状態を保てるタイプがあるのですが、その薬が合わない、といったことなどが考えられます」と説明しました。

 

 

こうした経過を踏まえ、10カ月という闘病期間について濱木医師も、「化学療法に加えて移植もしていますから、決して短い期間ではありませんが、順当な治療の進め方ですし、順調と言えると思います。もともと競泳選手ということで体力もあり、若さもあったことが、非常にプラスに働いたのだと思います」との見解を示しました。

 

 

なお、白血病の場合、「寛解」が治療の1つの目標とされます。「血液のがんは、全身の血中から完全に消えたかどうかを確認するのは困難なので、『完治』ではなく、見かけ上あるいは遺伝子レベルでも確認できない状態をもって『寛解』と呼んでいます」(濱木医師)

 

 

(TBS「ひるおび!」2019年12月17日)

 

 

SNSでの病気公表と人々の励ましが気持ちの支えに。「予防接種」を通して応援を!

 

 

今年2月を振り返ると、池江選手の白血病公表は社会に大きな衝撃を与え、治療法の1つである骨髄移植の認知と理解を高めました。公表直後から、日本骨髄バンクへの問い合わせが急増、1カ月間の新規登録者数が過去最高の11,600人を記録したそうです(2019年2月、前月は約2,900人)。

 

 

(TBS「ひるおび!」2019年12月17日)

 

 

その後も池江選手は自身の闘病生活を積極的にSNSで報告してきました。

 

 

これについて濱木医師は、

 

自身の気持ちを切り替えるうえで、近況を報告するのはプラスになったのでは、と考えられます。 病気の姿を世間に出したくないという方も大勢いらっしゃいますが、彼女の場合は出すことで、気持ちを整理したり、応援してもらったり、というのが治療を乗り切る原動力になったのかもしれません」

 

「回復する姿を見せることで、同じ病気の人たちも元気づけられると思います」

 

とコメント。

 

 

(TBS「ひるおび!」2019年12月17日)

 

 

そして今回も、池江選手は写真と共にメッセージを発信。

 

 

私は、病気になったからこそ分かること、考えさせられること、学んだことが本当にたくさんありました。まずは自分の気持ちをしっかり持たないといけないんだと思い治療に励みました。

 

 

辛くて長い日々でしたが、皆様からの励ましのメッセージを見て、早く戻りたいと強く思うことができました。

 

 

(TBS「Nスタ」2019年12月17日)

 

 

退院後には地元・江戸川区のスポーツセンターを訪れ、人々から応援ブースに寄せられた折り鶴に感激していたという池江選手。今後は通院治療を続けながら、まずは徐々に陸上でのトレーニングなどを再開、体力づくりをしていくとのことです。そして医師と相談し、可能になり次第、水中トレーニングにも入る予定です。

 

 

経過は順調に見えるので、数カ月の陸上トレーニングの後、来年の東京五輪の頃には水中でのトレーニングを始められる可能性もあるのでは」と、濱木医師。

 

 

(TBS「ひるおび!」2019年12月17日)

 

 

そして久住医師は、

 

 

「今後、免疫抑制剤を使う状態は1~2年ないし人によってはそれ以上続きます。その間、池江選手は感染症に弱い状態が続くので、世の中にインフルエンザや麻疹(はしか)、風疹、水ぼうそうといった感染症が流行している状態は彼女にとってハイリスクです」

 

 

健康な人が予防接種をしっかり受けて、世の中から感染症の脅威をなくしていくことが、我々にできるお手伝い、ということです」

 

 

と人々にメッセージを送りました。

 

 

(TBS「Nスタ」2019年12月17日)

 

 

池江選手も、「オリンピックについてですが、2024年のパリ五輪出場、メダル獲得という目標で頑張っていきたいと思います」と、競技復帰への意欲を示しています。私たち一人ひとりが予防接種というアクションを徹底することで、池江選手を見守りつつ応援していきたいですね。

 

 

(トップ画像:TBS「Nスタ」2019年12月17日)

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