-【久住医師解説】はとバス事故から考える、企業としてのインフルエンザ対策-

2019.12.11

運転手など人命を預かる職業のインフル対策は、個人任せで済む問題ではありません。企業での集団予防接種が有効です。

 

 

【まとめ】

 

☆ナビタスクリニック理事長の久住医師が、TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」に電話生出演。インフルエンザについて解説しました。

 

☆事故を起こしたはとバス運転手は、インフルで発熱、記憶障害も?!「風邪でも休めない」状況に社会として問題意識を!

 

☆企業として、インフル流行を見越した業務プラン・体制整備を。集団予防接種も非常に有効。ただし流行の早まりに備え早めの対応が大事。

 

 

 

事故を起こしたはとバス運転手はインフルエンザ、38℃の高熱で記憶障害と判明。

 

 

先日(12月4日)東京都新宿区で、はとバス観光バスがハイヤーに追突し、乗り上げられたハイヤー運転手が死亡する事故がありました。事故当時はとバスの運転手はインフルエンザにかかり、38℃以上の高熱があったことが判明。

 

 

はとバスによると、運転手は事故前後の記憶がなく、気づいたら街路灯に激突していたと説明。

 

 

これについて久住医師が、TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」に電話生出演し、インフルエンザについて解説しました。

 

 

 

 

「インフルエンザはすでに流行期に入っています。例年に比べて流行時期の開始が早かったことが最大の特徴です。北半球の夏が非常に暑かったことで、『インフルは寒い冬に流行り、夏は流行らない』というサイクルが崩れてきている可能性がまず1つ。さらに、今年はラグビーW杯などで、赤道付近の熱帯地域から大勢の方が日本を訪れ、その際に現地で流行しているウイルスが持ち込まれた可能性があります。」

 

 

インフルエンザに感染したはとバス運転手が事故を起こし、事故前後の記憶がなかったとのことについては、

 

 

「インフルエンザで脳炎が起これば、事故前後含め、記憶や意識状態に影響が出ることがあります。実際に事故の直前あたりから、意識を失っていたか、眠ったような状態にあったのかもしれません。もう一つあり得るのは、『逆行性健忘』です。事故による脳への強い衝撃によって、事故の瞬間だけでなく、意識のはっきりしていたはずの事故前の状況まで忘れてしまう、ということがありえます」

 

 

 

 

個人の判断だけに任せるのは困難。「風邪でも休めない」状況に社会として問題意識を!

 

 

インフルエンザに罹った状態で運転することに関して久住医師は、

 

 

「インフルエンザに限らず風邪などの感染症にかかり、特に発熱があると、体は疲労し、眠くなりやすくなります。注意力が非常に低下するんです。ですから飲酒運転を禁止していることとのバランスを考えても、インフルエンザにかかった状態で運転することは避けるべきと言えます」

 

 

と指摘。ただ、実際のところ個人の判断だけに任せるのは難しい部分もあります。

 

 

「よく風邪薬のCMでも『風邪でも休めない人に』などどうたっていますが、風邪でも仕事に行かねばならない、という状況に社会として問題意識を持つべきですね。ナビタスクリニックにも、『会社に、インフルエンザなら休んでいいけれど、風邪だったら来いと言われた』と受診される方がよくいらっしゃいます。

 

 

 

 

ところが、受診時に結果が出るインフルエンザの簡易検査は、実は6割くらいしか当たらないんです。検査をして陰性だったから、と働いている方は世の中に多いのですが、その中には実際にはインフルエンザの方もいますし、そうでなくても風邪には違いありません。

 

 

ですから風邪など体調がすぐれない場合には、大事をとって休む、というように社会的コンセンサスを変えていく必要があります」

 

 

流行の早まりにも対応できる、ビジネス・コンティニュイティ・プランが大事。

 

 

感染症の流行は自然災害のようなものですから、その時の事業継続を考えて普段からスケジュールを組むことなども求められます。

 

 

 

 

そのためには、人員にある程度余裕を持った業務プランの整備、いわゆる『ビジネス・コンティニュイティ・プラン』(災害などの非常時でも企業が存続できるよう対応策などを事前に定めた事業継続計画)が大事になってきますね」

 

 

と久住医師。企業として、予防接種など従業員の日頃からの健康管理や、風邪などの状態になった従業員、サポート人員の勤務体制の管理のあり方を、見直す必要性を提示しました。

 

 

「インフルエンザ対策で言えば、企業での集団予防接種が非常に有効です。ただし、ワクチン自体が全国で2900万接種分くらいしか作られていませんので、多くの希望者が殺到すると確実に足りません。

 

 

 

 

また、ワクチンの供給が本格的に増えてくるのは11月頃で、企業でも11~12月に接種を行っているところもあります。しかし、今年のように流行が早かった場合、それでは予防対策として間に合わない可能性が高いです。

 

 

来年も流行が今年並みに早い可能性もありますし、今後の流行開始時期がこれまでと同じとは限りません。それを見越した対策が必要になってくるでしょう」

 

 

早めの、そしてシステマティックな対応強化が望まれますね。

 

 

久住英二(くすみ・えいじ)

医療法人鉄医会(ナビタスクリニック立川・川崎・新宿)理事長。内科医、血液内科医、旅行医学、予防接種。新潟大学医学部卒業。虎の門病院血液科、東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム部門研究員を経て2008年、JR東日本立川駅にナビタスクリニック立川を開業。好評を博し、川崎駅、新宿駅にも展開。医療の問題点を最前線で感じ、情報発信している。医療ガバナンス学会理事、医療法人社団鉄医会理事長内科医、血液専門医、Certificate in Travel Health、International Society of Travel Medicine。

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