先日のシンポジウムから、当院の取り組みに関連する5演題をご紹介していきます。今回は、瀧田盛仁医師の患者動態調査について。
【まとめ】
☆現場からの医療改革推進協議会第14回シンポ。久住医師司会のセッションから、当院の取り組みに関連する演題を紹介していきます。
☆ナビタスクリニックで診療を行う内科医・瀧田盛仁医師が、新宿院の患者動態調査を行い、結果を発表しました。
☆「都会の働き手は時間的医療弱者である。生活時間や生活動線を尊重した医療提供の在り方を追求すべき」
12月7・8日に開催された「現場からの医療改革推進協議会」第14回シンポジウム。今年もナビタスクリニックやその取り組みに密接に関連する演題が、複数発表されました。動画は後日、同協議会ホームページで公開される予定ですが、ここではナビタスクリニック理事長・久住英二医師の司会で行われたセッションの中から、5つの演題をご紹介していきます。
今回は、ナビタスクリニックで診療を行う内科医・瀧田盛仁医師の講演「都会の働き手は医療弱者である~ナビタスクリニック新宿の患者動態調査から」です。
医療崩壊の一因「コンビニ受診」は、「患者ニーズ」だった――ナビタスクリニック誕生へ。
患者動態調査の結果の話に入る前に、調査の経緯について。
ナビタスクリニック新宿は、巨大ターミナルである新宿駅から徒歩0分、駅ビルの1つであるNEWoMan新宿に入っています。
瀧田医師は今回、ナビタスクリニック新宿・内科を受診された患者さんたちについて、年齢、性別、居住地、受診時間帯などのデータを使い、その傾向を分析しました。患者さんたちの属性や受診動向をつかむことで、患者さんたちのニーズを的確に捉えることが可能になります。
患者さんのニーズにこだわるのは、ナビタスクリニックがそもそも「患者ニーズを追求する医療機関」として誕生したからにほかなりません。
事の始まりは、2006年に試験的に開業した「コラボクリニック新宿」にさかのぼります。同院は、通常の医療機関では時間外で外来の行われていない18~21時に内科診療を行い、メディアにも取り上げられて話題となりました。
当時は医療訴訟の頻発や勤務医の労働環境の悪化による医療崩壊の危機感が高まっており、その背景の一つとして、患者による時間外の「コンビニ受診」問題が指摘されていました。しかし、それを患者の“問題行動”ではなく、患者視点から“ニーズ”として捉えなおし、あえての「コンビニクリニック」として立ち上げたのが、コラボクリニックでした。
そこで蓄積した経験をもとに2008年、ナビタスクリニック立川を開設。さらにナビタスクリニック川崎を経て2016年4月、ナビタスクリニック新宿を駅0分の立地に開設しました。
新宿院は、20~30歳代、19時台の医療ニーズの受け皿に。【患者動態調査より】
こうしたナビタスクリニックの開設経緯に加え、瀧田医師が着目していたのは、近年の日本人の労働実態です。
厚労省の「毎月勤労統計調査」によれば、成長を続ける情報通信業では、所定外労働時間が前年比 2-3割も上昇。その担い手である20~30歳代では、勤務時間も全盛代で最長となっていることを瀧田医師は指摘しました。
こうした背景から瀧田医師は、彼らの医療の受け皿不足を推察。「都会の働き手は医療弱者である」との仮説を打ち立てました。
実際に患者動態分析を行った結果、以下のようなことが読み取れたといいます。
まず、新宿院を受診された患者さんは、半数以上が女性で、20-30歳代が非常に多くなっていました。1つの要因として、HPVワクチンやアフターピルなど、その世代の女性のニーズに合う診療内容にも力を入れ、その認知が高まりつつあることが挙げられます。
ただし、男性でも20-30歳代が多かったことは、実は「ナビタスクリニック新宿開設の当初の想定とは違う結果でした」と瀧田医師。ターミナル駅に立地し、夜遅くまで診療していることから、働き盛りの中高年男性が多く受診することを見越していたからです。
時間帯別にみると、患者さんが多いのは19時台。実に他の時間帯の2倍に上りました。その時間帯に開いている医療機関が限られるためと見られます。「ナビタスクリニック新宿がなかったら、そうした方々を受け皿となる病院はないのではないでしょうか」
「都会の働き手は時間的医療弱者」。患者さんの生活時間・動線を尊重した医療提供を。
瀧田医師によれば、内科は外科と違い、いかに生活動線に溶け込むかが大事。つまり、受診できる時間帯と場所が、医療機関選びの決め手になっていると見られます。
そこでナビタスクリニックを受診された方々が、どのような地域に居住されているか、匿名化して集計。当然、新宿はターミナル駅なので様々な路線が入り込み、その沿線にお住まいの方は多いのですが、年代別に見ると、世田谷、杉並、中野あたりでは50歳代、その周辺からは30歳代の方が多くなっていました。また東京の東側では20歳代など比較的年齢の若い方が多いことが分かりました。
「さらにデータが蓄積したら、時間帯と診療内容との関係などについても解析し、患者さんにとってより使いやすい診療スケジュールに反映させるなどしたい」と瀧田医師。さらなる研究が待たれます。
今回の解析から、瀧田医師は仮定を一歩進め、「都会の働き手は時間的医療弱者」と結論づけました。「内科医にできることは非常に限られていますが、患者さんの生活時間と生活導線を尊重し、寄り添える医療提供の在り方を考えていきたい」と締めくくりました。
(スライド:瀧田医師提供)