インフルエンザの流行が早まった理由、疑問や誤解について、久住医師のAbemaTVでの解説をまとめます。
【まとめ】
☆久住理事長がインターネットTV「Abema Prime」に生出演。インフルエンザの早い流行と、ウワサやギモンを解説。
☆インフルワクチン、打ってもかかる? ウイルス検査、実は当たらない? 家に持ち込むのはお父さん?
☆社会全体で、予防接種や働き方に関する意識を変えることが、集団免疫の成立に欠かせません。
インフルエンザの感染者数が先週1週間で1万5,000人以上増加。北海道では流行の警戒レベルを超えました。この事態を受けて、久住医師がAbemaTVのインターネットニュース「Abema Prime」に生出演。早すぎる流行の原因や、インフルエンザに関する誤解や疑問について解説しました。(12月4日)
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(12月10日まで無料視聴できます)
以下、久住医師のコメントをまとめます。
すでに去年の6倍の患者数、なぜ例年より早く大流行が始まった?
厚労省によれば、11月18‐24日の1週間に全国5,000病院を受診したインフルエンザ患者は15,390人。去年の同時期の6倍に達するそうです。流行開始も去年より4週間早く、統計を取り始めた1999年以降で2番目の早さでした。なぜ早く流行し、爆発的に広がっているのでしょうか?
背景にあるとされるのが、世界が熱狂したラグビーW杯。海外ファンの来日が感染拡大に影響したと言われています。
これについて久住医師は、以下のように解説しました。
「たしかに今年は全国的に、どの都道府県も、例年より流行が早まっています。ただ、もともと夏場でも、沖縄や東南アジアなど熱帯の地域では、すでにインフルエンザが流行っているんです。そうした地域を旅行した方が持ち帰るなどして、都内などでも夏にインフルエンザの患者さんが出るのは、診療している我々からすると普通のこと。
ただ、今年に関しては流行の広がりが、やはり早かった。原因として一つ考えられるのは、今年は人の移動が例年と違ったことです。
インフルエンザは北半球では冬に流行しますが、夏の間どこにいるかというと、南半球なんです。南半球はちょうど冬なので。ウイルスも南に行ったり北に行ったり移動しているんですね。今年はラグビーW杯などの理由で、南半球の人々が夏場~初秋にかけて例年より多く日本に訪れた。そのためにインフルエンザウイルスが持ち込まれる機会が多かった可能性があります。
来年も東京オリパラで、海外から多くの人が日本を訪れることになりますから、当然、インフルエンザはじめ様々な感染症が持ち込まれるでしょうね。
インフルエンザワクチンは2~3月に種類を決めて、出荷は早くて9月ですから、残念ながら来年の東京オリパラには間に合いません。
基本の対策は、まず手洗いです。アルコール消毒も、手が汚れた状態では効果が薄れてしまいます。うがいやマスクの感染予防効果は、科学的には証明されていません(ただし、マスクは、感染している人がウイルスを周囲に広げない効果があります)。また、咳エチケット(こちら)も認知を高めたいですね」
ワクチンが効かない? なぜ撲滅できない? 原因はインフルエンザの変わり身の早さ!
インフルエンザワクチンについては、毎年「接種したのにかかった!」「効かなかったのかな?」という声も聞かれます。予防接種の効果は果たしてどうなのか・・・?
「インフルエンザウイルスには色々な型があり、さらに遺伝子の組み換えが定期的に起きる特殊性があるので、毎年ワクチンの内容の見直しが行われます。予想ががっつり当たれば流行は小さくなり、ちょっと外れると流行が大きくなったり、という差は出ます。
ただ、今年すでに流行が始まっているのは、A(H1)型、昔で言う『Aソ連型』で、ワクチンの予想は当たっているんです。それでもかかってしまう可能性はある。
というのは、そもそもウイルスというのは、いわば殻の中に遺伝子が入っているだけの、生き物とも言えないようなものです。この遺伝子はコロコロ変わるので、人から人へ移った時点で、厳密には完全に同じでなくなっていることもあるんです。
そのため、インフルエンザワクチンの有効率は平均6割程度にとどまります。
さらに、ワクチン接種後に体内で抗体が作られて免疫が成立するまでに、2週間はかかるとされています。例年、ワクチンは10月頃に接種開始となり、11月に接種を受ける方が多いのですが、今年のように流行が早い年は、それでは間に合わない人も多いでしょうね」
では、例えば1980年に世界から撲滅できた天然痘と、何が違うのでしょうか? これだけ毎年多くの人がワクチンを接種しているのに、インフルエンザは撲滅からほど遠いように見えます。
「インフルエンザの特徴として、ヒトが運ぶだけでなく豚や鳥といった動物にも感染して、その中で組み換えが起きてどんどん変異していくことが挙げられます。そうして新たな型が次々に流行を繰り返すので、抑え込みきれないのです。
2009年に脅威となった新型インフルエンザの場合には、実際には風邪とほとんど変わらない初期症状でした。しかし、かつてのスペイン風邪のように、強い毒性を持つ型に変異した場合には、全世界で人々の命が危険にさらされる可能性があります」
インフルエンザ、やはり侮れません。
会社を休めない・休まないお父さんたちが感染を広げ、家庭に持ち込んでいる!
さて、同じインフルエンザウイルスにさらされても、感染する人としない人、発症する人としない人がいます。これらの差は、どこで生じてくるのでしょうか。
「これについては医学的に明確なことは分かっていません。インフルエンザに限らず、風邪全般は、睡眠不足や疲労などによって免疫力が低下して、発症します。程度も人それぞれで『ちょっと風邪っぽいけれど、まあ大丈夫か』と言って済ませてしまったけれど、もしかして検査したら陽性だったかもしれない人や、無症状のインフルエンザ患者も非常に多いと思われます」
症状がほとんど出なかったり、ただの風邪だと思っていると、その周囲の人も知らないうちにウイルスにさらされ、感染を広げることに。
「あるいは周囲の人も、知らずに体内に取り込んで、免疫を獲得している可能性もあります。2月くらいになるとインフルエンザが自然に収束するのも、実は国民全体にインフルエンザが行きわたった結果かもしれません」
(Shutterstock/Kateryna Kon)
逆に、インフルエンザと思って検査をしたら陰性だった場合も要注意、と久住医師。
「インフルエンザの簡易検査の精度は、だいたい60%から良くて80%程度と言われています。実際には陽性の人が100人検査を受けて、正しく陽性と出るのは60~80人だけということです。ですから、検査で陰性だったからインフルじゃないと出社した人も、実はかなりがインフルエンザの可能性があるのです。
この季節、『私はまず風邪をひかないんです』というような人が風邪っぽかったら、たとえ検査で陰性だった場合でも、怪しいですね。周りも本人もインフルの可能性を用心して、感染を広げないための対応をとったほうがいいかもしれません。
川崎市の医師の研究では、家庭にウイルスを持ち込むのは多くがお父さんだということです。自分の健康を過信している人が、ワクチン接種もせずに感染して、家に持ち帰ってしまうんです」
インフルエンザは飛沫感染するにも関わらず、ネットでは、「熱が低いから出社しろと言われた」「インフルエンザハラスメントだ」といった声も聞かれます。一方で、「休むのが申し訳なくて完治前に出勤してしまった」など、社内の評価を気にして回復前に出社し、結果として感染拡大につながってしまうケースも少なくなさそうです。
かつて行われていた学校での“集団予防接種”、なぜ止めてしまったの?
インフルエンザワクチンは、かつては小中学生に対し学校での集団接種が行われていました。集団接種が始まったのは1976年のこと。しかしその後、1987年には希望者への接種に変更となりました。この時にはまだ定期接種(無料)でしたが、1994年には予防接種法の対象からも外され、任意接種(自費)となりました。
なぜインフルエンザの予防接種がこのように手薄になってきてしまったのは、副反応に対する正しい理解が広まらなかったから、と久住医師。
「予防接種後に体調を崩す人は、どんなワクチンでも一定数います。ただ、それに対して有効率が100%でないことなどから、自分たちでワクチン接種するかどうかを決めたい、という声が大きくなっていったことが背景にあります。
接種後の体調不良というのは、ワクチンが引き金になることもありますが、実際には“紛れ込み”の割合も非常に高いんです。たまたま接種直後に、風邪などまったく別の病気をもらってしまったというような場合です。
現在、日本で使われているのは、不活化4価ワクチンです。4価というのは、4種類入っている、ということです。不活化ワクチンは、ウイルスそのものではなくて、ウイルスの表面についているタンパク質を精製したものです。免疫細胞が、それでウイルスの特徴を学習して、攻撃対象を認識するのです。ちょうど警察犬が犯人のにおいを覚させられて、犯人を発見するようなイメージです」
生きたウイルスを体に入れているわけではないので、少なくとも予防接種でインフルエンザにかかることはあり得ないんですね。
「近年では、ウイルスの変異しない部位を免疫細胞に覚えさせる『ユニバーサルワクチン』を作る動きがあったり、注射を嫌う人が多いので鼻に噴霧する不活化ワクチンを開発中だったりします。世界的に鼻に噴霧するインフルエンザワクチンはすでに実用化されていますが、日本では不活化ワクチンで開発中です。また海外では貼るワクチンも出来ています。
日本は世界で最もワクチンを信頼していない国のひとつ!
こうした開発側の取り組みはあるものの、世界的には、日本は今世界で最もワクチンを信頼していない国とカウントされています。
医療者にも問題があり、インフルエンザワクチンを受けていない医療者も少なくなりません。そういう人は『自分はインフルエンザにかかったことがないから』と言うんです。
しかし、先の通り、知らないうちに感染して症状が出ないまま人にうつしている可能性もあります。まったく感染していないのではなく、常にウイルスにさらされているので、ちょっとずつ感染することで、自然に免疫を獲得しているのでは、ということです。例えば水ぼうそうなどでは、普段から患者に接している小児科医より、その機会の少ない精神科医はもらってしまう確率が高いんです。
現在、日本では2900万人がワクチンを接種しています。逆に言えば、9000万人近い人は接種していません。それでは「集団免疫」は成立しません。
公の場で『私は打ちません』なんて堂々とおっしゃる方もよくいらっしゃいます。『なるべく打ちたくない、打たない方がいい』というような、ワクチンに対する抵抗感みたいなものが、潜在的に、ベースにあるのだと思います。社会全体としてそういう意識を変え、空気を変えられれば、接種率も上がっていくと思っています」
予防や集団免疫という観点から、人々の予防接種に対する認識や、働き方を変えていくことが非常に大事と言えそうです。
久住英二(くすみ・えいじ)
(トップ画像:AbemaPrime)