この時期の恒例行事とも言えるインフルエンザの予防接種ですが、毎年同じような疑問をうやむやのままにしていませんか?
【まとめ】
☆毎年必ずいる「接種したのにかかった!」という人。インフルワクチンは効かない? 「有効率60%」ってどういう意味?
☆ワクチン接種の意味は、感染・発症予防だけではありません。重症化のリスクを下げるためでもあります。
☆特に妊婦さんは重症化しやすいため、予防接種が大事。しかも、胎児~新生児まで守ることができるのです。
インフルワクチン、接種したのにかかった・・・「有効率」って何?
“インフルあるある”とも言えるのが、毎年必ず現れる「予防接種したのにインフルにかかってしまった!」という人、ですよね。
他のワクチンでは、きちんと決められた回数を完遂していれば、そのようなことはほとんどありません(接種後何十年も経過していれば別ですが)。なのに、インフルエンザではなぜ「接種したのにかかった」などということが、高頻度で起きるのでしょうか?
厚労省の「令和元年度インフルエンザQ&A」によれば、6歳未満の小児に対するインフルエンザワクチンの「有効率」は、「60%」とのこと。
ここで多くの人が、この「有効率60%」を、「ワクチンを打った10人中、6人はインフルにかからない、4人はかかってしまうかもしれない」という意味だと早合点しがちです。
正しくは、有効率とは「ワクチンを打った人が、打たなかった人と比べて発病率を減少させられる割合」のこと。
以下のように計算されます。
有効率 =(A-B)/ B × 100
A:ワクチンを接種しなかった人の発病率
B:ワクチンを接種した人の発病率
例えば、
●ワクチンを接種しなかった100人のうち30人がインフルエンザを発病(発病率30%)
●ワクチンを接種した200人のうち24人がインフルエンザを発病(発病率12%)
→ワクチンの有効性={(30−12)/30}×100=60%
つまり、「ワクチンを接種しなかった人(発病率30%)が、もしワクチンを接種していたら(発病率12%)、発病率を60%減らせたはず」ということです。
そもそも打ってもかかる可能性は残るもの・・・だったら接種の意味がない?
ここでお気づきかもしれませんが、インフルエンザワクチンの有効性=60%ということは、打っていなかった場合に比べて発病リスクを6割減らせるのですが、逆に言えば、4割は接種しなかった場合と同等のリスク、ということになります。
となると、「そもそも打たなくても絶対にかかるわけではない。そのリスクがゼロになるならまだしも、半分弱にするだけで、結局かかってしまうかもしれない。そんなものに、お金と時間をかけ、痛みを我慢するだけの価値があるのか」と言い出す方もいるでしょう。
実際、上記厚労省Q&Aにもこうあります。
「体の中に入ったウイルスは次に細胞に侵入して増殖します。この状態を「感染」といいますが、ワクチンはこれを完全に抑える働きはありません」
「インフルエンザワクチンには、この「発病」を抑える効果が一定程度認められていますが、麻しんや風しんワクチンで認められているような高い発病予防効果を期待することはできません」
しかし、インフルエンザワクチンの価値は、感染や発症予防だけにあるわけではありません。
大切な効果として、重症化予防が挙げられます。再び上記Q&A。
「発病後、多くの方は1週間程度で回復しますが、中には肺炎や脳症等の重い合併症が現れ、入院治療を必要とする方や死亡される方もいます。これをインフルエンザの「重症化」といいます。特に基礎疾患のある方や高齢の方では重症化する可能性が高いと考えられています。インフルエンザワクチンの最も大きな効果は、『重症化』を予防することです。」
インフルエンザワクチンによる重症化予防の有効性は、41%とされています。先ほどと考え方は同じで、接種せずにインフルエンザにかかって入院した人のうち41%は、接種していればインフルエンザによる入院が避けられた、ということ。
「なんだ、やっぱりそれも41%だけ」と思われたかもしれません。ただ、数にすると毎年2万人以上が、インフルエンザの重症化によって入院しています。例えばその全員が予防接種を受けていなかったとしたら、もし受けていれば、8000人以上が入院せずに済んでいたかもしれない、というわけです。
予防接種によってウイルスと闘う武器を用意し、その8000人に入る可能性を確保しておくのか、最初から武器は放棄して身一つで闘うのか・・・。
そもそも入院には至らなくても、体感的に厳しい症状に見舞われるのがインフルエンザ。予防接種をせずにインフルエンザにかかってしまったことがある人なら、その辛さはご存じでしょう。症状は軽いに越したことはありませんよね。
妊婦さんこそワクチンで重症化予防! お腹の中の赤ちゃんも生後半年まで守れます。
この重症化を防ぐ効果の恩恵を特に享受すべきは、妊婦さんです。
ナビタスクリニックの山本佳奈医師は、AERA dotの連載「ちょっとだけ医見手帖」の中で、妊婦さんもインフルエンザの予防接種を受けるべき理由を次のように解説しています。(記事より要約)
●ニュージーランドの研究では、妊娠していない女性に比べ、妊婦はインフルエンザによる入院の割合が3.4 倍。(妊娠初期は2.5倍、 妊娠中期は3.9倍、妊娠後期は4.8 倍)
●米国疾病管理予防センター(CDC)の2019年の報告では、予防接種を受けることで、妊婦がインフルエンザで入院するリスクが40%減少。
●デンマークの研究では、妊婦のインフルエンザ予防接種の有効性は63.9%。さらに、妊娠中に母親がワクチン接種をした生後6カ月未満の乳児でも、有効性は56.8%に上った。
つまり、妊婦さんはインフルエンザが重症化しやすいのですが、ワクチンによってそれを回避でき、さらに胎児から生後半年までの赤ちゃんも守れるのです。
(山本佳奈医師)
なお、インフルエンザワクチンと違って、世の中には、妊婦さんが打ってはいけないとされるワクチンもあります。麻疹・風疹混合ワクチンやロタワクチン、水ぼうそうワクチンなど「生ワクチン」は、全てNG! 体内でウイルスが増えて胎児に悪影響を与える可能性が否定できないからです。
それと混同しているのか、インフルエンザワクチンにも同じようなリスクがあると勘違いされている妊婦さんもいるようです。しかし、インフルエンザワクチンは「不活化ワクチン」と言って、死滅させたウイルスから免疫反応に必要な成分を取り出し、毒性をなくして作ったもの。感染の心配はありません。
ですから妊婦さんでも安心してインフルエンザワクチンの接種を受けていただくことができます。
例年より2カ月早く流行が始まったため、ピークも早く訪れると考えられます。免疫成立まで予防接種から2週間かかります。まだの方は、お急ぎください。