早くも本格的流行に入ったインフルエンザ。目に見えない敵が、身近なところで生き続けています。
【まとめ】
☆インフルエンザの本格的な流行を受け、ナビタスクリニック理事長の久住医師がテレビ朝日「グッドモーニング」の取材に応えました。
☆久住医師は、飛沫感染だけでなく接触感染に注意すべきと解説。体外に排出されたウイルスは瞬時に死滅するわけではありません。
☆家の中、職場、外出先で、接触感染リスクが高いのはどんな物? 接触感染予防にもマスクが役立ちます。
全国各地でいよいよ患者が本格的に増え始めたインフルエンザ。感染予防について、ナビタスクリニック理事長の久住英二医師が、テレビ朝日「グッドモーニング」の取材に応え、解説が紹介されました。
飛沫は、くしゃみなら3m、咳でも1~2m飛びます。でも、手で覆うのはNG!
インフルエンザの感染経路として、多くの人が真っ先に思いつくのが、飛沫感染ではないでしょうか。咳やくしゃみによって感染者の飛沫(唾液)が飛び散り、周囲の人の鼻やのどの粘膜に付き、中に含まれるウイルスが体内に侵入して発症に至るものです。
感染者のくしゃみ1回あたりには、200万個のウイルスが含まれるとも言われます。咳でも10万個は、周囲に飛び散るとも。何も遮るものがなければ、飛散距離は、くしゃみなら3m、咳でも1~2mほどと考えられます。

(Shutterstock/Kateryna Kon)
飛沫は、ほぼほぼ水分で重いので、空気中を長時間漂うことなく落下します。そういう意味では、空気感染することはほとんどありません。ただ、飛沫から水分が蒸発して飛沫核となれば、軽いので空気中を漂います。それが空気の乾いた密室ならば、空気感染の可能性はゼロではありません。
この飛沫核は小さく軽く、小さな隙間にも張り込みます。そのためにマスクの感染予防効果には限界があるのですが、だからと言って効果がないわけではありません。それについては後ほどご紹介します。
一方、感染者に限らず、咳やくしゃみをする際の周囲へのマナーとしては、必ず口を覆うことが基本。その際、つい手の平で口を覆ってしまいがちですが、これはNG!! 次にご紹介する「接触感染」を広げる原因になってしまいます。
口を覆うときは、大きめのハンカチやタオル、ティッシュなどで。
持っていないときや間に合わないときは、素手ではなく、必ず“ひじの内側”で覆いましょう。これは世界的には常識ともいえる咳(くしゃみ)エチケット。日本でも近年ようやく呼びかけられるようになりました。
(厚労省)
目の前に感染者のいない「接触感染」がクセモノ。しぶとく生きつづけるウイルス。
ただ、久住医師が飛沫感染以上に警鐘を鳴らすのは、接触感染。
咳やくしゃみをしているなど、目の前に感染者やそれと疑われる人がいれば、近づかないようにするなど自衛することもできます。しかし接触感染では、「感染者が目の前にいないために油断しやすい」と久住医師。
感染者の飛沫がかかったものや、感染者が自分の鼻や口に触れた手で触ったものには、ウイルスが付きます。その後、健康な人がそれを手で触り、その手で自分の顔に触れると、感染リスクが非常に高くなります。
(テレビ朝日「グッドモーニング」2019年11月21日)
ウイルスは、寄生している生き物の細胞の中でしか、生きることも増殖することもできません。ただ、生き物の体の外に出た瞬間に死滅するわけでもないのです。環境によっては、生体外でもある程度の時間は生存しつづけます。
久住医師は、感染者が触れたものによっても、インフルエンザウイルスが生き続ける時間が違ってくることを紹介。
本やプリントなどの紙類や、タオルや椅子の背もたれといった布類など、表面がざらざらしたものの上では、長ければ約8時間は生き続けるそうです。さらに、金属やプラスチックなど、表面の凸凹が少なくつるつるしていて、なおかつ乾いている物に付くと、24時間生き残ることも。
(テレビ朝日「グッドモーニング」2019年11月21日)
発症してしまった人の生活圏内は、丸1日は、接触感染のもとになる物で溢れかえることになります。また、健康な人も一歩外に出れば、そこかしこにウイルスに汚染された物が・・・。
久住医師は、ウイルスが付着しやすい場所を知っておくことが大事、としています。
家でも外でも接触感染リスク! 「抗菌」は無関係。やはりマスクは優秀です。
例として挙げられるのは以下のような場所。この時期は念頭に置いて行動するようにしましょう。
★自宅なら…
・ドアノブ
・照明のスイッチ
・テレビやエアコンなどのリモコン
・共用のタオル など
(テレビ朝日「グッドモーニング」2019年11月21日)
★職場なら…
・ドアノブ
・共用パソコンのキーボード
・共用の電話機 など
(テレビ朝日「グッドモーニング」2019年11月21日)
★外出先でも…
・電車のつり革
・エレベーターや飲み物の自動販売機のボタン
・駅の券売機や案内板などのタッチパネル など
(テレビ朝日「グッドモーニング」2019年11月21日)
中でも「共用タオル」は、インフルエンザに限らず家庭内で感染症が一気にうつる原因になります。特に小さい子供はうがいをして口を拭ったりするので、ダイレクトにタオルにウイルスがつきます。
できれば、タオルは個人別に用意する、小さいハンドタオルをたくさん用意しておき1回使ったら洗濯に回す、家でもペーパータオルにする、といった工夫が必要です。
そして職場では、「共用電話機」。共用タオルと同じく、受話器には口を近づけるので飛沫がダイレクトに付着します。つるつるしているので、ウイルスが残りやすい物でもあります。外出先でも、多くの人が手で使用・操作する物は、つるつる表面のものが多いので、ウイルスが生き残りやすい、と念頭に置いておきましょう。
なお、街中のエスカレーターの手すりなど、様々な物で見かける「抗菌」仕様は、ウイルスとは無関係。「抗菌」とは、経済産業省の定義で「細菌の増殖を抑制する」とされています。細菌(O-157やサルモネラ菌など)は、ウイルスと違い、条件が整いさえすれば単体で増えていきます。それを抑えることができるのが、文字通り“抗菌”仕様(ただし殺菌作用はありせん)。
(テレビ朝日「グッドモーニング」2019年11月21日)
一方、そもそもウイルスは、先の通り生体内でしか増えませんし、細菌よりもずっと少ない数でも体内に入って増えて発症します。「抗菌」製品は気休めにもならない、ということです。
さて、自衛の基本は手洗い。接触感染は主に自分の手についたウイルスが原因ですから、こまめに手を洗うことが大事です。
さらに、グッズとして優秀なのは、やはりマスクです。
「マスクにはウイルスを防ぐ効果はない」という話を聞いたことがあるかもしれません。たしかに、ウイルスや飛沫核の大きさを考えれば、マスクの隙間等から中に入るのは防げず、万全ではありません。
しかし、主たる感染経路である飛沫感染と接触感染については、それなりの回避効果が期待できます。飛沫は直径が大きいので、マスクで遮ることは十分可能。また、マスクをしていれば、自分の手で自分の口や鼻などを無意識のうちに触るのを避けることもできます。
さらに、マスクによってのどや鼻の粘膜の保温・保湿効果が得られ、粘膜表面の繊毛(微細な毛のような形状で、ウイルスなどを絡めとって排除するもの)の働きを活性化できると考えられます。
近年では様々な形や色のマスクが登場し、ファッションの一部あるいは邪魔にならない背品も増えています。自分に似合うマスクを見つけて、楽しみながらインフル予防できたらいいですね!
ナビタスクリニック理事長
久住英二