-【院長ブログ】HPVワクチン、世界的には男性も接種へ。肛門がんや咽頭がん、尖圭コンジローマも予防。(濱木珠恵)-

2019.11.21

若い女性が打つべきもの、と思われがちなHPVワクチン。でも、知っている男性は打ち始めています。

 

 

【まとめ】

 

☆当院で個人輸入のHPVワクチン「ガーダシル9」、最初の接種者は意外にも日本人男性でした。

 

☆HPVワクチンは、子宮頸がんだけでなく、肛門がん、咽頭がん、尖圭コンジローマなど男女を問わない疾病を予防。

 

☆今もほぼコンスタントに日本人男性が接種に訪れます。世界的にも男性のHPVワクチン接種は常識へ。

 

 

 

意外?! HPV9価ワクチンをいち早く接種したのは、日本人男性でした。

 

 

まずはグラフをご覧ください。

 

 

これは、ナビタスクリニック新宿でのHPVワクチン導入以来の接種人数(初回接種のみをカウント)の推移です。4価(G4:ガーダシル4)と9価(G9:ガーダシル9)、日本人とそれ以外、男女で色分けされています。

 

 

 

 

まず目につくのが、水色の部分。これは、ガーダシル9を接種した外国人女性を示していますが、実際のところそのほとんどが中国人女性です。

 

 

ただし、中国人女性が殺到する前、2017年3月に日本人男性で最初にガーダシル4を接種された方がいました(細かくて色の差が分かりづらいのですが)。

 

 

 

 

さらに同年12月、当院がガーダシル9を海外から個人輸入して最初の接種者は、日本人女性でも中国人女性でもなく、実は日本人男性でした。

 

 

これまでに当院でHPVワクチンを接種された男性は、141人に上ります。そのうち日本人は114人。女性では、日本人よりも中国人の接種希望者が圧倒的に上回っているのとは、今のところ状況が大きく違うのです。

 

 

男性にも、肛門がん、陰茎がん、咽頭がん、尖圭コンジローマの予防効果。

 

 

男性が接種を受けるメリットや、希望される理由はいくつかあります。

 

 

まず、HPVワクチンは「子宮頸がんワクチン」と呼ばれることもあり、子宮頸がん予防のイメージが強いのですが、実はそれに限りません肛門がん、陰茎がん、咽頭がん、そして尖圭コンジローマの予防効果があります。

 

 

というのも、HPVは「ヒトパピローマウイルス」の略称で、HPVワクチンはヒトパピローマウイルスへの感染を予防します。HPVにはインフルエンザウイルスと同じように多くの型があり、その型ごとに発症しやすい病気がある程度分かっています。

 

 

 

 

HPVワクチンの4価、9価、というのは、こうした型をいくつカバーしているか、という違いです。それによって、それぞれの病気をどの程度予防できるかも違ってきます(表)。

 

 

 

 

日本で定期接種となっているのはガーダシル4(4価ワクチン)で、対象は小学校6年生から高校1年生の女子。4つの型から身を守ることができ、子宮頸がん予防の効果は70%とされています。これは、子宮頸がんを引き起こす可能性のあるHPV型が複数あるうち、4つの型で7割をカバー出来る、という意味です。

 

 

男性自身が罹患する可能性のあるがんでは、ガーダシル4は肛門がん85~90%、陰茎がん75~80%、咽頭がん85%をカバーしています。さらに尖圭コンジローマという、主に陰茎に出来る良性のイボも、ガーダシル4で90%予防できます。尖圭コンジローマは、特に20~30歳代の男性に多く見られます(肛門の周りや女性器にも出来ます)。

 

 

米国では、肛門がんの発現率やそれによる死亡率が、ここ15年ほど毎年、約3%上昇していることが先日明らかになりました。上記のとおり、ワクチンによって肛門がんの9割を防ぐことが可能ですが、米国人の半数は接種できていないとも。

 

 

(Phitak Khamgula / Shutterstock)

 

 

また、男性が接種を受ける効果は、男性自身の身を守るだけにとどまりません。HPVは主に性的接触によって感染します。男性が感染して、奥さんなどパートナーがHPVワクチンを未接種だった場合には、高い可能性でうつしてしまうことになります。そのリスクも回避できるのです。

 

 

当院で個人輸入しているガーダシル9(9価ワクチン)を接種した場合に、ガーダシル4と比べてどの程度予防効果が上がるかは、上の表のとおりです。子宮頸がんであれば、2割増しの90%予防が望めますが、その他はほぼ一緒か5~10%増しただし接種費用は3回接種でガーダシル4は約5万円、ガーダシル9は約10万円と、倍の費用が掛かります。

 

 

男性は、自身のことだけを考えれば、がん予防効果が5~10%アップするだけなので、費用対効果を考えてしまうかもしれません。しかし実際、「がん家系だからとにかく予防効果の高いワクチンを打ちたい」、あるいは「女性パートナーの子宮頸がん予防のために」と、ガーダシル9を希望される方もコンスタントにいらっしゃるのです。

 

 

男性の潜在需要を実感。男性への接種はしていない、という医療機関も。

 

 

さて、グラフに話を戻すと、ガーダシル9を当院で導入した当初(2017年12月)に女性よりも日本人男性の出足が早かったのは、男性へのHPVワクチン接種を行っている医療機関が少ないことも、理由の1つと言えそうです。

 

 

約2年を経た今も、新宿近隣だけでなく郊外や都外といった広い範囲から、「近くのクリニックで断られた」と、わざわざ当院へ接種に来られる男性もいます。

 

 

 

 

ガーダシル9の導入に対する女性の反応が男性より薄かったのは、ガーダシル4が定期接種化されていて、女性への接種が他のクリニックでも以前から行われているためかもしれません。

 

 

日本人接種者だけを男女別にカウントしたグラフを見ても、女性よりも男性の方が、人数が上回っている月もあるほど。もちろん、まだまだ多くの男性にHPVワクチンの必要性や効果を知っていただきたいですが、すでに関心を持っている方や、潜在的な希望者は意外と多いのではと感じています。

 

 

 

 

多くの先進国では、男性も積極的に接種を受けることを推奨するようになってきました。例えば米国CDC(疾病予防管理センター)は、以下のように明示しています。

 

 

●定期接種は男女とも11・12歳(接種自体は9歳から可能)

●それを逃した人については※、

・女子は13~26歳

・男子は13~21歳と、さらに26歳までの同性愛、バイセクシャル、トランスジェンダー、HIVを含む免疫不全患者に、接種を推奨。

 

 

日本で女性への接種を足踏みしている間に、世界では男性への接種まで常識になりつつあるのです。

 

 

※対象年齢も広がる可能性があります。先の肛門がんの増加を受けて、米国テキサス大学健康科学センターでは、「ワクチン接種は27-45歳の人も検討に値するので、主治医と話し合うことが重要」としています。

 

 

(shutterstock/New Africa)

 

 

最後に重要なこと。HPVワクチンは、あくまで感染予防ワクチンです。すでに感染している場合、HPVを体内から排除したり、病変を治したり、発症を予防する効果はありません

 

 

男性でも、尖圭コンジローマが出来てしまってから受診して、HPVワクチンを接種したいと希望される方もおられますが、残念ながら、再発予防効果はないのです(感染し発症した後に、表面上は治ったように見えても、基底細胞に潜伏し続けます)。

 

 

ですから接種するなら一刻も早く、が基本。定期接種の対象者が15歳までとなっているのも、性交渉未経験のうちに接種を受けるように、という意図があります。もちろん、15歳を超えても、感染していなければ効果は期待できます。思い立ったら吉日、ぜひご相談ください。(もちろん男性医師もいますので、ご希望の方は男性医師をご指名くださいね)

 

 

ナビタスクリニック新宿 院長

濱木珠恵(はまき・たまえ)

 

(トップ画像: shutterstock/New Africa)

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