“身長を伸ばす”ことをにおわせたサプリ、残念ながら成長促進を裏付ける科学的根拠はありません。
【まとめ】
☆“身長を伸ばす”とはっきり書いていなくても、それを期待させるサプリや加工食品。どんな成分が含まれる?
☆成長ホルモンの分泌を促すアミノ酸「アルギニン」。しかし、それをサプリで摂ることの効果は期待できません。
☆成長ホルモンの分泌を助け、身長を伸ばすのに必要なのは、適切な栄養バランスの食事と、質が良く十分な睡眠、そして運動!
前回、成長ホルモンが大人の健康にも重要で、不足すると老化が進んでしまうことを書きました。とはいえ、成長ホルモンと言えば、低身長のお子さんをもつパパやママにとっての大きな関心事。成長ホルモンの分泌を促したり、身長を伸ばしたり、といったことが期待できそうなサプリメントや加工食品に、つい手を伸ばしたくなりますよね。
ですが、その効果のほどはどうなのでしょうか?
結論から言えば、サプリメントは費用対効果に大きな問題がありそうです。それどころか、種類によっては効果が全く得られないものも・・・。
身長を伸ばしてくれそうなサプリや栄養食品、カルシウム・鉄・ビタミンDの効果は?
身長を伸ばす効果がありそうなサプリメントや栄養食品は巷にゴマンと溢れています。ただし、「身長を伸ばす効果がある」とははっきりうたっていないはず。科学的な根拠を立証しないと、そう表記してはいけないからです。
しかし実際には、「セノビ●●」といった商品名であったりして、身長が伸びると強く印象付けるような商品も多いもの。
それらの商品に概ね共通して含まれる、身長を伸ばしたり成長を促進したりするのに役立つと考えられている成分が、
① カルシウム
② 鉄
③ ビタミンD
です。
たしかに、それぞれ成長に必須の働きがあります。
●カルシウム:
骨や歯の原材料。不足すると骨が十分に成長しない。子供は1日に600~1000㎎摂ることが推奨されている。リンやマグネシウムなどのミネラル同士が互いに影響しながら吸収されるため、バランスよく摂る必要がある。
●鉄:
血液(赤血球)中のヘモグロビンの構成成分となり、酸素運搬という重要な役割を果たしている。子供は1日に5~11.5㎎が推奨摂取量。特に中学生くらいの成長期には、体や内臓が一気に成長し血液量も急激に増加するため、鉄が不足しがち。貧血になることも。
●ビタミンD:
カルシウムの吸収に必須の栄養素。カルシウムの摂取量が十分でも、ビタミンDが不足すると骨の成長が滞る。姿勢が悪くなったり、足の骨が曲がったり、くる病を発症したりすることも。
ですから、これらの栄養素が極端に欠乏していて成長が妨げられている場合には、それぞれ補充することで正常な成長が正常化する可能性はあります。
しかしその場合は、そもそも受診が必要であるのが普通。そうすればサプリメントではなく、医薬品の栄養製剤を処方してもらえます。成分含有量もサプリメントとは比べ物にならず、確実に不足栄養素を補えます。
一方、そうした極端な栄養素の不足がない場合には、サプリメントや栄養食品を摂取しても、成長が促進されるという科学的・客観的なデータはありません。それどころか勝手な判断で多量に摂ると、別の栄養素の吸収を妨げるなどして健康を損なうリスクさえあります。
特にカルシウム製剤は、成長を促進すると思われていますが、骨を強くする作用はあっても、成長促進作用は認められていないのです。
“成長ホルモンの分泌を促進する”とされるアルギニンのサプリ、効果は期待できません。
低身長を心配するパパママの間で、アミノ酸の一種である「アルギニン」が、成長ホルモンを分泌させる薬としてしばしば話題になるようです。しかし、アルギニンを口から摂取した場合の成長促進効果は、科学的に証明されていません。
たしかにアルギニンは、体内で、成長ホルモンの産生を妨げるホルモン(ソマトスタチン、膵臓から分泌)の分泌を抑制し、成長ホルモンの分泌を促します。実際、成長ホルモンの分泌を調べる試験でも使われています。
ただし、その場合は点滴で直接静脈に注入します。サプリで口から摂り、消化・吸収を経て血中に溶け込む量は、それと比べれば微々たるものでしかありません。
その結果、国立健康・栄養研究所による「健康食品の安全性・有効性情報」でも、アルギニン製剤については、「発育・成長に関しての文献は見あたらない」「小児にサプリメントとして使用することは推奨できない」としています。
そもそも実は、サプリメントどころか成長ホルモンの分泌を促す薬剤を使っても、子供たちの成長は促進できないことが、科学的に証明されてしまっています。
日本で、成長ホルモンの分泌を刺激する強力な薬が開発され、すでに医療現場で使われています。その薬の点鼻スプレーも開発されたのですが、治験の結果、薬剤で成長ホルモンの分泌を1日に2回程度促進しても、もともとの成長率以上には身長が伸びなかったのです。
なお、ネットで売られているような、鼻や口に噴霧する、成長ホルモンそのものを含むスプレーも、効果はありません。成長ホルモンは分子量が大きめで、鼻や口の粘膜からはほとんど吸収されないからです。飲み込んでしまえば、胃の中で分解されてしまいます。たとえ少し血液中に吸収されたとしても、微々たる濃度にしかならず、影響を及ぼすことはできないでしょう。
サプリに頼るより大事なのは、生活の基本――適切な食事、睡眠、そして運動です!
サプリや栄養食品にほとんど期待できないなら、親として子供の身長が伸びるのをどうサポートしてあげればよいでしょうか?
実は、答えはすぐ身近かなところ、毎日の規則正しい生活にあります。
1.バランスの取れた十分な食事。寝る直前はNG。
2.十分な質の高い睡眠。
3.適度な負荷の運動習慣。
親として子供にしてあげられる最も基本的なことが、結局は一番大事というわけです。
まず、1.バランスの取れた食事について。せっかくですから、先の3つの栄養素を意識しましょう。
●カルシウム:
効率的にカルシウムを摂取するのには牛乳やヨーグルトなどの乳製品が最適。牛乳・乳製品を中心に、小魚、海藻、豆類、野菜などの食品からもバランスよく摂りましょう。
●鉄:
鉄分は吸収率が低いミネラルですが、比較的吸収の良い鉄(ヘム鉄)は、肉、レバー、魚介類などの動物性タンパク質食品に多く含まれます。ホウレンソウや大豆など植物に含まれる鉄は、ビタミンCと一緒に摂ると吸収アップします。
●ビタミンD:
きくらげ、本しめじ、しいたけなどのきのこ類や、あんきも、いわし、にしん、さけなどの魚介類、卵黄やバターなどにも多く含まれます。脂溶性なので、炒め物や揚げ物にして油とともに摂取し、吸収率を上げましょう。
そして、2.睡眠。
成長ホルモンは、睡眠中、特に眠り始めて睡眠が深くなっていく初期の頃に最も多く分泌されます。就寝後、1時間半後には分泌のピークを迎え、眠り始めてから3時間後にはもう分泌は低下してしまい、その後はもう眠っている間に分泌が増えることはないのです。
だからこそ、スムーズに深い眠りに落ちていけるよう、お子さんの寝る態勢づくりを心掛けてあげてください。
・夜7〜8時以降は,強い光に当たらない。コンビニの照明はNG。家でも夜は白熱球がおすすめ。
・寝る2〜3時間前までに入浴を終え、安静に。体温低下と共に人は眠気が出るため、寝る直前に体温を上げないように。
・寝る2〜3時間前に食事を終える。血糖値が高いと成長ホルモンが分泌されにくくなるため。
最後に、3.運動です。
特に中学生くらいの成長期では、栄養や睡眠以上に、運動習慣で骨密度に顕著な差が出ることも多いのです。
これは、運動によって骨に衝撃が加わると、骨の内部に微細な骨折が起こり、それを修復しようとカルシウムの沈着が促進されるため、と考えられています。体を動かすことで骨の血流が良くなり、骨を作る骨芽細胞の働きも活発になります。
効果的な運動としては、テニス、バスケットボール、ウオーキング、ジョギング、筋力トレーニングのような、骨にかかる衝撃が適度に大きく、繰り返す動作が多いものほど骨密度を高めるようです。
以上を踏まえ、サプリ頼みではなく、生活の基本からまず見直してみることをお勧めします。それが子供の背を伸ばす確実な道であり、実は近道かもしれません。もしもあまりに身長が低い場合は、小児科を受診してご相談ください。
(参考サイト)
・国立健康・栄養研究所「健康食品の安全性・有効性情報」
・厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)」
・文部科学省「食品成分データベース」
(トップ画像:Shutterstock/Pixel-Shot)