-髄膜炎菌感染症をご存じですか? 予防ワクチン始めます! 淋病予防の研究結果も?!-

2019.11.02

命に関わる髄膜炎、原因はヒブや肺炎球菌だけではありません。しかも髄膜炎菌ワクチンで性感染症予防の可能性、という研究も。

 

 

【まとめ】

 

☆髄膜炎菌は、風邪のように体内に侵入し、髄膜炎を引き起こす細菌。0歳児や10代後半はハイリスク。

 

☆近年も集団感染あり、死亡例も。当院で予防ワクチンの接種を開始します。

 

☆髄膜炎菌ワクチンで、淋病予防も期待できるかも?! それって、どういう仕組み?

 

 

 

髄膜炎菌は、ヒブや肺炎球菌と同じく髄膜炎を引き起こします。命に関わることも。

 

 

髄膜炎菌は、赤ちゃんへの予防接種が定期化されたヒブ(インフルエンザ菌b型)や肺炎球菌と同じく、「細菌性髄膜炎」を起こす細菌の一種です。風邪と同じように患者のくしゃみなどに含まれ、飛沫(つば)が鼻やのどの粘膜に付き、感染します。

 

 

 

 

ただ実は、患者だけでなく、健康な人の鼻やのどの粘膜からも見つかる、意外と身近な細菌。免疫力が抑え込める程度なら問題ないのですが、血中に入って全身に炎症が広がる敗血症や、さらには髄液※にまで侵入し、髄膜で炎症(髄膜炎)を起こせば、命の危険も・・・。

 

※脳や脊髄は「髄膜」と呼ばれる組織で包まれ、髄膜と頭蓋骨や背骨等との間は「髄液」という液体で満たされている。通常、髄液中には細菌やウイルスは存在しない。

 

 

敗血症では、高熱や皮膚、粘膜内での出血、関節炎などの症状が現れます。髄膜炎に発展すると、頭痛や吐き気、精神症状、発疹、うなじ部分(首の後ろ)の硬直などの症状が出てきます。

 

 

日本経済新聞

 

 

また、ウイルス性の髄膜炎と比べて細菌性髄膜炎は比較的重症になりやすいことが知られています。頭痛や高熱、けいれん、意識障害を起こし、ショックに陥って死に至ることも。

 

 

米国疾病予防管理センター(CDC)では、髄膜炎菌感染症に感染した場合、致死率は10~15%にも上り、死に至らなかった場合も10~20%の患者が、聴覚障害、脳障害、腎障害、 手足の喪失、神経障害などの後遺症に悩まされるとしています。

 

 

実際、治療を行わなければ、致死率はほぼ100%(!)。ただし抗菌薬がかなり有効なので、迅速に適切な治療を受ければ治癒します。

 

 

現在の細菌性髄膜炎の原因1位。患者の多くは0歳児か10代後半、集団発生も!

 

 

髄膜炎菌による髄膜炎は、日本でも世界でも、戦後は大幅に患者が減りました。国内で言えば、大正時代に統計がとられてから最も患者が多かったのは終戦の年(1945年)で、報告されているだけでも4,384人発生、1,072人が亡くなっています。

 

 

その後、現在までに年間患者数は100分の1以下に。それでもなお、年間30人以上の患者が出ています(「侵襲性髄膜炎菌感染症」としての届け出)。2014年は37人、2015年は33人でした。年齢別にみると、0歳と15-19歳で患者が多くなっています(グラフは少し古く今とは届出分類が異なるため、見かけ上患者数が少なく見えます。なお、米国CDCでは0歳と13-23歳をハイリスクとしています)。

 

 

横浜市

 

 

しかも、髄膜炎菌感染症はしばしば集団発生が起きています。

 

 

例えば2011(平成23)年5月、宮崎県内の高校1年生が髄膜炎菌感染症で亡くなりました。高校の男子寮(寮生41名)で生活しており、この男子寮を中心に、感染疑いや保菌者を含めると合計9人、髄膜炎菌感染症が集団発生したのです。

 

 

米国でなど海外でも戦後、ヒブワクチンと肺炎球菌ワクチンの普及に伴い、細菌性髄膜炎そのものは大幅に減少しています。その代わり、髄膜炎を引き起こす原因細菌の第1位が髄膜炎菌となりました

 

 

 

そして日本でも遅れること20年近く、ヒブや肺炎球菌ワクチンが定期接種化されました。しかしその陰でまだ、髄膜炎発生の盲点となっているのが髄膜炎菌なのです。

 

 

当院でも個人輸入ワクチンの接種を始めます! 淋病予防効果の研究も?!

 

 

こうした状況を見過ごせないと、ナビタスクリニックでも髄膜炎ワクチンを個人輸入し、希望者に接種を行うこととなりました

 

 

今回導入するワクチンは、「B群髄膜炎菌ワクチン」。米国CDCでは、特に16-18歳での接種が好ましいとしています。

 

 

現在、ワクチンの入荷を待っている状況で、1カ月以内には接種を開始できる見込みです。その際にはまたお知らせいたします。

 

 

さて、実はこの髄膜炎ワクチン、「淋病」を予防する効果も期待できる可能性があることが、研究で分かってきています。淋病は、正しくは淋菌感染症と言い、淋菌の感染による性感染症です。

 

 

 

 

それをなぜ髄膜炎菌ワクチンで予防できるの? と不思議に思いますよね。

 

 

髄膜炎菌と淋菌は、非常に近い細菌なのです。両者のDNAの70%が共通する配列を持っています。そのため、髄膜炎菌に備えて成立した免疫システムが、その型に共通部分のある淋菌にも及んで、防御力を発揮するのです(いわゆる「交叉免疫」)。

 

 

実際今年7月に発表された研究では、髄膜菌ワクチンによって淋病への感染もある程度防げることが示されています。

 

 

淋病では、男性は主に尿道炎女性は子宮頸管炎を起こし、不妊の原因にもなります。

 

 

男性では一般に2~9日の潜伏期間の後、発症すると尿道から膿が出て、おしっこの時に痛みを感じるようになります。ただし、膿ではなく粘液が出たり、場合によっては無症状の場合もあるようです。

 

 

 

 

女性では男性より症状が軽く、自覚されないままのことも珍しくありません。そのため受診が遅れたり放置されたりしがちで、骨盤の痛みや炎症、不妊症、子宮外妊娠の原因となっています。

 

 

治療には抗菌薬が使われますが、問題は耐性菌が増えていること。薬の効かない症例が増えているのです。

 

 

淋病は、縁がなければそれに越したことはない病気かもしれません。でも、若い人たちの性の現実からすると、目を背けていれば済む問題ではありません。頭の片隅に置いておいていただければ幸いです。

 

 

 

 

(参考)

国立感染症研究所「髄膜炎菌感染症とは」

横浜市「髄膜炎菌性髄膜炎とは」

国立感染症研究所「淋菌感染症とは」

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