実は、筋肉注射の方が局所反応が小さく免疫もつきやすい。ではなぜ日本では皮下注射が一般的なのでしょうか?
【まとめ】
☆久住医師が、筋肉注射と皮下注射の違いをYoutube動画でわかりやすく解説!
☆世界の主流は実は筋肉注射。筋肉注射にはこんなにメリットがあります。
☆現在、日本では多くのワクチンは皮下注射が当たり前。でも、昔は筋肉注射が一般的。なぜ減った?
久住医師がYoutube動画で解説。筋肉注射ってどこに打つ? 皮下注射と何が違う?
現在、日本ではワクチン接種の際は「皮下注射」と言って皮下組織に打つ方法が一般的です。でも実は注射の方法にはいろいろあり(図)、中でも筋肉注射が見直されつつあります。
(ロバスト・ヘルス)
そこでナビタスクリニック理事長の久住英二医師が、患者さん向けに筋肉注射と皮下注射の違いを解説した動画を自作、Youtubeにアップしました。
★動画はこちら⇒「ワクチンの注射の方法について解説します」
内容をざっくりまとめると以下の通りです。
●注射を打つ部位
・皮下注射は、上腕三頭筋の外側の皮下組織(図)
・筋肉注射は、三角筋
●注射針の違い
・皮下注射の針は短めで、皮膚に垂直に刺しても皮下組織内にとどまる。
・筋肉注射の針は長めで、筋肉まで届く長さ。太さは皮下注射の場合とあまり変わらないものを使用。
●局所反応の違い
・皮下注射は皮下の浅いところに薬液が入り、炎症が起こるため、皮膚の表面に赤みや腫れが明らかに生じる。
・筋肉注射は皮膚に生じる局所反応は小さく、事後的な不快感が少ない。
●用途の違い
・皮下注射は、インフルエンザ、MR(はしか・風疹)、おたふく、水ぼうそうなど、一般的なワクチンに広く使われている。
・筋肉注射は国内では、HPVワクチンやB型肝炎ワクチンなど、筋肉に入れたほうが免疫がつきやすいことが分かっているものに使用。
⇒ただし、両者の使い分けは明確な規定等があるわけではない。久住医師自身、インフルエンザの予防接種も筋肉注射している。世界的にはスタンダードは筋肉注射。
(Shutterstock)
世界の主流は筋肉注射。 メリットに対し、「痛い」のは濡れ衣かも!?
さらに皮下注射と筋肉注射では、皮膚に差し込む角度も違います(冒頭の図を参照してください)。皮下注射に慣れている私たちは、注射は皮膚に斜めに差し込むものだと思っていますが、筋肉注射は垂直。皮膚に突き立てるように打つので、見慣れないと怖いと感じるようです。
また、筋肉注射は痛いのでは? というイメージやウワサもあるようです。
しかし、久住医師の動画でも触れられている通り、実は世界的には皮下注射よりも筋肉注射が主流です。
それにはきちんと科学的根拠があります。海外の複数の研究で、筋肉注射によるワクチン接種は皮下注射に比べて、
① 局所反応(赤み、腫れ、痛み)が少ない
② 抗体のつきやすさは同等か、ワクチンによってはそれ以上
と報告されています。
特に、ワクチンの効果を高めるアジュバント(免疫賦活剤、抗原物質の作用を強める添加物)が含まれる製品(インフルエンザワクチンなど)は刺激が強いため、局所反応が強く出がちです。その局所反応軽減を目的として、米国疾病予防管理センター(CDC)や諸外国のガイドラインでは、筋肉注射による投与を推奨しています。
「筋肉注射は痛い」というウワサがあるとすれば、
・皮下注射と比べてやや太い針を使うため、皮膚に無数にある痛点を刺激しやすい。
・筋肉組織は皮下組織よりもすき間が少なくぴったりくっついているので、注射液が組織や血管を圧迫する痛みをより感じやすい。
ということが背景にあるのかもしれません。ただ、一方で、以下のような点も、痛みの感じ方に影響を与えている可能性があります。
・㏗(酸性度)や浸透圧などの関係上そもそも痛みが強く感じられる薬剤を、痛みの軽減のために皮下組織に比べ神経の分布の少ない筋肉に打つことが多い。
・皮膚に垂直に針を刺す様子が恐怖心を与えやすい。
つまり、筋肉注射そのものだけではなく、注射の内容や心理面の影響も大きそうなのです。
しかも実は、同じワクチンを皮下注射した場合と筋肉注射した場合を比較したら、筋肉注射の方が痛くなかったという研究も複数あるのです。
昔は日本も筋肉注射が一般的。いつから皮下注射が主流になった?
実は日本でも、かつては筋肉注射が一般的に行われていました。それなのにいつから、「局所反応は出やすいのに免疫がつきにくい」皮下注射が主流となったのでしょうか。
きっかけは1973~75年、風邪に対する不必要な太ももへの筋肉注射治療による副反応が問題化したことでした。筋肉がマヒして歩けなくなった子供たちが、全国で3700人近く確認されました。日本小児科学会も調査を行い、注射の濫用が原因であるとした後、改めて「筋肉注射に関する提言」(1976年)とその解説(1978年)を発表しました。
ただし、提言等の中では、抗生剤などが組織を障害した可能性は指摘されているものの、筋肉注射そのものがマヒにつながることは証明されていません。それでも「筋肉注射は避けるべきもの」という結論部分だけが、医師の間で広く共有されるようになりました。
これを機に、風邪で解熱剤や抗生剤を投与する際は、ほとんどが飲み薬に置き換わりました。そして、予防接種の方法について特段の言及はなかったにもかかわらず、注射はいっせいに皮下注射へと置き換えられました。
(Shutterstock)
以来、科学的根拠の示されないまま、厚労省の「予防接種実施規則」でも、公益財団法人予防接種リサーチセンター(厚労省の天下り団体)が作っている「予防接種ガイドライン」でも、ほとんどの定期・任意接種ワクチンがハッキリ「皮下注」と指定されてきました。
“筋肉注射による副反応”は濡れ衣である可能性も高いまま、「予防接種は皮下注射」は常識となり、疑われることもなく続いてきたのです。
(Shutterstock)
それでも先のとおり、筋肉注射はメリットもあり世界のスタンダード。そこで日本小児科学会からも近年、筋肉注射を念頭に予防接種の方法を見直す動きが出てきました。今年も改めて、「小児に対するワクチンの筋肉内接種法について(改訂版)」を発表。一部のワクチンを「筋肉内接種可能」と示しました。
ただし、そのリストにない場合でも、久住医師のように、合理的な判断から筋肉注射を選ぶことは、リスクの高いことでもなければ、禁止されているわけでもありません。興味のある方は、ぜひ医師にご相談ください。
久住英二(くすみ・えいじ)