-【久住医師解説】破傷風は過去の病気ではありません。台風被害の後片づけに注意!-

2019.10.17

台風による浸水被害、片付けは泥の中の作業です。久住医師が破傷風について注意を呼びかけました。

 

 

【まとめ】

 

☆水害被災地では、泥まみれの後片づけの際に、破傷風リスクが。久住医師がNHKニュースWEBでコメントしました。

 

☆破傷風菌は泥の中に潜み、傷から体内に入り込みます。今でも年間40人ほどが発症。神経毒で窒息死することも。

 

☆予防はワクチン。成人の多くは小児期に3種混合ワクチン(DTP)の定期接種を受けていますが、10年経過で免疫が弱っているかも。

 

 

 

久住医師がNHKニュースで解説。被災地の片付け、傷口から破傷風感染のリスクも。

 

 

各地に大きな水害をもたらした台風19号。被災地の多くは今も後片付けに追われています。流れ込んだ泥や、泥まみれのがれきなどの後片付けの際に注意していただきたいことは、誤って指などに切り傷を作ってしまうこと。破傷風に感染するリスクがあります。

 

 

 

 

破傷風を発症すると神経障害を起こし、全身の筋肉が硬直・痙攣し、重症では死に至る恐れもあります。

 

 

これについて、ナビタスクリニック理事長の久住英二医師がNHKニュースWEBの取材に応えました。(こちら

 

 

ポイントは、

 

 

●作業の際には手袋や底の厚い丈夫な靴を身につけるほか、くぎを踏んだり、ガラスなどでケガをしないよう注意が必要。

 

 

●過去に破傷風のワクチンを受けていても、10年以上経過していたら改めて接種した方がよい。「小児期に予防接種を受けて10年以上経過している22歳以上の人や、定期接種を受けていない50代以上の人は特に注意してほしい」

 

 

●「現地で作業する場合にはワクチンの接種歴を確認し、必要であれば受けるようにしてほしい」

 

●万が一、ケガをした場合には傷口をきれいな水で洗い、すみやかに医療機関を受診すること。「ケガをしてしまった場合も早急にワクチンを受ければ発症を防げる可能性もあり、傷を放置しないでほしい」

 

 

理事長・久住英二医師

 

 

NHKによれば、東日本大震災の被災地でも高齢者が破傷風を発症したケースがあるそうです。自宅の片づけやボランティア活動にあたる際には、細心の注意が必要です。

 

 

破傷風ってどんな病気? 日本でも年間患者数が約40人。過去の病気ではありません。

 

 

日本では戦後まもない頃まで、破傷風は命を奪う恐ろしい病気でした。1950年には年間の患者数が1,915人、死亡者数が1,558人であり、致命率は81.4%と報告されています。

 

 

破傷風の原因は、破傷風菌への感染です。

 

 

Live Science

 

 

破傷風菌が傷口などから体内に侵入し、免疫システムで直ちに排除できなかった場合、感染が成立します。破傷風菌は体内で神経毒を作り出すために、筋肉が硬直し、痙攣をひき起こすのです。

 

 

破傷風菌自体は「嫌気細菌」と言って、酸素のないところでしか生きられません。ですから家の中などにはまずいません。一方で、土や泥の中では「芽胞」というカプセルに閉じこもった状態で、熱や乾燥にも耐えて潜み続けています。

 

 

その芽胞が傷口から侵入することで感染するのです。傷口を直ちによく洗い流せば、感染は成立しづらくなります。ただ、とても小さな傷口からでも入り込むため、ささいな傷だと我慢して作業を続けてしまったり、複数あると見逃したりしがちなのです。地中に埋まっていたり古い木材に刺さりっぱなしだった古クギでケガをした場合なども、ハイリスクです。

 

 

 

 

潜伏期間は3日~3週間。その後、口を開けづらい、歯が噛み合わされた状態になり食事が困難になる、首筋が張る、寝汗、歯ぎしりなどの症状が出てきます。さらに進むと、口が笑ったような形にひきつる、こわばる、飲み込みづらい(嚥下困難)といった口の症状が強まります。

 

 

そしてしだいに呼吸困難や、首から背筋にかけての筋肉が弓のように沿ったまま硬直するなど、全身症状が現れます。重症の患者では呼吸筋が麻痺して窒息死することも。

 

 

仙台オープン病院

 

 

特に症状が出始めてから全身の痙攣や硬直まで進むのに48時間以内だと、危険な状況です。一刻も早く受診し、治療を始めなければなりません。

 

 

近年も、患者がいなくなったわけではないのです。1年間に約40人の患者が報告されていて、95%以上が30才以上の成人ですが、致命率は約30%にも上ります。現代でもかかってしまったら3割が命を落とす病気なのです。

 

 

ワクチンが唯一の予防手段。ケガをしてした後でも放置せずに早く受診を!

 

 

戦後しばらくして破傷風患者が劇的に減ったのは、日本では1952年から破傷風ワクチンが導入されたためです。1968年には今も続くジフテリア・百日咳・破傷風混合ワクチン(DTP)の定期接種が始まりました(現在は不活化ポリオを加えた4混ワクチンも)。以後、破傷風の患者・死亡者数は大幅に減少したのです。

 

 

 

 

ところが、患者数は1999年には65人、2000年には92人と増加傾向を示した時期もあり、油断はできません

 

 

なお、予防接種前の新生児破傷風は、1995 年の報告を最後に、それ以降は報告されていません。しかし、世界の新生児 の主要な死亡原因の一つとなっています。

 

 

ケガをして傷口に泥がついてしまったら、先に久住医師が説明していたとおり、どんなに小さくても直ちに傷口を水洗いしましょう。そして、予防接種から時間が経過している成人の場合、泥などが傷に入り込んでしまった場合、傷が深い場合などは、放置せずに早めに受診して医師に相談しましょう。

 

 

名古屋市上下水道局

 

 

事前にできる予防措置としてはワクチン接種しかないのですが、傷口に破傷風菌が入ってしまった後でも、発症前ならワクチン接種や治療薬の予防投与などによって発症を防げることもあります。

 

 

なお、人間や動物の唾液にも破傷風の芽胞が含まれることがあります。ペットにかまれてしまった場合にもリスクがあるということ、また傷口にツバを付けたりするのもNGということは、覚えておいて下さいね。

 

 

(参考)

国立感染症研究所「破傷風とは」

国立感染症研究所感染症情報センター「外傷後の破傷風予防のための破傷風トキソイドワクチンおよび抗破傷風ヒト免疫グロブリン投与と破傷風の治療」

 

(トップ画像:NHK NEWS WEB

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