-都内でトコジラミ(南京虫)! W杯や五輪のリスクは感染症だけではありません。-

2019.10.11

戦後姿を消したはずの南京虫。しかし先日もナビタスクリニックに、猛烈なかゆみを訴えて被害者が受診しました。

 

 

【まとめ】

 

☆ 日本ではとっくの昔に駆除されたはずのトコジラミ(南京虫)の被害報告が、この10年ほどで激増。原因はグローバル化?

 

☆つらいのは、激しいかゆみ。かゆさのあまり眠れず睡眠障害になったり、リンパが炎症を起こしてはれてしまったりすることも。

 

☆刺されたあとだけでは専門家も判別困難。血糞が手掛かりです。夜待ち伏せして捕獲し、速やかに受診や駆除依頼を。

 

 

 

ナビタスクリニックにも被害者が受診。強烈なかゆみで、睡眠障害やリンパ腺の腫れも。

 

 

つい数日前のこと、ナビタスクリニック新宿に激しいかゆみを伴う虫刺されでの受診がありました。

 

 

(当院受診者)

 

 

虫の正体はトコジラミ

 

 

被害にあわれたのは、新宿歌舞伎町の大手ホテルチェーンの宿泊者虫の写真をスマホで撮って持参されたことから、トコジラミによるものとすぐに診断がつきました。

 

 

トコジラミは、体長5~8㎜程の茶色い昆虫。実はシラミの仲間ではなく、カメムシの仲間です。夜行性で、夜になると徘徊し人の肌が露出しているところを刺して血を吸います。

 

 

刺された患部は、一気に複数個所、赤く蚊に刺されたように腫れ、非常に強いかゆみが出ます。

 

 

 

 

 

(当院受診者)

 

 

あまりのかゆさで眠れず、睡眠障害を起こしてしまう人もいるほど。リンパに炎症を起こして腫れてしまう人もいます。

 

 

実は、初めて刺された時はかゆみが出ないのですが、2~3回目以降は体が抗体を作っていて、猛烈なかゆみに襲われます。刺された痕は、長く赤黒く残ります

 

 

本来、被害が多い時期は6~9月ですが、冷暖房設備の発達に伴って、今日では1年中繁殖します。寿命は10カ月程度で、メスの成虫は3カ月にわたって毎日5~6個の卵を産み続けます。死ぬまでに500個以上産卵する計算で、そこからまた卵を産むメス成虫が生まれるわけですから、ぞっとする繁殖力です。

 

 

数年前から国内でも被害が急増。海外から持ち込まれ、宿泊施設だけでなく個人宅でも。

 

 

トコジラミは、昔から「南京虫」とも呼ばれ、半世紀以上前には日本でも蔓延していました。それが、シラミなどの防疫対策として全国的に使われていた粉末殺虫剤(DDT、現在は使用禁止)によって、1964年開催の東京五輪の頃には国内では絶滅したとも言われていました

 

 

ところが近年、国内でもトコジラミ被害が再び発生し始め、増え続けているそうです。

 

 

日本ペストコントロール協会によれば、2010~2014年に全国の問い合わせ件数が4倍に増加厚労省資料。その後、2014~2018年ではさらに駆除依頼件数が4~5倍になったという報道もあります(グラフ)。また東京都福祉保健局でも、2009年に問い合わせが急増し、近年も増えているそうです。

 

 

ニコニュース

 

 

これは、日本を訪れる外国人観光客の増加と、海外でのトコジラミの大発生が重なったためと見られます。

 

 

同協会によれば、発展途上国だけでなく、近年は米国やカナダ、オーストラリア、EU諸国などでトコジラミ被害の増加が顕著とのこと。ニューヨークでは2010年の市保健局への苦情件数は12,768件にも上り、ニューヨークの家庭の10人に1人が被害を受けているとも。

 

グローバル化で世界的に人の動きが流動化し、日本麻しん(はしか)デング熱などの感染症が海外から持ち込まれるリスクの高まりが指摘されていますが、入ってくるのは感染症だけではないのです。訪日旅行客の荷物や衣服に付着したトコジラミやその卵が、そのまま日本へ持ち込まれてしまうのです。実際、外国人観光客が急速に増えた地方の観光地からも防除の依頼が増えているようです。

 

 

報告が多いのは、やはり宿泊施設での被害。ただし、貧困者支援対策用の簡易宿舎やグループホーム、社員寮や学生寮などの共同住宅でも被害は広がりがち。

 

 

さらには一般家庭からの報告も増えつつあります。宅配便等での荷物に紛れ込んでいた、国内の宿泊施設から持ち帰ったらしい、など原因はさまざまです。

 

 

ニコニコニュース

 

 

殺虫剤に抵抗性! 持ち込まれてしまったら、一刻も早く受診と専門的な駆除を。

 

 

トコジラミは自然発生しません。しかし、いったん棲みつくと爆発的な繁殖力で増えるのは先に書いた通り。

 

 

しかもやっかいなのは、多くは一般的な殺虫剤が効かないことです。

 

 

ドラッグストアやホームセンターなどで売られている殺虫剤(ピレスロイド系のエアゾール剤や燻煙剤)に抵抗性を持っていて、死滅させられないのです。

 

 

 

 

ですから、被害にあったら自分でなんとかしようとは考えず、一刻も早くプロの駆除業者に相談することをお勧めします。トコジラミは毎日産卵してどんどん増えますから、躊躇している間に被害が大きくなってしまいます。

 

 

また、受診の際は、実は発疹を見ただけでは専門家でもトコジラミとの判別は困難。確実なのは、トコジラミを捕まえて、実物もしくは写真を持参することです。

 

 

東京都福祉保健局

 

 

また、「血糞」と言って、吸った血の混ざった赤茶~赤黒い糞をするのも特徴。血糞は濃い褐色の汚れのように布団などが汚れ、よく嗅ぐと臭いを伴います。その写真や報告も、診断に役立ちます。

 

 

(血糞 当院受診者)

 

 

トコジラミは、昼間は、壁と家具の間や床板の隙間、ベッドマットと枠組みの間、ベットの毛の間、じゅうたんの裏、天井板の継ぎ目など、あらゆる狭い隙間や物陰に潜んでいます。特に和室は、畳などトコジラミの絶好の隠れ場所が満載。

 

 

 

 

東京都福祉保健局

 

 

ですから捕まえるなら、待ち伏せが有効。ベッドに入り、部屋の電気を消して20~30分してから起き、ベッドや布団の上を這う虫を捕まえます。成虫の体長は5~8mm程度、体の色は茶色で、上から見ると丸く、横から見ると薄い体型をしています。

 

 

なお、刺しあとはダニやノミとの区別がつきにくいのですが、成虫の見た目には差があります。ダニは1㎜程度、ノミは2~3㎜と、トコジラミが一番大きいため、判別が可能です。

 

 

実はナビタスクリニック新宿には、去年もトコジラミ被害にあわれた方が受診しています。渋谷のゲストハウスで刺された外国人観光客2人。濱木院長が対応しました。夜中に刺されてすぐにゲストハウスを出て別のホテルに泊まった、これから対策をどうしたらいいかと相談されたそうです。

 

 

衣類は全部お湯で洗うか乾燥機にかけること。スーツケースは大きなビニル袋に入れて、殺虫剤をかけるか、心配だったらそのまま捨ててもらうように、とアドバイスしたとのことです。

 

 

その旅行者の方たちも、「まさか日本で…」と思っていたようです。しかし今年はラグビーW杯、来年は東京パラ五輪と、ますます多くの人が海外から訪れます。それだけトコジラミが入ってくる可能性も高まります。人の流動性が高まっている今日だからこそ、世界で日本で、改めてリスクが高まっているんですね。

 

 

(トップ画像:Shutterstock/Pavel Krasensky)

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