赤ちゃんが必ずかかるロタ胃腸炎。重症化予防ワクチンの接種率が上がれば、周囲の人や社会にもメリットが期待できそうです。
【まとめ】
☆東京の乳児の8割が接種しているロタウイルスワクチン。しかし3万円前後の費用は現在、自己負担です。
☆厚労省は来年10月から無償化(定期接種化)を決定。令和2年8月生まれ以降のお子さんが対象となります。
☆ワクチンにより胃腸炎の重症化や下痢を予防できます。接種者以外への集団免疫効果も期待できます。
ロタウイルスワクチン無償化で、久住医師がNHKニュースの取材に応えました。
生後半年~2歳を中心に、5歳までに世界中のほぼすべての子供が感染し、胃腸炎を発症する「ロタウイルス」。日本では主に冬~春に毎年流行します。その重症化を予防するワクチンを、来年10月1日より定期接種(無償)化する方針を厚労省が決定しました。
(NHKニュース7 2019年9月26日)
これについてナビタスクリニック理事長の久住英二医師はNHKニュースの取材に応え、
「ワクチンの費用は決して安いものではないため早く何とかしてほしいと思っていました。家庭の経済力によってワクチンを打てる人と打てない人が出てしまうのは望ましくなく、定期接種になることはいいことだと思います」
とコメントしました。
現在、ロタウイルスのワクチンは国内では2種類、「ロタリックス」と「ロタテック」とが使われています(表)どちらも経口投与です。接種回数やカバーできる型数に違いがありますが、実質的な効果の差はさほど大きくないと言われています。ただ、いずれの場合も合計で3万円前後の接種費用がかかります。
ロタウイルスワクチンの特徴と接種スケジュール
(国立感染症研究所)
決して小さい金額ではありませんが、それでも、8年前に国内初めてロタウイルスワクチン承認されて(任意接種)以降、接種を受ける赤ちゃんは増え続けてきました。現在では東京都の乳児の接種率は80%に上るとも言われます。赤ちゃんが苦しみ重症化するリスク、そして親自身が看病等に追われるリスクを考えれば、経済的な負担は甘受する、という選択をするご家庭も多いのです。
(NHKニュース7 2019年9月26日)
しかし一方で、現状では経済事情によってワクチン接種を子供に受けさせられず、赤ちゃんも親御さんも辛い思いをせざるを得ない、という状況もあります。経済格差が健康格差をもたらしているのです。
定期接種化により、これらの問題や不安が1つ解消されると期待できます。
ロタウイルス感染症ってどんなもの? 特に1~2歳児が重症化しやすく、脱水に注意を。
先にも触れたとおりロタウイルスワクチンは、ロタウイルスに感染した際に重症化を防ぐ効果があります。
(NHKニュース7 2019年9月26日)
ロタウイルスに感染して発症すると、多くの赤ちゃんが突然に噴水のように吐きます。3分の1の子は39℃以上の熱が出ます。腸にダメージを受けて水分吸収が困難になるので、1~2日後からは白濁した、米のとぎ汁のような下痢を繰り返します。
感染経路は、ヒトからヒト。便や吐いた物に含まれるウイルスが壊れにくく、汚染された水や食物などを触った手から口へと、間接的に感染がおこります。壊れにくいので、感染予防は困難です。
最初に感染した時が一番症状が強く出ます。ただし、生まれた直後の新生児は母親から受け継いだ免疫が残っているため、症状が現れない「不顕性感染」で済むことも多いとされています。
腸からの水分吸収が困難なので、脱水には十分注意が必要。脳炎・脳症を引き起こし、そのうち4割近くに後遺症が残ってしまうこともあります。
そうして乳幼児期に何度かかかるうちにだんだん症状は穏やかになっていくのが一般的。国立感染症研究所によれば、5歳までにロタウイルス胃腸炎で入院するリスクは、15~43人に1人(年間26,500~78,000人と推計)。重症化しやすいのは1~2歳児で、入院患者の70~80%は2歳以下となっています。
実施は来年10月1日から、対象は令和2年8月生まれ以降の赤ちゃん。さらに集団免疫効果も。
厚労省が公開している専門家会議(厚生科学審議会予防接種基本方針部会)の資料によれば、ワクチンの接種開始時期や対象者、接種方法などは、以下の通り予定されています。
●定期接種開始時期:
2020年(令和2年)10月1日
●定期接種の対象者:
ロタリックスは、生後6週から生後24週まで
ロタテックは、生後6週から生後32週まで
●初回接種時期:
生後2月から生後14週6日まで
●ワクチンの接種方法等:
ロタリックスは、4週間以上の間隔をおいて2回経口投与
ロタテックは、4週間以上の間隔をおいて3回経口投与
(NHKニュース7 2019年9月26日)
上記は、ワクチンの効果や安全性、それに費用対効果などを検証した上で決定されました。
例えば、初回接種が生後14週6日までとなっているのは、月齢3カ月頃以降は腸重積症の発症率が増加しているとの米国の研究があり、これを踏まえた米国小児科学会や米国「予防接種の実施に関する諮問委員会」(ACIP)の方針にならったものです。
一方で、定期接種化の根拠となっているのは、その集団免疫(ある集団で多くの人が免疫を獲得していると、感染患者が出ても流行を阻止できる)の効果が国内外で実証されてきたことも大きいようです。
同資料では、ワクチン接種によってロタウイルス下痢症のリスクが先進国では90%低下し、ロタウイルス胃腸炎による入院患者数の減少も確認されました。しかも、ワクチンを接種した子供たちだけでなく、未接種の年齢層にも減少が見られ、成人の便からウイルスが検出される割合も減ったそうです。
(NHKニュース7 2019年9月26日)
幼少期に感染・発症を繰り返すロタウイルス。定期接種化によって、子供たちが経済事情を問わず等しくワクチン接種を受けられるようになり、親の看病の負担やそのための仕事への影響等も軽減されそうですね。国の負担する接種費用以上に、得られるものは大きいのではないでしょうか。