「起立性調節障害」は「脳貧血」とも呼ばれますが、貧血とは別のもの。診断の上、適切な治療を行いましょう。(新宿院院長・濱木珠恵)
【まとめ】
☆飽食のはずの日本ですが、貧血や隠れ貧血の方はとても身近にいます。最近ではようやくご相談も増えてきました。
☆一方、「立ちくらみ」は鉄欠乏性貧血の症状とは限りません。脳への血流が滞り、脳が酸欠状態になって引き起こされます。
☆生活習慣やその他の症状を伺いながら、慎重に診断します。睡眠不足や睡眠障害との関連も。漢方を処方することもあります。
貧血や隠れ貧血のご相談を受けることがますます増えてきました。
久しぶりの院長ブログ更新となりました。ここ最近は、季節の変わり目で気象変化や寒暖の差が激しかったりするせいか、ナビタスクリニック新宿には風邪で受診される方も増えてきました。
ただ、私のブースを訪れる患者さんは、貧血やその疑いの方の割合が高くなっています。私自身、血液内科が専門で、日ごろから日本人の貧血や隠れ貧血の現状をもっと知っていただきたいと活動を続けているためかな、と思います。
貧血を心配して受診される患者さんの多くは、健康診断でひっかかった、というのが大きなきっかけのようです。一方で、だるさなど自覚症状があって相談に来られる方もいます。
貧血については、これまでに何度か書かせていただいているので、興味のある方は以下の記事もチェックしてみてください。
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★【院長ブログ】寝ても眠い、階段で息切れ、動くのがおっくう…それも貧血かも!?
★【オレンジページ掲載】濱木医師が回答「オトナ女子の保健室」――疲れが取れず、息切れも。爪も割れやすいし何かの病気?(隠れ貧血)
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特に「隠れ貧血」は、通常の健診の血液検査では調べてもらえません。症状など、心当たりのある方はぜひご相談くださいね。
「立ちくらみ」は、鉄欠乏性貧血の症状とは限りません。「起立性調節障害」です。
そんな中、自覚症状としての訴えが多いものに、「立ちくらみ」があります。
立ちくらみとは一般に、座ったり寝たりした状態から急に立ち上がった時に起こる、軽いめまいやふらつきのこと。目の前が真っ暗になって倒れこんでしまうこともあります。「脳貧血」などと呼ばれることも。
そのせいで誤解が広まっているようですが、脳貧血はあくまで通称であって、本来の貧血(鉄欠乏性貧血)とは別のものです。
脳貧血は、急に脳が高い位置に移動することで、脳への血流や血液量が減り、脳が酸欠になるために起こります。
もともと地球には重力がありますから、放っておけば血液も下半身のほうにたまりやすいもの。しかしそれでは、2足歩行生活は営めません。そこでヒトは自律神経を発達させて、立ち上がる際には瞬発的に血圧を上げ、脳貧血が起きない体の仕組みを作りました。
しかし何らかの原因で自律神経の調節がうまくいかないために、脳貧血を繰り返しやすくなってしまうことがあります。それが、「起立性調節障害」(起立性低血圧)です。
「満員電車の中で貧血で倒れた」などという場合も、急に立ち上がったわけではありませんが、人いきれの中で酸欠状態になり、脳貧血を起こした状態です(繰り返しますが、「貧血」ではありません)。
ただ、そのように原因がはっきりしていて、あくまで一過性の場合、また、その日の体調が万全でなかった場合などは、それほど気にする必要はないでしょう。
一方、起立性調節障害の方は、立ちくらみをたびたび繰り返すだけでなく、重症になると、朝ベッドから起き上がることもできない人もいます。
また、10代のころから、朝礼で倒れてしまうといったアクシデントを何度も経験されている方が多いようです。当時は「サボり癖」と決めつけられて悲しい思いをした、という患者さんもいました。
確かに、思春期の年代には、起立性調節障害を起こしやすいと言われます。この時期は、身体の成長に対して自律神経の発達が追いつかず、働きが不安定になりがちなのです。しかし大人になっても、その傾向が続く人が少なくないと、診療をする中で実感しています。
睡眠不足や睡眠障害との関連も。個別に症状をお聞きし、漢方薬を処方することもあります。
起立性調節障害では、立ちくらみの他に、2人に1人ほどの患者さんが「倦怠感」「だるい」「疲れやすい」といった症状を訴えられます。また、頭痛を訴えられる患者さんもいます。さらに、「朝の寝起きが悪く、午前中調子が悪い」といった方もいます。
問診では、そうした症状と併せて、それらの症状を引き起こす要素が生活習慣の中にないか、日常生活の様子についてもお尋ねするようにしています。
ここで多く聞かれるのが、「睡眠不足」や「睡眠障害」です。
実際、十分かつ良質の睡眠が取れない状態が続くと、自律神経が疲弊し、乱れることに。また逆に、自律神経のバランスの崩れが、睡眠障害を引き起こしていることもあります。ですから、起立性調節障害と見られる患者さんで睡眠に問題があれば、生活指導や睡眠障害の治療も行うことになります。
患者さんから詳しい状況を伺い、個別に判断して漢方薬を処方することもあります。
私が比較的よくお出ししているのが、水分代謝を改善して立ちくらみやめまい、頭痛を改善する効果の期待できる「苓桂朮甘湯」(りょうけいじゅつかんとう)です。同じく水分代謝を整える「五苓散」(ごれいさん)をお出しすることもあります。(漢方は体質によっても処方が違ってきますので、ご興味のある方は薬局でお求めになる前に一度受診してご相談いただくことをお勧めいたします)
なお、血液検査で血中の鉄や貯蔵鉄の値を調べても鉄欠乏は見られず、また実際に寝たり起きたりの姿勢をとっていただいて症状の出方や血圧変化を調べるなどしても、起立性調節障害とは考えられない場合もあります。全身状態や詳しい問診の結果からも、生活習慣等のせいで立ちくらみが起きているとは言えない場合、念のために甲状腺ホルモンやコルチゾール(副腎皮質ホルモンの一種)を調べることもあります。まれに、甲状腺や副腎皮質の機能低下が潜んでいるケースがあるからです。
立ちくらみ(起立性調節障害)は貧血ではありませんが、改善のためにできることも多くあります。一方で、もっと重大な病気が稀に発見されることもあります。気になる症状がおありの方は、ぜひ受診してご相談ください。
ナビタスクリニック新宿院長
濱木珠恵