-【久住医師解説】ワクチンを信じない日本人。医師は科学に基づき、信念に従い行動すべき。-

2019.09.16

HPVワクチンはじめ、世界標準とかけ離れた日本の予防接種政策。医師として何をどう見極め、アクションを起こすべきでしょうか。

 

 

【まとめ】

 

☆副反応に見えても、因果関係の立証は現実的には不可能。血管迷走神経反射のことも。だから統計学で科学的に判断。

 

日本では国民も政府も、HPVワクチンについては思考停止している。一方で接種を求めて中国の人が殺到する現実。

 

☆個人的な考えで接種を拒否する医師は、医師としての要件を満たしていない。患者さんに科学的データを示し、説明するのが医師の役割。

 

 

 

前回、ナビタスクリニック理事長が生出演したインターネット番組「ニューズ・オプエド」から、HPVワクチンとその接種率低迷についてまとめました。今回はその続き。HPVワクチンの「副反応」とされる有害事象が、本当に副反応なのか、というところからです。

 

 

HPVの副反応? 統計学を使い、科学的事実を見つめて。

 

 

HPVワクチンの接種箇所が痛んだり腫れたりするのは、確かに、まず副反応でしょう。でも軽微ですし、織り込み済みです。

 

 

一方、接種後に失神して転倒したら、それはワクチンではなく注射の痛みや恐怖によるものと考えられます(「血管迷走神経反射」と言います。詳しくはこちら)。接種対象が思春期というナイーブな年代の中高生であることも、心理的影響を大きくしたのかもしれません。

 

 

 

 

まして、翌日や1カ月後に転倒したり異変が起きたとしたら、因果関係の判定は不可能です。それでも人はそれを「副反応」だと思いたがる。本当はその自覚を持って冷静に、意識的に、科学的事実を見つめなければなりません。

 

 

因果関係を時系列で判断しようとするところに人間の限界がある一方、それが必ずしも正しくないことも、人類は学んできました。そこで私たちは、統計学という学問を使って、科学的に判断をしながら現代を生きています。

 

 

 

 

2015年に名古屋市で、「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」の協力の下に質問項目を検討し、ワクチン接種者と非接種者を比較する調査が行われました。それでも両者の接種後の有害事象に差は見られなかったのです。(名古屋スタディ

 

 

 

 

ワクチンを信じていない日本人。ガーダシル9に殺到する中国の人々。それでも・・・

 

 

さらに、面白いデータがあります。イギリスの調査によれば、「日本はワクチンに対する信頼度が世界最低レベルにある」というんです。日本人は基本的にワクチンを信じてないんです。「俺ワクチン打たないから」なんて言っている医師もいるくらいですから。

 

 

 

 

なかなか正しい情報が伝わっていかない。ワクチン、怖い、思考停止、と。これは医師も含めて変えていかないといけません。ワクチンを打ちたくて受診したのに、「これ危険だから打ちません」と言う医師は、私の考えでは、医師の要件を満たしていません。医師個人の考えではなく、科学的データを示し説明するのが医師の仕事です。そういう意味では、医師も厚労省も思考停止に陥っています。

 

 

一方で、ナビタスクリニック新宿院には、日本在住の中国人の留学生や社会人の方々が、毎月300人ほどガーダシル9を打ちに来られます。中国ではガーダシル9が認可されているんです。「郷里の友達がみんな打っているんだから、日本に住んでいる私たちも打ちたい」というわけです。ガーダシル9は日本では未承認なので、扱っている医療機関は限られているため、ナビタスクリニックに殺到している状況です。

 

 

 

mms.businesswire.com

 

 

私たちとしては元々は日本の女性のためにワクチンを輸入しているつもりなのに、なんだかパラドキシカルな状況になっていますね。

 

 

ただ、今年の夏休みくらいから、日本の女子中高生でも親御さんに連れられて打ちに来られる方が増えました。ちょっと潮目が変わってきたな、という印象はあります。

 

 

久住医師がHPVワクチンに注目したきっかけとは?

 

 

私はもともと白血病が専門で、患者さんの骨髄の細胞を入れ替える臍帯血移植などを行っていました。その治療の中で非常に大切なのが、感染症のコントロールです。白血球がゼロになった時に、問題なのは実は白血病細胞ではなく、感染症なのです。

 

 

ですから感染症のコントロール法である予防接種や免疫について、元々高い関心を持ってきました。

 

 

また、私自身がナビタスクリニックを開業した頃、町医者として市民の方々の健康のために何ができるか考えた際に、「ワクチンギャップ」の解消に尽力したいと考えました。

 

 

 

 

当時、肺炎球菌ワクチンなど世界では20年前から使われているようなワクチンが、日本ではまだ公的には導入されていませんでした。そこで世界標準にもかかわらず日本で導入が遅れているワクチンを個人輸入して接種するようになりました。その一環で、HPVワクチンにも問題意識を持ち始めたんです。

 

 

しかもHPVワクチンは今、世界で日本だけ、打ち控えが大きな問題になっています。端的に言えば、「科学が勝つのか、風評が勝つのか」という状況なのです。それに対して正しいことを知っていただくために、診療現場はもちろんメディアやSNSを通じても、様々な形で情報発信を続けています。

 

 

なぜ日本のワクチン政策だけが独自路線を歩み続けているのか?

 

 

世界的に承認されて標準化されているワクチンが日本で使えない背景には、日本国内のワクチン産業を保護するために、海外からのワクチンをなるべく入れたくないという思惑が働いていると、私は考えています。日本の医薬品メーカーや政府に、積極的に海外製品を排除しようというような意識も自覚もあるとは思えませんが、結果的にそうなっている、ということです。

 

 

HPVやロタ、肺炎球菌、ヒブなど、最近のワクチンはみな海外メーカーが作ったものです。日本のメーカーは国内向けにしか製造していませんからマーケットも小さいし、少子化・人口減で市場は縮小していく一方です。ところが海外では非常に大きな製薬会社がワクチンを製造していて、とても太刀打ちできません。日本メーカーは開発力はあるとは言われますが、実際にはモノも出てきていません。

 

 

 

 

2009年に新型インフルが流行った際には海外からワクチンの緊急輸入も行われましたが、ワクチンが実際に届いたころには流行も下火になり、大量にワクチンを返品しました。その際に返金も要求したのです。そんなことをやっている国はほかにはありません。アメリカもワクチンは世界各国のメーカーから購入しています。

 

 

2016年の熊本地震でも、熊本に本書を置く化血研(化学及血清療法研究所)が被害を受け、インフルエンザなど主要なワクチンが全国的に欠品しました。それでも今もなお、世界から購入できる体制にはなっていません。日本は地震大国・災害大国なのに、リスクがヘッジできていないという、ちょっと考えられない状況があるのです。

 

 

一つだけ言えるのは、メーカーや政府の言うことだけ聞いていては、救えるはずの人々も救えなくなる可能性がある、ということです。その状況の中で、自分たちが医師としてどう行動すべきか、場面場面で判断しながら今日まで活動してきました。これからも患者さんが何を必要としているのか見極めながら、医師としての信念に基づき行動していきたいと思っています。

 

【完】

 

久住英二(くすみ・えいじ)

ナビタスクリニック立川・川崎・新宿理事長。内科医、血液内科医、旅行医学、予防接種。新潟大学医学部卒業。虎の門病院血液科、東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム部門研究員を経て2008年、JR東日本立川駅にナビタスクリニック立川を開業。好評を博し、川崎駅、新宿駅にも展開。医療の問題点を最前線で感じ、情報発信している。医療ガバナンス学会理事、医療法人社団鉄医会理事長内科医、血液専門医、Certificate in Travel Health、International Society of Travel Medicine。

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