-【久住医師解説】HPVワクチン、先進国では男性も。なのに日本だけ接種率1%の現実。-

2019.09.14

予防できるのは子宮頸がんだけではありません。しかし日本だけ、“副反応”の誤解から危機的な接種率となっています。

 

 

【まとめ】

 

☆引き続き、久住医師が生出演したインターネットニュース番組から、接種率の低迷するHPVワクチンの解説を2回に分けてまとめます。

 

☆HPVワクチンとは? 子宮頸がんワクチンとして知られますが、喉や肛門のがん、さらに男性疾患なども予防できます。

 

☆先進国で日本だけ接種率が1%という危機的状況。なぜこんなことになってしまったの?  ”副反応”は本当に副反応なのか?

 

 

 

前回は、ナビタスクリニック理事長の久住英二医師が生出演したインターネットニュース番組「ニューズ・オプエド」から、デング熱についての解説をまとめました。今回と次回は、同番組からHPVワクチンとその接種率低迷の問題をまとめます。

 

 

 

 

HPVワクチンって何?

 

 

HPVワクチンは、ヒトパピローマウイルス(HPV)という、子宮頸がんの原因となるウイルスへの感染を、予防接種によって防ぐものです。

 

 

問題視されたきっかけとして子宮頸がんがあったので、HPVワクチンは「子宮頸がんワクチン」と言われることも多いですが、HPV自体は子宮頸がん以外にも様々な疾患の原因となります。

 

 

(Shutterstock)

 

 

HPVと一口に言っても、実は120種類以上あり、大きく粘膜・性器型と皮膚型に分けられます。手足にできるイボは、皮膚型のHPVによるものです。同じように、性器などの粘膜にイボを作るのが粘膜・性器型のHPVです。その中のさらに一部が、子宮頸がんなどのがんを引き起こします。

 

 

 

 

感染すると、子宮頸部と呼ばれる膣に少し顔を出したような部分の細胞に、異常を起こすことがあります。もちろん、この段階で自然の免疫力によって排除されることもあります。個人差もありますが、1~5年続くと異常がはっきりしてきて、それでも異常が積み重なり続けると数十年で子宮頸がんに至ります。

 

 

 

 

こうした異常を引き起こすHPVへの感染を未然に防ごう、というのがHPVワクチンです。

 

子宮頸がんだけではありません。喉や肛門のがん、男性の疾患にも有効!

 

 

HPVは、子宮頸がんだけでなく、グラフの通り咽頭がんや舌がん、肛門がんなど、様々ながんの原因でもあります。咽頭というのは喉(のど)のことです。HPVワクチンが喉や舌がんを防ぐことは、あまり知られていないですよね。男性のがんも予防するということです。

 

 

 

 

実際、アメリカのデータでは、子宮頸がんが徐々に減っている一方、男性の口腔咽頭がんは増えていて、単位人口当たりでは子宮頸がんを追い抜いてしまっています。口腔咽頭がんには飲酒や喫煙の影響が大きいとされていますので、50歳以降の男性で増えてきます。

 

 

 

 

ですから世界的には既に、HPVワクチンは、子宮頸がんだけ、あるいは女性だけが打てばよいものではない、男女ともに打つ必要がある、というのがコンセンサスになっています。

 

 

実際、海外では男性もHPワクチン接種する人が増えていますし、英国では今月から、HPVワクチンを男児にも公費接種することが決まりました。

 

 

日本で承認されているHPVワクチン「ガーダシル4」「サーバリックス」は、子宮頸がんの原因の7割を占める16型と18型のHPVを防ぐものです。ガーダシル4はさらに、線形コンジローマという男性器の感染症も予防します。ただ、世界標準は、子宮頸がん予防効果が90%ある「ガーダシル9」となっています。

 

 

 

 

先進国で日本だけ接種率1%未満の異常事態。なぜこんなことに?

 

 

ところが日本は近年、HPVワクチンの接種率が1%未満という非常事態が続いています。先進国では日本だけです。

 

 

HPVワクチンは、日本では2009年10月にサーバリックスが国内初承認されました。定期接種(無料)の対象は中1~高1の女子です。対象年齢が比較的低いのは、セクシャルデビューをする前に接種するのが、予防できる確率が最も高くなるからです。公費で接種を実施するのですから、費用対効果の高い年代が対象となっています。

 

 

当初は70%程度の接種率で推移していました。しかし、2013年に厚労省が積極勧奨を取り下げたとたんに接種率が急降下してしまったのです。

 

 

 

 

日本では一時期、HPVワクチンによる“副反応”がたくさん起きていると、メディアにも取り上げられ、社会的に問題になったことがありました。政府が積極勧奨を取り下げたのもその影響です。

 

 

しかし、国がいくら副反応と“認定”しても、それはあくまで“認定”にすぎません。「たぶんそうでしょう」と言っているだけであって、「絶対そうです」と言っているわけではない。断定的なことなど言いようがないのです。

 

 

それでも人々は国の“認定”を科学的事実であるかのように受け止め、鵜呑みにしがちです。メディアの責任もあります。結果、現在の危機的な接種率がもたらされました。近い将来、先進各国で軒並み子宮頸がんの罹患率が低下する中で、日本だけが上昇を続けることになるでしょう

 

 

 

 

その“副反応”、本当に副反応? 人間の判断には限界があります。

 

 

そもそも、ある症状がワクチンの副反応かどうか、科学的に因果関係を証明することは不可能です。接種の1カ月前から、毎日採血でもして変化を観察していれば可能かもしれませんが、現実的ではありませんね。

 

 

加えて、用語の使い方にも問題があるんです。世界の標準的な用語では、ワクチン接種後に具合が悪くなった場合は、とりあえず「有害事象」(よくないこと)がおきました、と言います。ワクチンを打った部位が腫れても有害事象ですし、それこそ打った直後に階段を踏み外して転倒しても有害事象です。その中で、本当にワクチンが原因のものだけが、本来の「副反応」です。

 

 

 

 

ところが、人は多くを時系列でとらえ、因果関係をそこに当てはめようとします。たまたますでに別の感染症にかかっていて接種直後に症状が出ても、「ああ、やっぱりワクチンのせいで」と考えてしまう。いわばそれが人間の限界なんです。

 

 

例えば、ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』という著作では、9・11の後に人々が飛行機を避けて車移動するようになったエピソードが示されています。その1年間で増えた交通事故死者数は、クラッシュした飛行機に乗っていて亡くなった方よりも多かったというのです。

 

 

要するに、個人の「怖い」といった感覚や判断からは、必ずしも後から見て正しい判断はできない。それが人間の特性です。それを踏まえた上で、科学的事実を捉える努力が必要なのです。

 

(つづく)

 

久住英二(くすみ・えいじ)

ナビタスクリニック立川・川崎・新宿理事長。内科医、血液内科医、旅行医学、予防接種。新潟大学医学部卒業。虎の門病院血液科、東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム部門研究員を経て2008年、JR東日本立川駅にナビタスクリニック立川を開業。好評を博し、川崎駅、新宿駅にも展開。医療の問題点を最前線で感じ、情報発信している。医療ガバナンス学会理事、医療法人社団鉄医会理事長内科医、血液専門医、Certificate in Travel Health、International Society of Travel Medicine。

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