肉の生焼けや生食には、E型肝炎リスクも。患者は年々増加の傾向で、今年も昨年を上回る勢いです。
【まとめ】
☆O-157が問題になるこの時期、肉の生食や加熱不充分には、E型肝炎の感染リスクも。
☆実は年々増えているE型肝炎。背景にはある食ブームが関係していた?
☆ワクチンも特効薬もないE型肝炎。とくに妊婦さんは劇症化し、致死率は20%にも。
牛肉の生食や生レバーによるO-157食中毒、集団発生は減ったけれど・・・
暑い時期は食中毒が気になりますね。実際、今年も腸管出血性大腸菌O-157 の患者数は平年並みに報告されています。(1月からの累積患者数は1,744件。7月29日~8月4日に全国で107件)
O-157など腸管出血性大腸菌 は文字通り、基本的に動物の腸管内に棲みつく細菌です。「だったら、ホルモン焼きなど腸管以外の部位を食べる分には肉の生食も問題ないはず」とも思えます(もちろん肉によって、サルモネラや腸炎ビブリオなど他の食中毒菌の危険はあります)。しかし実際には、食肉加工の過程で、どうしても様々な部位の肉の断面にもO-157などの細菌が付着してしまうのです。
O-157に感染した場合音の症状は軽度(無症状)から重症まで様々ですが、多くの場合、3〜5 日の潜伏期間の後に、激しい腹痛と水様便が続き、さらに血便(出血性大腸炎)となります。激しい血便に脳炎などの合併症を引き起こし、死に至ることも。
実際、1990年代から2010年頃までに、O-157食中毒の集団発生が繰り返し発生し、死者も出て、社会問題となりました。「O-157は怖い」というイメージが一気に世間に広まったので、ご記憶の方も多いかもしれません。
(朝日新聞)
その頃から、肉の生食を避けることや、焼く際と取り分ける際のトングを分けましょう、といった対策の周知も行われましたが、徹底には至りませんでした。
そこで厚生労働省は2011年10月に生食用食肉の規格基準を改正、さらに2012年7月には牛の生レバー(レバ刺し)提供の禁止措置を取りました。これにより飲食店チェーンなどでの集団(広域)食中毒は減少しました。
一方、家庭や個人経営の飲食店などでは発生が続き、今も1年間に千数百~2千件程度の患者が出ています。
その裏でじわじわと増えているE型肝炎。背景にジビエ人気が?
O-157に比べて、生肉食のリスクとしてあまり認識されていないのが、「E型肝炎」です。
E型肝炎は、E型肝炎ウイルスによって引き起こされます。一般に、生や加熱不十分な動物の肉や内臓、もしくは汚染された飲料水等が感染源となります。
E型肝炎に感染した野生動物の肝臓でウイルスが増え、腸管を経て糞に混じって地面に出されます。それが雨水などで流され、川や井戸に入り込んで水が汚染されるのです。
そのような汚染された環境で育った野生動物はもちろん、汚染された井戸水などを使った畜舎で育った豚の肝臓や腸管は感染源に。特ににレバーやホルモンを、加熱が不十分なまま食べるのはハイリスクです。
実際、国内では2012年に、E型肝炎患者が急増。原因は生の豚レバーと言われます。当時、牛のレバ刺しを飲食店で食べられなくなったのを残念に思った人が、豚レバ刺しを食べて感染した、というケースが多かったようです。2015年6月、厚労省は豚の生レバーの提供を禁止しています。
それでもなお、E型肝炎の国内患者数は増加傾向にあります。
例えば、東京都では、2011年から2012年にかけて患者数が倍増しただけでなく、その後も増加を続けて2018年には年間の患者数が100人を突破。2011年当時の10倍の人数となっています。さらに今年は2018年を上回る勢いで患者数が伸びています。
東京都のE型肝炎報告数の推移
その背景の一つと言われるのが、「ジビエ」ブーム。
ジビエとは、狩猟で得た野生のシカやイノシシ、ウサギなどの肉(フランス語)。その獲物を食する貴族の文化がヨーロッパで発達しました。
日本でも昔から、イノシシの「ぼたん鍋」やシカの「もみじ鍋」などが知られ、野生肉を食べることがなかったわけではないのですが、地方の一部に限られていました。
それがヨーロッパの食文化という形で都市部に改めて入ってきて、食にこだわる人々の間で人気となったのです。
ただ、ジビエの食材となるシカやイノシシなども、先の通り、育った環境によってはE型肝炎のリスクが高いことが知られています。
火の通りが充分でない調理法(85~90℃で90秒間以上は必要)で食べないこと。また、自分たちで調理するような際は、生肉を切った手や調理器具で生野菜サラダを作ったりすることのないよう、細心の注意を払いましょう。
ワクチンも特効薬なし、完治まで1カ月。特に妊婦さんは絶対生肉NGです!
症状としては、黄だんが出て、尿が茶色がかる、といった異変が特徴的。その他、発熱、吐き気、腹痛、食欲不振などの消化器症状や、全身倦怠感が見られます。
感染後、症状が現れるまでの潜伏期間は15~50日(平均6週間)と長く、症状が出てきた頃には、すぐには原因が思い当たらないことも多いようです。
こうした症状はA型肝炎に似ています。しかしA型肝炎と違って予防ワクチンはありません。受診して血液や便検査をすれば、E型肝炎かどうかはっきりしますが、時間もかかり、判明しても特効薬もありません。
そのため対症療法を続けるしかなく、体がウイルスに打ち克つのを願うのみ。一般的に完治までは1カ月程度かかります。
怖いのは妊婦さんです。
妊娠後期で発症すると、劇症肝炎の割合が高くなり、致死率が20%にも達することがあるそうです。妊婦さんは、体の中にいる胎児を免疫システムが「異物」と判断して攻撃しないよう、免疫力が下がっているためです。
というわけで、妊婦さんはいつも以上に肉の焼け具合には慎重を期して。もちろん一般の方も、肉は生で食べないように、また牛肉(挽肉や成型肉は除く)以外はレア焼きで食べるのはやめておきましょう。
(参考文献)
〇国立感染症研究所「腸管出血性大腸菌感染症とは」
〇国立感染症研究所「牛生肉・牛生レバー規制強化後の牛生肉および牛生レバーを原因とする腸管出血性大腸菌O157発生状況」
〇国立感染症研究所「E型肝炎とは」