ナビタスクリニックの医師陣をご紹介する「ドクター・ナビタス」。今回は皮膚科の福原医師に、乳幼児の肌トラブルと塗り薬について伺いました。
【まとめ】
☆小児科もあるため、保育園帰りの小さなお子さんから、1年を通してアトピー性皮膚炎やオムツ皮膚炎の相談があります。
☆出生直後から保湿ケアを徹底すると、アトピー性皮膚炎の発症を予防できる可能性があります。
☆保湿剤の選択にはこだわります。オムツ皮膚炎は原因によって治療が違うので、まず受診を。
小児科もあり、保育園帰りの乳幼児さんの皮膚トラブルはとても多いです。
――福原先生は小さいお子さんとそのお母様方から、皮膚トラブルについての相談を受けることが多いそうですね。
はい。私自身、皮膚科医となって間もなく子供を持ち、母親となりましたので、乳幼児の皮膚疾患については身近な問題として向き合ってきました。ただ、以前勤務していた市中病院などでは、皮膚疾患はやはりご高齢の方が多く受診されていて、相談内容も老人性の湿疹や褥瘡などが中心でした。
ナビタスクリニックに来てからは状況が大きく違って、小さいお子さんの皮膚トラブルで受診される方もとても多いですね。小児科があることや、保育園帰りなどに立ち寄りやすい立地・診療時間であることが理由だと思います。
――どんな皮膚トラブルが多いのでしょうか?
年間を通してアトピー性皮膚炎で通われているお子さんは多いです。ただ、アトピー性皮膚炎は、生後間もなくからしっかり肌のお手入れをしていけば、発症リスクを下げられることが分かってきたんです。ですから、乾燥肌のお子さんについても予防のために指導をしていますね。また、乳児さんだとオムツかぶれ(オムツ皮膚炎)もよく相談を受けます。
アトピー性皮膚炎は予防できる?!出生直後からの保湿ケアが大事です。
――え、アトピー性皮膚炎が予防できるのですか? 体質なのでどうしようもないものだと思っていました。
アトピー性皮膚炎の患者さんでは、皮膚のバリア機能と保湿因子が低下しています。そこで以前から、保湿が重要とされていました。保湿剤をきっちり塗っていくことで、バリア機能の回復と維持につながり、皮膚炎を繰り返すのを予防したり、痒みを抑えたりする効果が期待できる、というものです。
そして昨年さらに、「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」に、発症予防について追記が行われました。出生直後から保湿剤によるスキンケアを行っていくことが、アトピー性皮膚炎の発症リスクを下げる、と示されたのです。炎症が起きる前からバリア機能を保護する、というところがポイントです。
また、乳幼児期のアトピー性皮膚炎がある場合、成長に伴って食物アレルギーや喘息、鼻炎などの他のアレルギー疾患を発症する確率が高いと言われてます(これをアレルギーマーチといいます)。でも、乳児期に十分なスキンケアを行うことで、先々のアレルギーも予防できる可能性があるんです。
アレルギーマーチ
――それはますます保湿に気合が入りますね。保湿剤と言っても色々ありそうですが、何でもいいのでしょうか。
未発症であれば、しっかり保湿できれば良いので、特殊なお薬である必要はありません。ただ、できるだけシンプルで低刺激のものがお勧めです。ワセリン(通常、新生児、乳児期に最初に処方するのは「プロペト」。白色ワセリンの純度をさらに高めたもの)で過不足なく、十分です。
ただ、お子さんによって気になる点がある場合は、保湿剤もかなりこだわりますね。受診のたびに薬を変えて様子を見ることも珍しくありません。長く塗り続けてもらうことになるので、その子に最も合う薬をできるだけ早い段階で見つけてあげたいですから。
お子さんの肌質や状態によって、ミックスしたものを処方したりすることも多いですね。
例えば、ヘパリン類似物質を主成分とする「ヒルドイド」などは、よく処方しますが、プロペトとの混合で出すことも多いです。プロペトもヒルドイドも低刺激で、お肌がちょっと荒れていてもしみにくく、使いやすいですよ。あとは、炎症を鎮め皮膚を保護する作用のある「亜鉛華軟膏」などをミックスすることもあります。
治療継続のため、治療への正しいご理解と信頼関係を大切にしています。
――塗り方や、日常生活で気を付けることはありますか?
保湿剤は基本、全身に塗っていただきます。特に荒れやすい、ひじやひざの内側、首などは念入りに塗ってください。1回につける保湿剤の量、回数、タイミングなどは、診察の際にもできるだけ詳しくご説明しています。
体の広範囲に習慣的に塗っていただくとなると、飲み薬と違って、お母さんにとっても手間がかかりますし、お子さん自身もじっとしていなければいけなかったりして、少なからず負担になります。
ですから、治療を正しく継続していただくためにも、治療に対してご理解いただくことと、信頼関係をとても大切にしています。
また、日常生活では、汗をかいた場合に長時間放置せず、シャワーや濡れタオルなどで清潔にしていただくことが大事です。
実は汗そのものには天然の抗菌・保湿成分が含まれてるとも言われています。でも、放置しておくとアンモニアなどの刺激成分の方に、バリアの低下した肌が負けてしまいがち。赤くかゆくなる「汗かぶれ」や、足や手の指も、水虫かと思ったら汗による水疱や皮むけだった、ということもあるんです。
赤ちゃんの口の周りのよだれや食べかすも、きれいにしてこまめに保湿剤を塗ってあげてくださいね。
オムツ皮膚炎は原因によって治療が異なるので、早めに受診してください。
――オムツかぶれについても、何かアドバイスをお願いします。
オムツ皮膚炎は、おしっこの刺激や汗ムレなど接触性皮膚炎として起きているものと、カンジダ性オムツ皮膚炎という真菌(カビの仲間)によるものとがあります。どちらであるかによって、つける薬が大きく違ってしまうので、ご家庭で判断せずに早めに受診することをお勧めします。
簡単に言うと、前者はステロイド系の塗り薬が有効ですが、後者はステロイドを使うと悪化させてしまいます。
前者の場合、症状が軽ければ保湿剤を頻繁に塗ってあげることで改善します。オムツ替えのたびに塗ってあげたらすぐ良くなる赤ちゃんもいます。保湿剤は、例えば「1日2回」と書いてあっても、5回6回とこまめに、たっぷり塗った方が刺激から守るためにはいいんです。逆に、ステロイドは薄く、回数も指示通りに塗ってくださいね。
福原麻里(ふくはら・まり)
2002年、杏林大学医学部卒業、同年4月、同大学皮膚科入局。その後、日野市立病院勤務、2度の産休、海外生活等を経て2015年より杏林大学病院。公立阿伎留病院、久我山病院にて診療にあたり、2016年4月よりナビタスクリニックにて診療開始、現在に至る。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。