関東も梅雨入りし、すっきりしないお天気が続いています。この時期急増する食中毒について久住医師がTBS「ビビット!」に生出演して解説しました。
【まとめ】
☆いよいよ梅雨に突入!これから蒸し暑い気候が続き、細菌性食中毒のハイシーズンに。
☆予防の基本は「つけない」「増やさない」「やっつける」。レアステーキよりハンバーグがキケン、って本当?
☆受診時に必要なものは、食べたものが分かる数日間の「レシート」。食べた食品が分かるだけじゃないんです。
昨日今日は梅雨寒のお天気ですが、来週にはまた温度も上がり、蒸し暑い気候となりそうです。すでに大分県や岡山県、千葉県では高温多湿続きで「食中毒注意報」が発令されたそうです。なぜこの時期に食中毒が増えるのでしょうか?
「食中毒の原因は、主に細菌、ウイルス、寄生虫など。特に細菌は梅雨の時期、一気に増えます」と話すのは、ナビタスクリニック理事長の久住医師。関東が梅雨入りした先週金曜日(6月7日)、TBS「ビビット!」にスタジオ生出演し、食中毒対策について解説しました。
(TBS「ビビット!」2019年6月7日)
梅雨は細菌性の食中毒が多発! 「おにぎり」を素手で握るのはNGです。
梅雨時の高温多湿は、細菌の増殖にうってつけの環境です。食中毒を引き起こす細菌の多くは、室温(約20℃)で活発に増え始め、人間や動物の体温ぐらいの温度(35~40℃)で増殖のスピードが最も速くなります。
広島県衛生研究所では、多くの魚介類に付着する細菌「腸炎ビブリオ」について、温度による増殖スピードの違いを確かめる実験を行いました。もともと20個だった腸炎ビブリオ最近は、6時間後、25℃では1万個に、35℃では100万個にまで増えました。
(TBS「ビビット!」2019年6月7日)
久住医師は、夏以降の行楽シーズンも警戒が必要と話します。
「これからの時期は、遠足や運動会などのイベントで手作りのお弁当を食べる機会が増えます。作ってから食べるまで、高温多湿の状況に長時間置いておかれるため、細菌が付いていると急激に増えてしまいます」
「手にはブドウ球菌などの細菌が付いていることが多いのです。おにぎりを作る場合はラップを使い、手でじかに握らないようにしましょう。ブドウ球菌は毒素を出し、それが食中毒を引き起こすので、後から加熱しても防げません」
(TBS「ビビット!」2019年6月7日)
予防の基本「つけない」「増やさない」「やっつける」を徹底しましょう!
細菌による食中毒予防の基本は、細菌を「つけない」「増やさない」「やっつける」。食品を購入してから、調理して食べるまで、具体的に以下のようなことを心がけましょう。
☆つけない=洗う・分ける
●調理の前、食事の前に、それぞれ石けんで丁寧に手を洗う。
●生肉や生魚の汁が、手などを介して、果物やサラダなど生で食べるものや調理済みの食品につかないようにする。
●包丁やまな板は肉用、魚用、野菜用と別々に使い分ける(裏表で分けてもOK)。
☆増やさなさい=低温保存
●買い物の際は消費期限を確認し、生鮮品や冷凍品を常温で長時間持ち歩かない。
●冷蔵庫は10℃以下、冷凍庫は-15℃以下に保ち、詰めすぎない。(冷気が十分行き渡らなくなるため)
●作った料理は、長時間、室温に放置しない。
●残った食品は、清潔な容器に入れて、冷蔵・冷凍保存する。
☆やっつける=加熱処理(細菌はアルコール殺菌も有効)
●使用後のふきんやタオル、調理器具は、熱湯をかけて殺菌する。(塩素系漂白剤でもよい)
●肉や魚は十分に加熱。中心部を75℃で1分間以上の加熱が目安。
●冷蔵保存してある食品を温め直すときもアツアツになるまで十分に加熱する。
レアステーキよりハンバーグが危険? 酢では防げない食中毒とは?
調理に関して、特に注意が必要なのはハンバーグです。牛の筋肉の中にはO-157 に代表される病原性大腸菌などの食中毒細菌はいません(豚や鶏はいます!)。だから、一枚肉のステーキなら表面をよく焼いてあれば、中がレアでも問題なく食べられます。
一方、「ハンバーグの場合は、挽肉を使っています。肉を切った断面が汚染されていることが多いので、挽肉は細菌が中に混じり込んでしまっていますから、中もしっかり、茶色くなるまで加熱することが大事です。ビーフ100%でも中がレア状態で提供されるハンバーグは危険です。同様に、サイコロステーキなどの“成型肉”も生焼けだと食中毒の恐れがあります」(久住医師)
(TBS「ビビット!」2019年6月7日)
また、調理時の誤解で多いのが、「酢」の食中毒予防効果。酢は、たしかに殺菌効果はあります。しかし問題は寄生虫。酢では寄生虫を殺せないのです。
(TBS「ビビット!」2019年6月7日)
「寄生虫による食中毒なんて、そんなに身近にないでしょ」と思っている方は、残念ながら大間違いです。食中毒を起こす身近な寄生虫に、アニサキスがいます。
アニサキス(幼虫)は、サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなどの魚介類に寄生しています。元々は内臓にいるのですが、宿主が死んで時間が経つと、筋肉に移動してきます。見た目には白い、少し太い糸のようで、長さは2~3cm、幅は0.5~1mmくらいです。
(厚生労働省)
ここで対策として、「しめ鯖のように、酢でしめれば大丈夫でしょ」というのは、間違い。しめ鯖でもアニサキスによる被害は珍しくありません。
そのかわり、熱に弱いので十分に加熱(60℃以上で1分~)するか、あるいは冷凍庫(-20℃)で1日以上冷凍してしまえば死滅します。自分で釣った新鮮な魚でも、生で食べたければ、早めに内臓を取り除いていったん冷凍するのがおすすめです。また、お刺身なら薄く切るのもリスクを下げる工夫の1つです。
受診する際には、食事の「レシート」を数日分持参しましょう――なぜ?
細菌性の食中毒の症状は、嘔吐、下痢、発熱などです。
受診の際は、症状が出る前(3日程度前~数時間前)に食べたものが分かる飲食関係のレシートを持参しましょう。レストランなどのレシートであれば、単に食べた食品が分かるというだけでなく、食べたおおよその時間が分かります。
(TBS「ビビット!」2019年6月7日)
「来院された方で『お昼ご飯を食べてたら何だか気分が悪くなってきて、昼食の内容が悪かったんでしょうか』と仰る方も少なくないのですが、食中毒の場合は食べてから発症まで最短でも6時間かかります。細菌によって数日ほど経ってから症状が出るものもあります。そこで、前日までの何時ごろに何を食べたのか、といった情報が分かると、より適切な治療を受けられるのです」
「吐しゃ物は現物は感染性が高いので持参されなくてかまいません。また、吐しゃ物の写真をスマホなどで撮ってお持ちいただいてもかまいませんが、見た目だけで病原菌が判断できるわけではありませんので、必須ではありません」
「家にある抗生物質(残薬)などを勝手に飲むのは絶対にやめてください。例えばO-157 では、抗生物質によって腸内で死滅した細菌から毒素がばら撒かれて重症化させてしまうこともあります」
(TBS「ビビット!」2019年6月7日)
「食べるという行為は元来、少なからず感染症のリスクをはらんでいるものです。その可能性をどんどん排除して、あれも食べない、これも食べない、という選択はできますが、突き詰めすぎてしまうと、人生なんだか切ないですよね」
と久住医師。食べることは、人間にとって最大の楽しみの1つ。安心・安全を心がけて豊かな食生活を送りたいですね。
久住英二(くすみ・えいじ)